第15話


 「おぉ。凄い広さだな。」


 鍛錬所に着いた俺は、何よりもまずは広さに驚いた。

 他のクラスメイトも驚いているようで、皆声には出さないが驚いているようだ。


 「さぁて、魔法の実践をしようかのぉ。まずは入学祝いじゃ。」


 そう言うとプリン先生は、後ろに置いていた袋を前に出した。

 かなり小さいけど何が入っているんだ?

 お菓子でもくれるのかな?

 片手で持てる程度の小さな袋を持った状態で先生が、


 「この中にはクリスタルが入っておる。中身は完全にランダムじゃから公平じゃろ?お主たちに妾からの入学祝いじゃ。太っ腹じゃのう。むふふふ。」


 なんだろう。嬉しいのは当然なんだけど、先生の笑い方で全てが台無しになっている気がする。

 そう思っていると、急に真面目な表情になり、


 「運命に導かれしクリスタルよ。汝の求める場所はここにあり。自らの居場所を守るべく力を貸したまえ。……さぁ順番に並びんさい。」


 なんなんだ今のは。真剣な表情で唱えるプリン先生を見て俺達生徒は固まった。


 「あ、あの!」


 マルスが意を決して手を挙げた。


 「なんじゃ? お主からやるのか?」

 「それよりも、さっきの呪文のようなものはなんですか?」

 「あぁ今のかい? 今のは……。」


 ゴクリと誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた気がした。


 「ただのおまじないじゃよ? こう言っていればなんとなくいいものがもらえそうじゃろ? むふふふ。」

 「意味ないのかよ! 俺達の緊張を返せ!」

 「楽しみがないと生きていても詰まらんじゃろう?そんな事よりほれ、早く引かんか。」


 どうやら質問したマルスが1番に引くようだ。

 さて、何が出るかな?


 「よっしゃ引くぜ! おらぁ!」


 掛け声と共にマルスが引いたのは、


 「ほほぅ。この大きさは中級じゃな。どれどれ、こっちの鑑定機で調べてやろう。」


 プリン先生がマルスからクリスタルを預かり鑑定すると、


 「これは……。無属性の速度強化ヘイストじゃな。使用すると一定時間自分の速度が上がる単純じゃが良い魔法じゃ。」

 「いよっしゃあぁぁぁ!」


 マルスがガッツポーズでうるさいくらいに叫んでいる。

 速度が上がるのはトンファー使いのマルスにしたらかなり有効な魔法だな。


 「これが終わったら各自クリスタルの付与をするから、付与して欲しい武器か装飾品を選んでおくのじゃぞ〜。ほれ、次の者。時間に余裕はないんじゃから次々と来る!」


 プリン先生の指示により次々と生徒達が引いていく。

 マルスと同じように喜んでいる人もいれば、がっかりしている人もいる。そんな中、


 「「「おぉ!」」」


 セレスティアが引いた時に驚きの声が上がった。

 何を引いたのか気になったのでよく見ると、明らかに他の生徒達よりも大きなクリスタルを手に持っていた。


 「さすがは姫じゃのう。どれ、鑑定するから貸してみい。」


 プリン先生が鑑定した結果は、


 「これは火属性の召喚獣、フレアドラゴンのクリスタルじゃな。もちろん幼体じゃがのう。お主の鍛錬次第でクリスタルの熟練度を高めていけばいずれは成体になるじゃろ。頑張るんじゃな?」

 「わかりました。ありがとうございます。」


 セレスティアが元の場所に戻って歩いていると、周囲から凄いだのさすがは姫だのと囁く声が聞こえた。

 いやいや、完全にランダムならたまたまだろ?

 俺は楽観的にそんな事を思っていた。


 「もう全員引いたのかのぉ?」


 さて、俺もそろそろ行かないとダメだな。

 気が付いたら俺以外の全員が引いている状態だったので、急いで手を挙げた。


 「お主まだ引いてなかったのか。早う引け。」

 「すいません。行きます。」


 俺は袋の中に手を入れクリスタルを探した。

 結構中は広くなってるんだな。

 そんな事を感じながら、手に感触があったのでそれを握りしめ袋から手を出すと、先程のセレスティアと同じくらいの大きさのクリスタルが手の中にあった。


 「おい見ろよ。あいつも凄いのを引いてるぞ。」

 「いいよなぁ。」


 周囲から羨ましがられながらも、中身が使えない魔法だったらどうするんだよと内心文句を言い返した。

 プリン先生に渡して鑑定してもらうと、


 「ほほぅ、この魔法はまた癖のある魔法じゃなぁ。お主の引いた魔法は、無属性の反射魔法リフレクじゃ。魔法を反射する魔法じゃな。無属性の中では上級に位置しておる魔法じゃ。良かったのぅ。」


 おっ、これってもしかして当たりなのかな?

 周囲から羨望や嫉妬の視線に晒されているが、そんな事を気にする前に俺はどうしても気になる事があった。


 魔力の使い方……分からねえ。

 もしかして魔力は使えて当たり前だから授業でも教えないとかなのか?

