第8話
「そこまで。問題用紙と答案用紙を回収しますわ。皆さん動かずにお待ちになって。」
やっと全科目の試験が終わった……。
ぶっ通しで続ける試験って結構大変だったわ。
辺りを見渡すと、他の人も同じような感じなのかぐったりしている。
試験の出来を思い出すが、出来ているとは思うが、あんまり自信がない……。
まぁ終わった事だし後は信じるのみ!
全ての用紙を回収したのだろう、エリス先輩が教壇に戻り俺達を見渡すと、
「それでは今から1時間、お昼休憩になりますわ。今からちょうど1時間後に、ここの教室に集合してください。」
そう言い残し先輩は去っていった。
さて、昼からは実技だ。早く昼食を食べ終わって昼からに備えないとな。
昼食はミズハさんが弁当を作ってくれており、他の人達のように食べに向かわず中庭のような所で食べることにした。
近くにあったベンチに座り弁当の蓋を開けると、色とりどりの美味しそうな食材達が見えた。
こ、これは美味そう……。
一度、喉を鳴らしてから一口食べると、予想通りの美味しさであっという間に食べ終わった。
昼食も済ませた事だし、どうしようか?
しばらく考えたが、何かいいアイディアが浮かぶ訳でもなかったので大人しくベンチの上で横になり、昼寝をする事にした。
あぁ〜、いい天気だな。
暖かい気候と睡魔に負け、俺は目を閉じた。
☆
周囲から音が聞こえ目を覚ますと、昼食を食べ終わった人達だろう何人もの人が武器を片手に準備運動をしていた。
「う〜ん。俺も起きて身体でも動かすか。」
「受験中に昼寝をするって余裕だなお前。」
立ち上がり身体をほぐしていると、隣から声をかけられた。
声がした方向を向くと、1人の男子生徒が手を振り笑っていた。
「よぉ。俺はマルスって言うんだ。同じ受験生同士よろしくな!」
「はぁ。俺はアレクだ。何の用だ?」
急に声をかけられ生返事で返した俺は、マルスに用事を尋ねた。
すると、マルスは両手を振り、
「いやいや、特に深い意味はねえよ。ただ、大事な試験中に昼寝が出来るアレクの事が面白くて声をかけたんだ。」
深い意味は無いらしく、単純に俺に興味があって近付いて来たようだ。
見た目通りの明るそうな奴だな。
マルスの第一印象は、好青年の見た目通りに気さくな人物のようだ。
マルスは笑顔で俺に近付き、
「見たところ知り合いもいないだろ? まぁ俺も平民で、他に知り合いが誰にもいないから声をかけやすそうなお前に喋りかけたんだよ。」
「そうか。じゃあ準備運動しながらになるけど軽く話でもするか。」
「おっ! 話が分かって良いねぇ。」
ちょうど俺も暇していたから良かった。
試験の時間まで俺達は世間話をして過ごした。
「じゃあ俺の教室は向こうだから行くわ。お互い試験に受かってまた会おうぜ!」
「おぉ、頑張ろうな。」
マルスは聞き上手で話し上手なのだろう。準備運動の邪魔にならないように話を続けてくれて会話が弾んだ。
あいつには受かって欲しいなぁ。その前に、俺が受からないといけないんだけどな。
そう思いながら俺は、教室へと戻っていった。
☆
「それでは、今から実技試験を説明しますわ。一度しか言わないのでよく聞いておくように。」
試験の時間になりエリス先輩が戻って来ると、実技試験の説明を始める為に教壇に立った。
「今から行う実技試験は、この学園の教師と手合わせをしてもらいます。合格基準ははっきりとは言いませんが、必ず勝たないといけない。という訳ではありませんわ。皆さん頑張ってくださいまし。では試験場へ移動しますわよ。」
移動するという先輩の言葉に受験生達は立ち上がりついて行った。
さてさて、どんな人と立ち会うことになるんだろうな。
少しワクワクしながら俺はついて行った。
10分程歩くと、先程昼食を食べた中庭のような所に到着し、先輩は俺達の方に振り向いた。
「ここが試験場ですわ。他の教室で受験をしていた片達もいてるので騒ぎすぎの時は私が注意しますわよ。」
そう言い残し先輩は、試験場へと入っていき姿を消した。
うおっ! 先輩が消えたよ!
