第10話

 ~セレスティアside~


 先日街中で偶然会った男子……確か名前はアレクと呼ばれていたわね。そいつとブランクの試合が始まった。

 この前はちゃんとした戦闘を見る前に、警務隊が来て逃げ出したから見れなかったけどどれ程か見ておかないと。

 もし警務隊に捕まったら確実に家に帰らされるからその点では身代わりになってくれて助かったわ。


 戦闘が開始され、白虎が襲い掛かっている。あいつは今の所反撃をせずに回避する事に専念している。

 しばらくの間、回避ばかりしていて攻撃を全くしていない様子に他の受験生達の一部からヤジが飛んでいた。


 「避けるしか出来ないのなら早く降参しろよ。」

 「攻撃するのが怖いとか?」

 「ぎゃはは!臆病者はさっさと帰れー!」


 下品な人達ね。

 今の状態を見てヤジを飛ばしている人達は恐らく受からないだろう。

 あいつが意味なく回避しかしていないとしか見れていないのだから。


 私を含め何人かの受験生は、あいつが回避するタイミングがギリギリになっていっているのを分かっている。

 ブランクもいい機会だと思ったのか、私達の方へ何度か視線を向け観察している。

 上手く試験に利用されちゃって。あのバカ!

 心の中で悪態をついていた私だが、戦況が変わりそうな雰囲気になったことで集中して見ることにする。

 さぁ見せて頂戴。あんな街中でカッコつけるくらいなんだから自分には自信があるのでしょう?

 もし、大した事ない実力なら思いっきり文句言ってやるんだから!

 そして、白虎を倒しミノタウロスと互角に戦っているあいつを見て周囲のヤジは自然と消えていった。

 このまま勝つのでは? そんな空気を出し積極的攻めていくが、ブランク本人から変な技名のパンチを顎にもらい気絶した所で、


 「勝負あり! あぁ! アレク君~!」


 審判をしていたエリスという試験官の助手が試合終了の合図を出すと、勢い良くあいつに向かって走り出した。

 周囲は一瞬でも勝てるかもという期待をしていた分、残念そうな雰囲気を出している。


 クラスソルジャーにもなっていない奴が、手加減しているとはいえクラスナイトのブランクに勝てる訳ないでしょうに。

 ……いや。そんなことを考えていては上は目指せない。


 私は今の考えを消し去り向上心を忘れないようにした。

 額の汗を拭ったブランクは、


 「中々楽しい立会であった。さぁ次はお前だ!」


 あいつが運ばれてからも試験は続き、陽が傾き始めた頃ようやく全員の試験が終わった。


 「これにて試験は終了とする! 合否の結果は明日、受付場所で張り出されるのでしっかりと確認するように。では解散!」


 ブランクがそう言い残し試験場を後にする。

 試験官がいなくなり自由になったエリスさんが、


 「アレク君ー! 今から看病に行きますわ!」


 そう言い走り去っていった。

 あの人とあいつはどんな関係なのだろうか?

 も、もしかして……か、彼女というやつなの?

 って何を考えているの私は! そんなこと私には関係ないじゃない。

 頭を振り変な事を考えないようにした。


 きっと疲れているのだわ。早く帰ってゆっくり休みましょう。

 道中、色々な男に声を掛けられるが適当に躱し帰宅した。



 ~アレクside~


 「ここどこだ?」


 目を覚ました俺は、見知らぬ場所のベッドに寝かされていた。


 身体を起こし周囲を見渡すと、近くの椅子にエリス先輩がウトウトしながら座っていた。

 毛布でもかけようと立ち上がった時、


 「はっ! 寝てしまいましたわ。って、アレク君! 起きたのですね!」

 「はい。ありがとうございます。」

 「全然気にしなくてもよろしくてよ。それよりも、素晴らしい立ち回りでしたわ。やはり白虎を倒した時の組み立てが……。」

 「わかりましたから先輩。今日は疲れているので話はまた今度でいいですか?」

 「むぅ。アレク君の試合の感想を言いたいですわ。」

 「何時間語るつもりですか。」


 勘違いしないように思い出すが、エリス先輩は間違いなく良い人だ。良い人なんだが、如何せん話が長すぎる。

 試合後の疲れている状態ではあんまり話したくないのが本音だ。


 置いてあった荷物を持ち、エリス先輩の方を向くと、


 「今日は助かりました。この後の予定ってどうなってます?」

 「今日は解散で明日が結果発表ですわ。受付場所に合格者の名前が貼り出されますわよ。」

 「なるほど。わかりました。ではまた。」


 軽く挨拶だけしてすぐさま部屋から出る。

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえるが、ここは聞こえないフリをしておこう。

 捕まったら何時に帰れるか分からないからな。


 外に出ると、完全に陽が暮れており夜になっていた。


 「もう夜か。さっさと帰ろ。」


 和み亭に帰った俺は、ミズハさんに追加で泊まるためのお金を払おうとすると、リベットさんから入学式までの代金は今日頂いたと言われ感謝の気持ちと、もし落ちていたらどうしようと不安な気持ちになった。


 少しでも気を紛らわす為にビスタちゃんとたっぷり遊び、疲れた身体を休めるために早めに寝ることにする。

 合格していますように……。


 寝る前に、誰にかは自分でも分からないが、祈ってから眠りについた。



 「おはようお兄さん! 今日は学園に見に行くんだよね!」

 「おはようビスタちゃん。そうだな。結果がどうなったか見てくるわ。」


 いつも通り早朝に起きた俺は朝の鍛錬が終わった後、ビスタちゃんの手作り朝食を食べながら話をしていた。

 ビスタちゃんが祈るような姿勢になり。


 「合格してますように〜。」

 「ははっ! ありがとね。それじゃあ朝食も食べ終わったし行ってくるわ。」

 「いってらっしゃいアレクさん。」


 笑顔のミズハさんとビスタちゃんに見送られ、学園へと歩き出した。

 学園へ向かっている道中、後ろから騒がしい声が聞こえてくる。


 「おーいアレクー!」


 後ろを振り向くと、昨日の試験で話をしたマルスが手を振ってこちらに合図をしていた。


 「マルスじゃん。おはよう。」

 「おはようさん。アレクはこの辺の宿に泊まってるのか?」

 「あぁ。和み亭って所に泊まってるんだ。」

 「いい所泊まってるじゃねえか! 和み亭は知る人ぞ知る名店だぞ。お手頃価格でサービスもいい。さらには女将さんは美人ときた。」


 急に熱弁しだしたマルスを苦笑しながら、


 「ミズハさんが美人なのは認めるけどそこはあんまり関係ないだろ。」

 「バカだなぁアレクは。美人女将がいる所は繫盛するんだぜ?」


 そんなもんなのか? 今度誰かに聞いてみるか。

 世間話をしながら俺とマルスは学園に向かった。

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