 少し焦った表情でプリン先生の方を見ると、


 「なんじゃそんな変な表情をして? もしかして、魔力の使い方が分からないって所かのう。今から説明するから安心せい。」


 その言葉を聞き俺は安心した。

 元の位置に戻るとマルスがやって来て、


 「やったなアレク! いいクリスタル引いたじゃねえか。」

 「そうだな。後はこれを使う魔力が俺にあるかどうかなんだけど。」

 「使えなかったら最悪だな。その時は笑ってやるから安心しな。」

 「いや、笑うなよそこは。」


 そんなやり取りをしていると、片付けを終わらせたプリン先生がやって来て、


 「それじゃあ各自クリスタルを持って新しい魔法の試し打ちをするぞい。魔力の流し方はわかるかえ? 魔力とは、お腹の下にある丹田とゆう所に溜まっていると言われておる。初めはそこに意識を集中して魔力を感じ取るのじゃ。魔力を感じ取れたら、全身にそれを流すイメージをする。自分の分かりやすいイメージで流してみることじゃな。因みに妾の場合は、血液に魔力を乗せて流しているイメージじゃ。」


 先生に言われた通り集中してみると、確かにお腹の下の方に何かが溜まっているのが分かる。これが魔力なのかな?

 魔力らしきものを感じ取った後は、それを全身に流していく。おっ、身体がポカポカしてきたぞ。これでいいのか分からない為、マルスの方を向くと、マルスも頭を傾けているのでよく分かっていないようだ。

 先生が1人ずつ全員を見て回っていると、うんうんと頷き、


 「どうやら全員出来ているようじゃな。それじゃあ次はクリスタルに魔力を流し込むのじゃ。正常に流し込めればクリスタルが光るから全員やってみい。」


 そう言われ全員がクリスタルを手に持ち魔力を流していく。そうすると、次々とクリスタルが光り出していく。俺も集中して流していくと、やっと光った。そして光った後に、頭の中に魔法名が浮かんできた。これを唱えろっていう事なのかな?


 「クリスタルが光ると頭の中に魔法名が浮かんでくるじゃろ? それがそのクリスタルの中に刻まれている魔法じゃ。因みにクリスタルに流す魔力量は、大きさによって変わるからのう。上級魔法以上のクリスタルになるとそれなりの魔力量を流さないと光らんぞ。」

 

 なるほど。結構魔力を流し込んだのは俺のクリスタルが大きいからか。

 一部の生徒を覗いてほとんどの生徒は初めてクリスタルに魔力を流したのだろう。少し興奮しながら説明を聞いているようだ。

 先生がパンっと手を叩き、


 「それじゃあ試し打ちをするとするかのう。2人ずつ立って魔法の撃ち合いをせい。」


 え? 魔法を撃ち合って試すの?

 まぁ対人戦もあるだろうから、人に向かって撃つこともあるだろうけど今撃ってもいいのか?

 生徒達がザワついていると、


 「もし怪我した場合は、妾が回復魔法を唱えてやるから安心するのじゃ。」


 その言葉を聞き安心したのか、生徒達は2人組を組んで試し打ちの準備をしていく。

 俺はマルスとするかと誘おうとすると、


 「おい平民。俺と試し打ちをするぞ。」


 ガリベンくんが俺に声をかけてきた。


 「嫌だよ。なんでお前としなきゃならねえんだ。」

 「馬鹿か貴様。どうせ相方の平民とするつもりだったのだろうが、どちらも攻撃魔法じゃないのにどうやって試すんだ?」


 な、なるほど……。

 確かにガリベンくんの言う通りだ。

 俺はリフレク。マルスはヘイスト。

 どちらも攻撃魔法じゃないからお互いの魔法を確かめる事が出来ない。

 言い方は頭にくるが、こいつの言っている事が正しいと思い、


 「わかったよ。お前は攻撃魔法なのか?」

 「本当に何も考えていない馬鹿だな。普通に考えて他人の魔法を知っておくのは闘いで有利に立つために必ずやっておくことだ。俺は全員の魔法を記憶している。」


 こいつ案外真面目なんだな。

 俺は驚いた表情をして、ガリベンくんに拍手をした。

 そこにマルスがやって来て、


 「いやアレク。今こいつが言ったことは普通の事だから。確かに全員の魔法を覚えておくのは凄いと思うが、俺でも特徴的な魔法を引いた奴は覚えてるぞ?」


 そ、そうだったのか。

 俺もこれからはそうしよう。


 少しガリベンくんを見直していると、親指で人がいない所を指差しており、


 「あそこでやるぞ平民。お前如きに上級魔法など扱えないという事を教えてやる。」

 「はっ! 嫉妬でもしてるのかガリベンくん。」

 「お前は何回人の名前を間違えたら気が済むんだ! ガリベンではない! ガリオンだ!」


 ガリベンくんが怒りながら先程指を差した場所へと歩いていく。

 じゃあ俺もしっかり試し打ちを成功さすとしましょうかね。

 首を鳴らしながら俺はガリベンくんの後を追った。

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