第8話 着いたよ、草原に

 休憩場所の拡張と、自分達用に建屋を建てる事を工夫こうふゴーレムに指示を出して出発した僕達は、また僕のスキルを利用して道を作って進み始めた。休憩場所に近い道の木は利用して良いとゴーレムには言ってあるから有効活用してくれると思う。今日は午前中から動き始めたから、何とか草原まで道を作れるかなと思いながら、作業を進めていたら、バイトが僕に話しかけた。


「リッター様、ゴーレム達に名前を名乗って良いと仰ってましたが、名付けはされませんでしたね」


「いや、バイト。だって四十人もだよ。そんなに大勢の名前を僕が考えるのは無理だよ。早く出発したかったし」


「ハハハ、それもそうですね。しかし、リッター様が女神様から授かったギフトは素晴らしい。開拓に役立つのは間違い無さそうですね」


「うん、そうなんだ。他にも色々あるから要所々々で使って行くよ」


 

 

 そんな話をリッター達がしている頃、休憩場所に残されたゴーレム達が集会を開いていた。リーダーゴーレムが司会進行をしている。


「良いか、寛大で偉大な我らが主であるリッター様から、名乗る事を許された我らは、もはや只のゴーレムではない。先ずは皆が名前を決めるのだ。私はリッター様にあやかって、リーダーだから、【リッダー】と名乗る事にした」


 この挨拶に他のゴーレムからクレームが殺到した。


「リーダー、ズルいです。我らもリッター様にあやかった名前を名乗りたいのに!!」


「恐れ多くもリッター様にあやかろうなんて、神もおののく所業です!」


「ええい、黙れ。皆がリッター様を敬い、おそれて話をするのを私に押し付けた事をユメユメ忘れたとは言わさぬぞ! 私だって畏れ多くて話をするのが怖かったんだからな!」


 そう言われて黙り込むゴーレム達。そして、渋々リーダーの【リッダー】を受け入れた。


「では、良いな。皆も名前を考えておくように。そして、道を挟んで反対側には我ら用に建屋を建てろとご指示が出ている。本来、我らは眠りや休息を必要としないが、これからココに訪れる方たちに不審を抱かれない為にも、人と同じ様な生活を我らも送らねばならない。なので、コチラに我ら用の住居を建てるのだ。そして、休憩所の周りには空きスペースがまだある。ソコに居酒屋、食事処、簡単な木工細工の店舗を構えて、リッター様が開拓を進められ、他国との交易が始まった時にはリッター様にお納めする金額を少しでも多く稼げる様にするのだ。我らは工夫こうふだ。名前の通り工夫くふうを凝らして頑張って行くぞ!!」


「おおーーっ!!」


 そんな集会があった事をリッターは知らずに先に進んでいた。


 

 昼に近い時間には十五キロ進む事が出来たから、あと十キロで森を抜ける事が出来る。

 僕の隣にはカーナと、ハーミー四歳とパル三歳の姉妹が居た。この姉妹はカーナに懐いていて、皆が遊戯室で遊んでいる時でも、カーナが居る場所で一緒に過ごしたいようなので、好きにさせている。


「あの、リッター様。私はいつ五歳になりますか?」


 ハーミーが恐る恐るといった感じで僕にそう聞いてきた。だから僕は、


「ハーミー、カーナはお姉ちゃんって呼んでるんだから、僕の事もお兄ちゃんって呼んで欲しいなぁ。ダメかな?」


 と頼んでみた。そしたら、顔を少し赤くしてハーミーが、


「リ、リッターお兄ちゃん」


 と言ってくれたので、僕はハーミーの頭を撫で撫でしながら、先の質問に答えた。


「有難う、これからもずっとそう呼んでね。ハーミーはあと八回寝て起きたら五歳になるからね」


 僕はまだ月や日にちを完全に理解出来てないハーミーに分かりやすくそう教えた。


「本当!? リッターお兄ちゃん!」


「うん。本当だよ。五歳になったらハーミーはどんなスキルを授かるだろうね。今から楽しみだね」


「うん。私はアニーお姉ちゃんみたいに動物と仲良くなれるスキルが欲しいけど、貰えるかなー?」


「アニーみたいなスキルか。ソレが貰えるかどうかは分からないけれども、どんなスキルでもきっとハーミーにとって良いスキルになるよ」


「うん、そうだね。どんなスキルを貰っても、カーナお姉ちゃんやリッターお兄ちゃんと一緒に頑張ってかいたくするね」


 おお、何だこの愛らしい子は。もう養子縁組しちゃおうかな。あっ、ダメだ。僕はまだ成人してないし、独り身だったよ。婚約者は居るけどね。

 婚約者のカーナはニコニコしながら、パルの話を聞いている。そんな幸せな昼時間を終えて、作業を再開した僕達は、太陽が沈む前に草原に辿り着いた。


 広い! 森も聞いていたよりも広かったけれど、この草原は更に広いよ。スキルで視てみたら凡そ八十キロ四方に渡って草原が広がっていたよ。


 取り敢えず今日は草原の端っこで休む事にしたけれど、バイトやヤエが言うには魔獣の気配がチラホラとあるらしくて、中には馴染みの美味しい【お肉】の魔獣の気配もあるから、狩って来ますと言ってバイトが一人で、出て行った。

 ヤエとカオリは馬車の周りを聖別と結界を使って囲ってくれたから、子供達が結界から勝手に出れない状態にして安全を確保してくれた。

 けどカオリの結界って、バイトも入って来れないんじゃ…… 気にはなったけど、聞くのは止めておいた。麗しい兄妹愛を邪魔しちゃいけないと思ったから。


 そして、一夜が明けて馬車の外を見てみたら魔獣の死骸が馬車を取り囲んでいた。そして死骸の中でグーグー寝ているバイトの姿が。あっ、やっぱり入れなかったんだね。そう思っていたら、カオリが結界から出てバイトに向かって水球を打った。


「ブワッ、冷たい!」


「ソコにいる、非常に残念な事に血の繋がっている人に申し上げます。幼い子供達も多く居りますので、十秒以内にこの死骸を片付けて下さい。出来ない時には貴方ごと、最上級の火炎魔法で処理する事に致します。十、九、八、……」


「ドワーッ、待て待て、カオリ。お兄ちゃんだぞ。直ぐに片付けるから魔力を練り上げるのは止めろ!!」


 大慌てでアイテムボックスに死骸を片付けたバイト。


「四、三、ニ、チっ、間に合いましたか」



「いや、舌打ちはオカシイだろ!」


 何の事でしょうと言う澄まし顔でカオリが僕に謝ってきた。


「リッター様、おはようございます。朝から兄が汚いモノをお見せして申し訳ありません」


「おはよう、カオリ。そんな事はないよ。バイトも良くやってくれてるし。そろそろ入れてやってね」


「ハアー、リッター様は優し過ぎます。けれど、仕方ありません。リッター様が仰るならあの汚物あにを結界内に入れましょう」


「【汚物】って言ったろ。今、【あに】って言いながら【汚物】って言っただろ!!」


 バイトのツッコミを背後に聞きながら僕は馬車の中に入ったんだ。


 

 

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