第9話
「それでは試験を続ける! 次はそこの女子! うぬっ!?」
ブランクさんが驚いた表情をしている。今呼ばれた女の子はブランクさんの知り合いなのだろうか。
気になって見てみると、女の子と目が合った。そして、
「「あぁ〜!!!」」
俺と女の子は同時に指を指した。
「あの時の迷惑女! てめぇ受験生だったのか!」
「あの時の犯罪者! なんであなたがここにいるのよ!」
「誰が犯罪者だよ! 原因はお前だからな!」
俺と女の子が睨み合っていると、ブランクさんが一度咳をして、
「おほん。どういった経緯かは知らんが試験中に私語は慎むように。それと、何故あなたがここにいるのですか?」
「別にいいでしょ? 私も昔から憧れていたソルジャーになりたくて学園を受験したのだから。」
「はぁ。ご両親がなんと言うか。まぁいいでしょう。やるからには手加減はしませんぞ。」
ブランクさんが構え戦闘準備を終わらせる。
女の子も構え、
「私は誰よりも前で多くの国民を守るのよ!」
「始め!」
戦闘開始の合図と共に、ブランクさんは白虎を召喚した。
対する女の子は、武器を持っておらずこのままでは襲われそうだ。
「危ない! 避けろ!」
俺は思わず叫んだが、女の子は動じることなく、
「うるさいわね! 見てなさい!」
女の子は左手を上に上げ、
「白虎相手にはこの子よ! 来なさいシルフ!」
まさか……。
女の子が叫んだと同時に左手が光り、その中から小さい女の子が現れた。
この女も召喚士なのか!
「さぁ行きなさいシルフ! 敵を吹き飛ばすのよ!」
シルフと呼ばれた小さい女の子が何やら呟くと、突然突風が発生し白虎を吹き飛ばした。
ブランクさんは顔を腕で隠し、
「うぬぅ! さすがは風の精霊。我が友を吹き飛ばすとは……。やりますな、セレスティア様。」
「当然でしょ。私は精霊に愛されているのだから。」
腕を組み自信満々な表情で胸を張る女の子。
セレスティアって呼ばれていたな。
まぁそれはいいとして、戦闘を見よう。
再び戦闘に目を向けると、白虎が何度も飛び出し襲いかかっているが、シルフが風を出し上手に対応している。
白虎の対応をシルフがしている間に、セレスティアはダガーを構えブランクさんに向かって走っていった。
「従魔がいなければ召喚士の戦闘力は大した事ないのよ! これで終わりよ!」
白虎も抑えられこのままセレスティアが勝つかと思ったが、ブランクさんがニヤリと笑い、
「甘いですぞ! いでよ我が友ミノタウロス!」
いつの間にか持っていたクリスタルを掲げ叫び、ミノタウロスと呼ばれた牛の魔物を召喚した。
「ブモォォォ!」
ミノタウロスは持っていた斧をセレスティアに振り下ろす。
「きゃっ!」
ミノタウロスの攻撃をなんとか防いだが、セレスティアは吹き飛ばされてしまい尻もちをつく。
その隙にブランクさんは、セレスティアの首を掴み持ち上げた。
息が出来ないセレスティアはバシバシとブランクさんを蹴るが、全く効果はないようで次第に蹴らなくなりブランクさんの腕を何度か叩いた。
「そこまで!」
先輩の掛け声が響き、ブランクさんは腕を降ろし掴んでいた手を離した。
咳込んでいるセレスティアの前に立ち、
「セレスティア様。我輩の白虎を止めるまでは良かったですが、最後のつめが甘かったですな。召喚士としての歴が長い人にはこうやって複数の従魔を同時に使役する者もいるのですぞ。」
「わかったわよ。次は負けないから。」
そう言い残し、セレスティアは元の場所に戻った。その時、俺以外の受験生達がセレスティアに向かって跪いていた。
俺は訳が分からず周囲を見渡しているとブランクさんが、
「そこの男子! この方をご存知ないのであるか?」
「え? 知りませんけど。」
「とてもこの国に住んでいる者とは思えぬ。この方は……。」
「別に紹介なんていいわよ。そんな肩書きがあったって馬鹿が騒ぐだけだわ。」
俺の方を見ながらセレスティアは馬鹿にするような視線を向けてきた。
誰が馬鹿だと? ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって。
俺が反抗的な目で見返すとブランクさんが、
「まあまあ2人共。もしかしたら同期になるのかもしれんのだから仲良くだぞ。ではそこの男子。ついでに次の試験はお主だ。」
ちゃんと順番など決めていないのだろう。思いついたように俺を指名してきた。
やっと呼ばれたか。今のイライラをぶつけてスッキリしてやる!
