第7話
「お兄さん朝だよー!」
元気なかけ声と共に、ビスタちゃんが部屋へと起こしに来てくれた。
「う〜ん。ビスタちゃんおはよう。」
「おはようお兄さん!食堂で朝ごはんの用意しておくね!」
そう言うとビスタちゃんは走って食堂へと向かって行った。
朝起こしてくれるのは嬉しいんだけど、まだ明け方だよビスタちゃん。
毎朝鍛錬をしているから俺の起きる時間は結構早い方なんだけど、それよりも早く起きて朝食の用意をしてくれる。昨日、ビスタちゃんが起こすと言ってくれてたのは冗談じゃなかったのか。
着替えを済ませ木刀を持って降りると、ビスタちゃんがテーブルに朝食のパンを用意しながらニコニコとしている。
席に座りパンを一口齧ると、一度温め直してくれたのか暖かくて美味しかった。
ビスタちゃんの方を向き笑顔で、
「とっても美味しいよ。ありがとうビスタちゃん。」
「どういたしまして! 練習頑張ってね!」
そう言い残し、ビスタちゃんは食器を片付けに厨房へと消えていった。
席を立ち木刀を持った俺は、そのまま庭先へと向かった。
庭に着くと、基本の構えから始め、素振りをしていく。
うん。今日の調子は良い感じだ。
気を付けていた体調不良などにはならず、素振りをした感覚ではとても身体が軽い。
今日の試験の準備は出来た。後は、少し早めに行って最後の試験勉強でもするか。
鍛錬が終わり食堂へと戻ると、ミズハさんが食事の用意をしており、ビスタちゃんは食堂の掃除をしていた。
戻って来た俺に気付いたビスタちゃんが駆け寄って来て、
「お疲れ様! ご飯先に食べる? それとも部屋に戻る?」
「汗かいてるから一回戻って着替えてくるよ。」
「わかりましたー! 着替えたら朝ごはん食べる?」
「そうだな。頂こうかな。」
「はーい! おかあさーん! お兄さんが朝ごはん食べるってー!」
ビスタちゃんがミズハさんへと叫びながら走って行く。
本当に元気だなあの子は。さて、着替えに行こう。
部屋に戻り軽くシャワーを浴びて清潔にした後、服を着替え食堂の席に着いた。
しばらく席で待っていると、ミズハさんとビスタちゃんが食事を運んできてくれた。今日の朝食は、先程とは違うパンとサラダだった。うん、美味い。
すぐに朝食を食べ終わり、学園へ向かう準備が完了すると、
「今日の試験頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます。頑張ってきます!」
「お兄さん頑張ってー!」
2人からの暖かい声援を受けながら俺は和み亭を後にした。
天気は快晴、体調もばっちり。
よし! 行くか!
☆
今回は、道中特に問題もなく学園に辿り着いた。
この前みたいにトラブルに巻き込まれなくて本当に良かった。あぁ、思い出すだけであの女には腹が立ってくる!
気を取り直して校門をくぐり、一昨日師匠と行った受付場所へと向かい、試験会場の行き方の説明を聞きに行く事にした。
受付場所に到着すると、大勢の人が集まっておりかなり混雑している。
場所が分からない人達がここに集まってきて聞いてるのだろうか?
受付場所に人が並んでいる様子がなかったので、隙間をスルスルと抜け辿り着いた。
受付に立っていた女子が苦笑しながら、
「ここまで来るの大変だったでしょ。それで? どうしました?」
「あ、あの! 試験会場ってどこですか?」
その質問をするとクスクスと笑われ、
「集合場所がここで、時間になると担当の人が案内してくれますわよ。」
「あ、ありがとうございます。」
それじゃあここまで頑張って来た俺の苦労は……。
頭をガクッと下げ落ち込んでいると、
「ねぇねぇあなた。どこから来たの?」
ん? と、振り返ると、受付の女子が笑いながら俺に声を掛けてきた。
こ、これってもしかして逆ナンと言うやつでは!