周囲の受験生と同じく俺は驚いた表情をし中庭をよく観察した。
すると、近くから声が聞こえてきて、
「転移魔法だよあれ。中はどうなってるんだろう?」
なるほど。転移魔法ってのがあるんだな。
新しい発見に納得しつつも中庭の扉へ視線を向けた。すると、次々と受験生達が中に入り転移していく。
俺も人の流れに逆らわず、入っていった。
☆
中に入り辿り着いた所は中庭ではなく、辺り一面に草木が全く生えていない荒野だった。
一体こんな所でどんな試験があるのかと考えていると、受験生達と一緒に転移して来たエリス先輩が、
「今からここで実技試験を行いますわ。試験官の方がもうすぐ転移してくるので試験内容については本人に聞いてくださいな。」
エリス先輩の説明が終わると同時に俺達の前方が光り、そこから1人の男性が現れた。
男性は俺達を一通り見渡すと、
「吾輩が試験官のブランクである! ふんっ!」
掛け声が聞こえるとブランク試験官は急にポージングを行いそして、自分が着ていた服を弾き飛ばした。
「「「きゃー!!!」」」
女子の方から悲鳴があがると、ブランク試験官は豪快に笑い、
「ぶははは! 漢たるものこれくらいは出来て当然! さぁ! 試験を始めるぞ!
ふんぬ!」
違うポーズに変わりながら訳の分からない事を言っている。
普通の男にそんなこと出来る訳がねえだろうが。
俺は心の中でツッコミを入れるが勿論試験官に届くはずもなく、様々なポーズに変えながら話を進めた。
「今から実技試験を始める! 内容は我輩と手合わせをする事。実践での動きを見て合否を判断するのである! まずは、お主から来い!」
近くにいた男子生徒が指名され、試験官の前に立った。
「審判は私がしますわ。それでは両者構えて。」
男子生徒は急いで剣を構え戦闘態勢をとると、ブランク試験官……ブランクさんでいいか。ブランクさんは胸ポケットに手を入れ何かを取り出した。
両者を見た先輩は手を振り下ろし、
「それでは始め!」
開始の合図と共に男子生徒が突っ込んでいく。
あの身体だから接近戦は得意そうだな。
俺もブランクさんと戦う為のイメージを膨らませていると、
「いでよ我が友!」
そう叫ぶと、ブランクさんの右手が輝き出し手の中からガラスのような球体が浮かび上がった。そして次の瞬間、
「ガアァァァ!」
光の中から白い体毛の獣が現れた。
え? ブランクさんって武闘派じゃないの?
恐らく俺と同じような疑問を抱いたのはそれなりにいるだろう。
対戦相手の男子生徒も驚いたのか、一瞬動きが止まってしまい獣に組み伏せられてしまった。
先輩が手を上げ、
「そこまで!」
あっという間に1人目が終わってしまった……。
ブランクさんは胸を張りながら、
「がははは! どうだ我が友白虎の力! 我輩の肉体に騙されたな? 我輩は武闘家などではなぁい! 我輩のジョブは召喚士である!」
嘘だろ……。あの身体で召喚士って。
召喚士とは、契約した従魔をクリスタルを媒介にして呼び出す事が出来る者の事を言う。
まぁ、ここに来る道中に行商人の人から聞いただけの話なんだが。
従魔を扱う事の困難さから、かなり数が少ないって聞いたが、さすがはセントラル学園。
ちなみに、ジョブと言っていたがどこかで職業を選ぶとか変な事をする必要はなく、ただ自分が何の使い手か名乗る時に言いやすくする為に使う言葉なだけだ。
俺なら、剣を使っているから剣士っていうジョブになるんだろうな。
こんな事を考えている内に、次々と受験生達と手合わせをして倒していくブランクさん。
試験だからって手加減とかはないのかね?
若干ジト目で見ていると、次の手合わせの前にブランクさんが腕を組み、
「お主達は試験に合格したら晴れてセントラル学園の生徒となる。生徒になると言う事は、自動的にクラスソルジャーに任命され国に仕える事になる! だから我輩も試験だからといって手を抜く事はせん! お主達からしたら我輩は格上だろうが、実践では格上と戦う事などざらにある。真に国を想い、この首都の人達のみならずこの国の人達を守る気概が無い者は今すぐここから立ち去れい!」
ブランクさんが俺達に向かって叫んだ。
そうか。この試験に合格すれば俺もソルジャーなんだ。それなら試験の難しさにも納得出来る。
俺達に喝を入れる為に放った言葉は、俺の中にすぅっと入ってきた。
ポージングがなければ感動したのに……。
周囲を見渡すと、困惑している人が大半だが、俺と同じで闘志に火がついた者達もいる。
困惑している人達の前にエリス先輩が立つと、
「今のブランク教官の言葉に困惑している者は今すぐ立ち去りなさい。ソルジャーとは、常に生死が付き纏う仕事ですわ。自分の実力に自信がなければ早死にするだけですわよ。帰るならば転移門をくぐりなさい。」
その言葉を聞き困惑していた者達は次々と転移して行った。
残ったのは俺を含めて数人。
ブランクさんが頷きながら、
「うむ! 今残った者達は精神面では合格だ。後は、そこに実力が伴うかどうか! さて、試験を続ける!」
学園に入る為、ソルジャーになる為の最後の試験が再開される。
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