第2話 旅は道連れ世は情……
カイーナ街道を真っ直ぐに進む僕達は馬を休ませる為に休憩場に入った。ここは街道上にいくつかある休憩場の一つ目だ。
「さあ、赤影、青影、白影。良く頑張ってくれたね。小川で水を飲んでおいで」
僕は直ぐに馬を馬車から解放して自由にしてあげた。赤影も青影も白影も僕が仔馬の頃から育ててきた馬で三頭とも三歳馬だ。軍馬でもあるから筋肉質でタフなんだけど、休憩も好きだから喜んでくれたよ。そして、そこに二人の男女が近付いてきた。
「リッター様、お約束通りにお見送りに参りました」
「お久しぶりでございます。リッター様、この度はご助命いただきまして有難うございます」
「やあ、
「ハッ、いやしかしですな……」
「私達は娘も、もう居なくなりましたし……」
「えっ!? やだなあ、二人とも。僕がカーナを見捨てて王都を出る訳ないでしょ? ちゃんと連れて来てるから、二人も一緒に来てよ」
「いや、しかし何処にも娘の姿がありませんが……」
「カオリ、頼むよ」
「はい、リッター様。カーナ様、良く我慢出来ましたね。今、私のスキルを解除しますね」
そう言ってカオリは助手の女の子に手をかざした。ソコには先程までと違い、元の姿に戻ったカーナが立っていた。
「フフ、有難うございます。カオリお姉様。お陰様で無事に父母に会えました。それに、リッター様にも」
そう言ってポッと頬を赤らめて僕を見るカーナは本当に可愛らしい。まだ十二歳だけど色気もあるからつい手を出しそうになってしまう。まあ、そんな事をしたら嫌われてしまうから絶対にしないけどね。カーナの姿を見たアレグーラとレイラは駆け寄ってカーナを抱き締めていた。
「お父様、お母様、苦しいですわ」
カーナが抗議するが二人とも聞いてないようだ。それから落ち着きを取り戻した二人と一緒に休憩しながら話合いをした。
「リッター様、私達も馬車で来ておりますが、連れが何名かおります。その者達もご一緒しても大丈夫でしょうか?」
「何人ぐらい居るのかな?」
「五名です。執事のセーデス、給女のナポリン、アリナミーン、兵士のサーロン、パース、フェイターになります」
「何だ、皆が僕が良く知る人達ばかりじゃないか。勿論、皆が良いなら是非一緒に来て欲しいな」
「有難うございます。それでは、私達もお供させて貰います。カーナ、リッター様から離れてはダメだぞ」
「お父様、勿論ですわ」
そうして、王都を出た時よりも大所帯になったけど、僕達は休憩を終えて出発した。今日は街道を進んだ先にあるタイコウ侯爵が領主をしている町まで進む予定だ。町の名前もタイコウだから、分かりやすくて良いね。但し、タイコウ侯爵は
道中は何事もなく進んで、町に着いた。門番が僕を見て直ぐに通してくれたよ。アレグーラ夫妻の乗っていた馬車も一緒だと言って、直ぐに通して貰った。侯爵はまだ王都に居るから大丈夫だとは思うけど、明日の出発は朝日が昇って直ぐにと皆には伝えた。魔境まではまだまだ遠いからね。
用心のために、町で一番大きな宿を選んで最上階の大部屋をとって、皆が一緒に過ごす事にしたよ。宿でも何事もなく過ごせて出発出来たから、もう
町を出た僕達はここから街道を外れて魔境方面に向かう。魔境までには村が何ヶ所かしか無いから、昨日の内に食料や水を大量に買っておいた。それこそ、十三人が半年は食べるに困らない量だよ。
そんなに大量に買ってどうやって持って行くのかって? ソコはスーパー執事のバイトが素晴らしいスキルを持ってるんだ。そう、アイテムボックスだよ。容量はあるけど、大型倉庫五つ分ぐらいだし、時間停止機能もあるから腐ったりしないんだ。
持つべきものは優秀な友だよね。アニーはテイムの力を持ってるから、アレグーラ夫妻の馬車の馬達もアニーに直ぐに懐いて、言う事を良く聞いてくれた。皆とちゃんと合流出来たから、今日からはそんなに急ぐ必要もないから、馬が疲れない速度で移動をしていた。
そしたら、ヤエが
「リッター様、この先にどうやら二十人ほどが待伏せしているようです」
そう報告してきた。僕は指示を出す。
「先ずは確認してみようかな。根っからの盗賊なのか、そうじゃないのかを確認してから、既に手を汚しているのか、いないのかを確認してから攻撃する、しないを判断しようね」
「畏まりました。では、私とバイトが先行します」
「うん、よろしく頼むね。ヤエはやっぱり頼りになるね!」
僕の言葉に目をハートに変えたヤエが、
「リッター様に仇なす者は一人残らず殲滅致します!!」
物騒なセリフを言うから、慌てて
「ヤエ、さっきの指示を忘れたらダメだからね」
と釘を刺した。ハッとした顔になり、ヤエは、