ドキドキしながらも俺は、
「お、俺はソゴ村っていうかなりの田舎からやって来ました、」
「ソゴ村……。ごめんなさい、ちょっと場所が分かりませんでしたわ。」
「いえいえ。田舎なんで仕方ないですよ。」
「ふふっ。君は優しいですわね。なんてお名前なの?」
「俺はアレクって言います。あの、先輩の名前は?」
「私はエリスって言うわ。クラスはナイトですの。それにしても先輩……。なんて良い響きなんでしょう!こんなカッコいい男の子から呼ばれると顔がニヤけてしまいますわ。」
ちょっと変わった口調のエリス先輩がいきなり叫んで恍惚とした表情をしている。
この人近付いたら危ない系の人なのか? さすがにこの人からの逆ナンは嫌だなぁ。
苦手なタイプだと気付いた俺は、少しずつバレないように後ろに下がって行くが、
「あぁ! アレク君行かないでくださいまし。せっかくのお話なのに途中退席は許しませんわ。時間までお話しましょ。
と、止まらない……。
エリス先輩がお喋り好きなのは充分伝わったからそろそろ終わってくれ……。
「ちょっとアレク君? レディーの話はちゃんと聞いてくださらないとダメですわよ?」
「あ、はい。」
「私も立場上あまり自由に行動が出来ないのですわ。だからこういう時くらいは……。」
「皆さんおはようございます。今日の試験担当のグレイシアと言います。よろしくお願いいたします。」
「エリス先輩すいません! 試験が始まったので行ってきます!」
待ちに待った試験官が到着したのを確認した瞬間、俺はダッシュで先輩から離れた。
後ろから、またお喋りしましょうって聞こえる気がするが、気のせいだきっと。
試験官の話をしっかりと聞くために、出来る限り前の方へ進んだ。
なんとか試験官が見える位置まで来ると話し声が続けて聞こえてきた。
「それでは、まずは筆記試験の会場へ移動します。名前を呼ばれた人は返事をしてください。その後、補佐官が案内するのでそれに着いて行ってください。まずは……。」
次々と名前が呼ばれていくが、もちろん知り合いなんていないんで話半分に聞いていた。
せっかく早く来れたから試験勉強をギリギリまでしたかったのに。
心の中で悔しがっていると、
「次。……。……。アレク。」
「は、はい!」
呼ばれたので前に行き補佐官の所へと行くと、まさかの補佐官がエリス先輩だった。
おおよそレディーとはかけ離れたニヤケ顔を隠し切れておらず、少し遠くから見ても喜んでいるのが伝わってくる。
先輩が少しだけ顔を引き締めると、
「では試験場へ案内しますわ。しっかりと着いて来てくださいまし。」
そう言い、先輩は先へ進んで行った。
呼ばれた人達や俺は先輩に着いていく。
歩いて5分程経った頃、目の前には教室だと思われる部屋があった。先輩は扉を開け、
「ここが試験場ですわ。皆さんお好きな席に座ってくださいな。えぇ、お好きな席に。」
待って待って。俺の方を見ながら言うのはやめてください。
極力目線を合わさないように歩き、教室の中に入る。
教室の中は予想していた以上に広かった。
俺は辺りを見回し空いている席を確認すると、後ろの方と最前列の席が空いていた。
後ろに行こうと歩いて行くと、後ろから何やら目線を感じる。
恐る恐る振り向くと、先輩がジト目でずっとこちらを見ているではないか。
恐らく前の席に座れと言いたいのだろう。
なんてわかりやすい人なんだ。
これじゃあ試験中にあのジト目で見られ続ける可能性がある。
そんな事されたら、試験に集中出来ないよ!
嫌な予感がしたので、大人しく最前列の席に座った。そうすると、ジト目だった先輩があっという間に笑顔に変わった。
そして、全員座ったのを確認すると先輩は中央の教壇に立ち、
「皆さん改めておはようございます。私は補佐官のエリスと申します。挨拶はこれくらいにして、さっそくですが問題用紙と答案用紙を配りますわ。」
そう言ったエリス先輩は、手際良く配っていく。
そして、俺の前に立ち紙を置いた時一瞬だけだが笑顔を見せた。
あれ? これって別に後ろでも良くない?
疑問に思ったが、今から試験なんだ。しっかりと集中しよう。
全員に配り終わったのだろう。先輩は教壇に戻り、
「さて、では今から5分後に試験を始めます。教科は国語、数学、歴史、魔法学、教養の5科目ですわ。皆さん頑張ってください。ちなみに試験は続けて行いますので、何か用がある方は手を上げてくださいまし。では、ちょうど時間になりましたので試験を始めてください。時間は各科目50分とさせていただきます。」
説明が終わった後、いきなり試験が開始された。
時間の配分を考えて喋ってくれ!
俺は急いで問題用紙を見て記入しだした。
とりあえず絶対に受かってやる!
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