第16話
鍛錬所の人がいない所に来た俺達は少し離れて対面に立った。
今更だが、なんでガリベンくんは俺とやりたかったのだろう。
不自然な親切心に疑問を感じたが、どちらにしろ他に試し打ちをする相手もいなかったので丁度良かった。
「今から試し打ちをする。貰ったクリスタル以外での攻撃は一切禁止で、試し打ちの感触が終わるか、降参したら終わりだ。それでいいな平民?」
ん? 今何か変なところがあったような?
「ちょっと待て。降参ってどういう事だよ?たかが試し打ちに降参も何もないだろう。」
「うるさい! いくぞ!」
こいつもしかして……。俺をボコボコにする為に誘ったんじゃ……。
クリスタルを光らせ右手を前に出したガリベンくんが、
「くらえ!
「うぉっ!」
咄嗟に俺は横飛びで躱すとガリベンくんを睨んだ。
「てめぇ! 俺はまだ準備出来てねえんだよ!」
「いつでも準備出来ている闘いなどないだろう!
こいつ絶対わざとやってやがる!
ニヤニヤした表情で俺に向かって魔法を撃ってくるガリベンくんにイラッとして見返そうと魔力を流していく。
しかし、戦闘中に魔力を流すことが初めてな上、相手からの攻撃も躱しながらの作業。
思った以上に魔力を流せず苦戦していると、
「ほらどうした平民! お前が魔法を使わなければ終わらないぞ!」
こいつ楽しんでやがるな。
目にものを見せてやる!
ガリベンくんの魔法は必要な魔力量が少ないのだろう、次々と連発してくる。
しかし、直線的な動きの魔法で更にはどんな魔法が来るのか分かっているから避けるのは難しくはない。
俺が魔法を全て避けているのが苛立ったのかガリベンくんが、
「ちょこまかと。さっさと当たれ!」
いやいや、なんでわざと当たらないといけないんだよ。こいつ馬鹿じゃねえの?
自分の思い通りにいかずイライラしているガリベンくんを見て、貴族の坊ちゃんって短気なんだなと思った。
そうこうしている内に、俺もクリスタルに魔力を流し終え、クリスタルが光った。
やっと溜まったよ。さぁ反撃といこうか。
準備が整った俺は、魔法を避けながらガリベンくんに接近していく。
「くっ! 来るなぁ!」
「そんな攻撃当たらねえよ。」
どれだけ師匠と模擬戦をしてると思ってるだ。
これくらいの攻撃なら簡単に避けれるぞ!
ある程度接近し、そろそろ魔法を唱えようと考えているとガリベンくんの胸ポケットが急に光り、
「くそっ! これでもくらえ!
急に俺の足元が盛り上がり、そこから岩の棘が出てくる。
咄嗟に反応したが完全には躱すことが出来ず、俺の左足を切り裂いた。
「くそっ! てめぇ卑怯だぞ!」
「はははっ! 貴族の俺が平民如きに負ける訳にはいかないんだよ! これで終わりだ!」
倒れ込んだ俺にガリベンくんが魔法を放ってきた。
完全に直撃コースだと思ったのだろう。ガリベンくんはニヤリと笑い俺に当たるのを見ていた。そう、俺の魔法の事など忘れて。
「全員の魔法を記憶してるだと? 嘘つきめ!
俺が魔法を唱えると、俺の周囲に薄い膜が出来た。
ガリベンくんの魔法が膜に当たるとそのまま反射してガリベンくんに返っていく。
「うっ、うわぁ!」
完全に俺の魔法を忘れていたのだろ。
驚いたガリベンくんは回避する事も出来ずに自分の魔法が直撃した。
煙の中から出てきたのは、仰向けで気絶しているガリベンくんだった。
ぷっ。髪の毛がチリチリになってやがる。
「油断したのがお前の敗因だよ。ま、情けない姿を見せてくれたから今回はこれで勘弁してやるか。」
試し打ちも成功し、満足した俺はガリベンくんを放置して先に戻った。
元の場所に戻るとそこには、ボロボロになっているマルスがいた。
「お前、どうしたんだ?」
「聞かないでくれ。」
「ご、ごめんねマルスくん。少しやり過ぎちゃったみたい。」
セレスティアがマルスに謝っていた。
なるほど。セレスティアの召喚したドラゴンにボッコボコにされたんだな。
「全員試し打ちは終わったようじゃな。それじゃあ今日の授業はここまでとする。これから1ヶ月後の大演習までは、クリスタルの熟練度を上げる授業になるからの。それぞれサボらずに個人でも練習しておくように。後、あそこで伸びているやつは妾が医務室に届けておくのじゃ。」
そう言い、プリン先生は去っていった。
これで今日1日の全ての授業が終わったか。あ〜疲れた。
魔力の使い方も分かったし、さっさと寮に帰って飛斬の練習をしよう。
教室に戻り帰る支度を済ませると、他のクラスメイトと喋りながら戻ってきたマルスに、
「マルス! 師匠が待っているから先に帰ってるぞ。」
「あぁ分かった。また明日な!」
別れの挨拶を済ませ俺は教室を出ようと扉を開け外に出た。その時、
「きゃっ!」
「うわっ!」
女子生徒とぶつかり、ぶつかった女子生徒が倒れそうになっていた。
咄嗟に手を掴み、倒れないように自分の方へと引っ張った。
「悪い。大丈夫だったか?」
と、抱き寄せた女子生徒に声をかけると、
「え、えぇありがとう。ってあなた……。」
最近よく聞く声だと思いその女子生徒を見てみると、俺とぶつかったのはセレスティアだった。
うん。怪我がないようで良かった。
よく見ると、セレスティアの顔が赤くなっている。
もしかして、体調が悪いのか?