「ヤ、ヤですわ、リッター様。私がリッター様のご指示を忘れる訳が… オホホホ」
変な笑いを残して馬車から消えた。馬車に残ったカオリが、
「ヤエちゃん、変わってない。ブレてないから羨ましいわ」
なんてボソッと呟いていた。カーナは、
「リッター様、もし確認して手を汚して無ければどうされますの?」
と聞いてきたから
「うん、犯罪を犯してないなら領民として、既に犯罪を犯してるなら、労役者として連れて行こうと思うんだ」
と僕の考えを話した。
「どちらにしても連れて行ってあげるんですのね。お優しいですわ、リッター様」
そんな話をしていたらヤエが馬車に戻ってきた。
「リッター様、制圧完了しました。盗賊かと思われましたが、飢えた子供達でした。一番歳上の子でも十三歳です。何とか食べ物にありつこうと仕方なく待伏せしていたようです」
「まあ、何て事でしょう。ヤエお姉様、子供達に病気や怪我をしている様子は無い?」
「カーナ様、二人ほど恐らく病と思われる子がおりました」
「カオリお姉様、私、行って参りますわ」
慌てて馬車から飛び出そうとするカーナ。僕は先に馬車を降りて、カーナをサポートして一緒にバイトが居る場所に向かった。ソコでは、
「だから、格好良い
二十人から居る子供達の中で一際大きな体をしている子がバイトに一所懸命にそう訴えていた。
格好良いって言われてバイトの機嫌がかなり良いのは良く分かった。
「まあまあ、待て待て。我が主は悪い人ではないから、安心しろ。それに、俺からもちゃんと口利きしてやるから」
「本当か! やっぱり姿が格好良い
後ろから見てるけど、バイトの機嫌が更に良くなったのが分かる。そんな事にはお構いなしで、カーナは子供達の方に向かい、
「どの子が具合が悪いの? 私が治してあげるわ」
そう言って近付いた。子供達はカーナの心からの言葉とその雰囲気に素直に隠していた二人の子を連れてきた。一人は怪我をした後にちゃんと消毒出来なかったのか、大きく化膿してしまって、膿が出ていた。
もう一人は顔色がかなり悪く、歩くのもやっとという感じだ。
カーナは先ずは顔色が悪い子を見て、直ぐにスキルを発動した。
「スキル【癒し】病平癒」
カーナから出た温かな光が顔色が悪い子を包んだ。光が消えたら顔色が良くなり、キョロキョロしていた子はカーナを見て、
「お姉ちゃん、有難う。でも私、お金が……」
何て言う。それには何も答えずにカーナは黙ってその子の頭を撫でてから、もう一人の怪我をしている子にスキルを発動した。
「スキル【癒し】治療」
先程とは色が違う光が怪我部分に当たり、光が消えたら怪我なんて何処にも無い状態になっていた。
その子も嬉しそうな泣きそうな顔でカーナに、
「お姉ちゃん、有難う。でも、お金……」
何て言う。カーナは、
「お金なんて要らないんですのよ。心配ないですわ。他に怪我や調子が悪い子は居ない?」
笑顔でそう言って子供らを抱きしめた。ああ、羨ましい。僕もカーナに抱き締めて貰いたい。何て邪な事を思っていたら、ヤエが小声で
「リッター様、ヤエは何時でも準備万端ですからね」
何て言うから正気に戻る事が出来たよ。有難う、ヤエ。
それから僕は体の大きな子の前に行った。そして、
「名前を教えてくれるかな? 僕はリッターって言うんだけど、領地に向かう途中なんだ」
僕の挨拶に体の大きな子は少し震えながら、
「お、お貴族様、俺は名前がありません。戦によって捕虜にされた両親から産まれて、名付けもされずに今日まで生きてきました。他の子らも同様です。タイコウの町で雑用をこなして生活してましたが、ある日突然に町を出て行けと放り出されてしまいました……」
何て事だ。
「どうかな? 僕は領地に向かって旅をしているんだけど、領民も募集中なんだ。皆が良ければ一緒に来て、僕の領地で領民になってくれないかな? 勿論、食事や学びたい子には教育もするし、移動は馬車でするから」
「お、お貴族様、本当ですか!! 俺達なんかを連れて行って領民に本当にしてくれますか!?」
「うん、約束するよ。それに、領民になってくれるなら、皆には名を名乗って貰わないとダメだから、今なら自分の好きな名前を名乗れるよ」
体の大きな子は自分についてきた子らを見た。皆が目をキラキラさせている。
「お、俺達はリッター様に付いていきます。どうか、領民にして下さい!!」
そう言って頭を下げた子にならって皆が頭を下げたんだ。
こうして僕は領地に着く前に二十人の領民をスカウトする事に成功したよ。
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