俺はブランクさんの前に立つと早速武器を構える。
「ほほぅ。中々良い構えではないか。楽しみにしているぞ。」
「アレク君頑張ってくださいまし。それでは始め!」
戦闘開始の合図と共にブランクさんが白虎を召喚した。
白虎は一度吠えてから俺に突進してくる。
「ふぅ~。」
呼吸を深く吐き、冷静になると白虎の動きを読み横に飛んで避けた。
白虎はすぐさま方向転換し、俺に向かって飛び込んでくる。
「我が友の攻撃をそんな簡単に避けれると思わんことだ!」
ブランクさんの言う通り、白虎の攻撃は野生の獣と同じようにシンプルだがそれ故に避けにくい。
落ち着け。今は相手の攻撃を見極めるのに集中しろ。
師匠の攻撃に比べたら遥かに遅い為、なんとか付いていけている。
そして、しばらく攻撃を避け続け白虎の攻撃パターンをある程度把握すると、剣を構え直し気合いを入れた。
それがブランクさんにも伝わったのか、
「避ける時間は終わりか。何を仕掛けてくるのか楽しみにしているぞ。我が友よ! 何か仕掛けてくるぞ!」
「ガアァァァ!」
白虎も気合いを入れ直したのか、一度大きく吠えてから飛び込んできて爪を振り上げた。
そこだ!
俺は姿勢を低くしあえて白虎の下に潜り込もうと駆け出した。
振り下ろされる爪をギリギリで躱し白虎の真下に潜り込む。そしてそのままの体勢で剣を上から弧を描くように振り白虎の下腹を切り裂いた。
「グギャァァ!」
お互いがすれ違った後に聞こえたのは、白虎の悲鳴だった。
そこまで深く切った感触はなかったが元々下腹に肉はあまりついていなかったのだろう。
白虎は着地に失敗しそのまま倒れ込んだ。
「よし!」
危険な賭けだったが見事に成功した俺はガッツポーズをした。
「お主やるではないか! だが、まだ戦いは終わっておらん! さあいけミノタウロスよ!」
次に召喚されたミノタウロスが斧を振り上げこちらに迫ってくる。
俺は気持ちを切り替えてミノタウロスに備えた。
振り下ろされた斧を避け傷を付けていく。
そこまで深い傷はないが少しずつダメージを与えていっており、その証拠にミノタウロスが苛立っている。
そして一撃で勝負を決めようとしたのか、ミノタウロスが大振りになった。
よし! ここで決める!
勝負所と判断した俺は、剣を持つ手に力を込めミノタウロスに斬りかかった。
お互いの攻撃が交差しようとしたその時、
「我輩を忘れてもらっては困るぞ!」
なんと、ブランクさんが突撃して来た。
思わぬ伏兵に意識を一瞬そちらに向けてしまいミノタウロスへの反応が後れてしまう。
交差して斬るつもりがミノタウロスの斧と接触してしまい剣が弾き飛ばされる。
「くっ。」
両腕が上に伸ばされガード出来ない状態になりブランクさんに接近を許してしまう。そして、ブランクさんが俺の前に立ち姿勢を低くすると、
「くらえ我輩の拳を! アルティメットアッパー!」
何やら変な技名を叫びながらブランクさんは俺の顎に下から上に拳を振りぬいた。
「がはっ!」
まともにくらった俺はパンチの衝撃で宙に浮き、受け身をとれず背中を強打した。
「吾輩の勝ちである!」
薄れゆく意識の中最後に聞いたのは、ブランクさんが拳を上に上げ勝ち名乗りをした叫びだった。
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