「おいセレスティア。顔が赤いけど大丈夫か? 熱があるんじゃないのか?」
少し心配になった俺は、セレスティアの額に手を当てて熱がないか確認した。
熱は無さそうだが、なにやらセレスティアが震えている。もしかしたら寒気があるのか?
「寒気があるのか? それなら早く帰って休まないといけないぞ?」
「……い。」
「ん? なんか言ったか?」
セレスティアがなにやら呟いているが、上手く聞き取れなかったので聞き直すと、
「気安く女子の身体に触ってんじゃないのよ変態!」
「ぶほっ!」
見事な平手打ちが俺の頬に飛んできて俺は吹き飛ばされた。
こいつめちゃくちゃ元気じゃん……。
村にいた時、ソフィアにする事はあったけどこんな平手打ちが飛んでくる事なんてなかったぞ。
鼻息を荒くして教室に入っていくセレスティアを見て納得がいかなかったが、触らぬ神に祟りなしって言葉もある。
俺は頬を抑えながら寮へと帰って行った。
☆
〜セレスティアside〜
今日の授業で頂いたフレアドラゴン。
まだ幼体だけどその力は凄かったわね。
予想以上の力で、マルスくんには少し申し訳なかったけど。
風属性のシルフとも相性が良さそうだし、何とかして同時召喚出来るように鍛錬をしないと。
同時召喚が出来るようになった時の為に、色々と戦略を考えていると前をちゃんと見ていなかったのだろう。
教室の扉が開くのを気付くのが遅れた。
そしてそこから1人の男子生徒が走って飛び出してきてぶつかってしまったので、
「きゃっ!」
「うわっ!」
と、思わず可愛い悲鳴を上げてしまった。
このままでは地面に尻もちをついてしまうと思った時、男子生徒が私の手を掴み引っ張ってくれた。
「悪い。大丈夫だったか?」
耳元で囁かれた声に少しドキドキしながら、
「え、えぇありがとう。ってあなた……。」
私を引っ張った人は、入学してから既に何度かぶつかっているアレクだった。
少しドキッとしたのが悔しかったが、改めてお礼を言おうとしたら私が彼に抱き締められている状態だったと気付き、羞恥で顔が赤くなる。
まだ家族以外に抱き締められた事なんてないのに……。
そんな事を考えていると、彼が私の額に手を当て、
「おいセレスティア。顔が赤いけど大丈夫か? 熱があるんじゃないのか?」
誰のせいで赤くなってると思ってるのよ!
今の状況を全く分かっていない馬鹿に怒りが込み上げ震えていると、
「寒気があるのか? それなら早く帰って休まないといけないぞ?」
本当に何も分かっていないのね。全然私を離さないし。
怒りと羞恥で上手く喋れず、彼には伝わらなかったようで、
「ん? なんか言ったか?」
そんな事を言われたので右手を振り上げ、
「気安く女子の身体に触ってんじゃないのよ変態!」
彼の頬にビンタをしてそう叫んでしまった。
綺麗に吹き飛んだ彼を見ても興奮が収まらなかったのか、ふーふーと鼻息を荒くしながら自分の席へと戻り座った。
彼を叩いた右手が熱い。
男性にビンタなんてした事がなかったので、今の私は相当興奮しているのだろう。
周りのクラスメイト達は、私に話しかけようとするが、まだ知り合って日が浅いのか一応王族の私に話しかけるのを躊躇っている。
学生の内は家柄は関係ないって先生も言っていたのに本当にもう。
少し落ち着いた私は、流石に助けてくれたのにビンタをしたのは申し訳ないと思い、彼を追って行った。
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