ジモティーだって強いんです。

しょうわな人

第1話 旅立ちは晴れの日に

 僕は戸惑っていた。目の前で繰り広げられる茶番に。


「ですから陛下。私からもお願いします。どうかリッターにその様な過酷な試練を与えないように……」


「いーや、いくら妃がそう言おうとコレばかりは譲る訳には行かぬ!!」


 父上、セリフが棒読みなのが大臣や大神官にバレてますよ。もう少し継母上ははうえに稽古をつけて貰えば良かったのに。


「そんな、私がこれほど頼んでもですか!?」


「そうじゃ! コレは決定じゃ! リッターよ、明日の朝に出立するのじゃ!」


「ああ、何て可哀想なリッター……」


 ヨヨヨと泣き崩れる継母上ははうえ。素晴らしい演技です。貴女なら劇場で公演を開けば凄い人気女優に成れますよ。

 そんな事は顔にも言葉にも出さずに、僕は父上に返事をした。


「勅命、謹んでお受け致します。また、果たせない限り、二度と王都に戻らぬ事をココに誓います!」


 ああ、ヤッタよ。コレでこの窮屈な生活から逃れる事が出来る。


「ウム、その意気や良し! 魔境を見事開拓したならば、ソコはリッターの領地にするが良い。後ほど宰相に証明書を届けさせる! 共連れは五名まで許そう。では、準備もあろう、下がるが良い!」


 父上のその言葉に下がろうとした僕に継母上ははうえが声をかけてきた。


「リッター、どうか、どうか息災でいてちょうだい! 私は貴方の無事を毎日ピュアノーシ様にお祈りするわ!」


継母上ははうえ、お気持ちに感謝致します。私も魔境にて継母上ははうえ義弟おとうと達の健康を毎日、神に祈りますね。どうか息災にお過ごし下さい」


 どうだ、僕の演技も中々のモノだと思うよ。大臣や大神官のあのニヤけた顔と来たら、そんな顔をしたら折角の継母上ははうえの演技が台無しになるよ。そう思いながら僕は謁見の間をあとにしたんだ。


 自室に戻った僕を待って居たのは、スーパー執事のバイトにスーパー給女のヤエの二人だ。僕を見るなりバイトが聞いてきた。


「そのお顔ですと上手くいったようですな、リッター様」


「うん、明日の出立になったよ。一緒に来てくれるかい? バイト」


「フッフッフッ、何を当たり前の事を。リッター様が居られる場所が、このバイトの居場所でございますぞ!」


 その言葉に続いてヤエが慌てて僕に言ってきた。


「リリリ、リッター様! 勿論ヤエも一緒ですよ! ダメって言っても付いて行きますからねっ!!」


「ヤエ、当たり前だよ。ヤエが居ないと僕なんて何も出来ないんだから、イヤって言っても縛ってでも連れて行くよ」


「ああ、リッター様に縛られるならそれも良いかも……」


「黙れ、変態。リッター様が汚れる。今すぐ離れろ!」


「アラ、馬鹿な事を言うわね、バイト。私はアナタよりはマトモよ!」


「ハッ、お前のどこがマトモなんだ」


 また何時もの二人の言い合いが始まりそうだったから僕は慌てて止めた。


「ハイハイ、そこまでだよ。それよりも父上から五人まで連れて行って構わないって言われたけど、あと三人はどうしようかな?」


「リッター様、ならばあの厩舎に居る犬獣人のアニーを連れて行ってやりましょう。リッター様が居なくなればまた、嫌がらせを始める馬鹿が居るでしょうから」


 とバイトが言えば、ヤエが、


「リッター様、神殿の女神官であるカオリを連れて行きましょう。料理も上手ですし、床上手でもありますから。何せ私がしっかりと仕込みましたからご安心ください」


 等と言ってくる。まあ、アニーもカオリも僕は連れて行くつもりだったけどね。さて、あと一人はどうしようかなと考えていたら、扉がノックされた。バイトがどなたですかと質問している。扉の向こうからは宰相の声で返事があった。僕を見るバイトに扉を開ける様に促す。


 部屋に入るなり宰相は僕の目の前で土下座を始めた。


「リッター様、王妃様の陰謀を防ぐ事が出来ずに申し訳ありません!!」


 そう土下座をする宰相に僕は言ったんだ。


「良いんだよ、アレグーラ。もし今回の陰謀を潰せたとしても今度はもっとヒドイ陰謀を企むだけなんだから。それよりも謝るのは僕の方だよ。ごめんね、カーナとの婚約が無くなってしまうけど」


 そう、僕は宰相の一人娘で幼馴染のカーナと婚約していたけれど、今回の魔境開拓の為に婚約解消になってしまったんだ。それだけが少し残念だね。カーナとは気も合うし、優しくて芯の強い女性だったから、この人と結婚したいと思ってたから。けれども宰相からは驚きの一言が。


「リッター様、実はカーナは余りにも親である私の言う事を聞かないので、勘当いたしました。今は何処で何をしているのやら…… もし、見かけましたらよろしくお願いします」


 そう言って僕にまた頭を下げた。ああ、カーナは義弟おとうとの婚約者にはならなかったんだな。それで処罰される前にアレグーラは勘当にしたんだね。でも、それじゃ宰相の立場は?


「私もコレが最後の仕事になります。こちらが陛下からの証明書でございます。見事、魔境を開拓した際には全てがリッター様の領地になる事を証明しております。それでは、コレで失礼致します」


 ソコで僕はアレグーラを呼び止めた。


「アレグーラ、王都を先に出てカイーナ街道の休憩場で僕を見送ってくれるかな? 勿論、レイラ夫人も一緒にだよ。よろしく頼むよ」


「はい、畏まりました。必ずやそういたします」


 そして、僕はバイトに目配せした。


「お任せを、リッター様」


 そう言って出て行くバイト。彼なら無事に宰相夫妻を目的地まで連れて行ってくれるだろう。それから僕はヤエにも目配せした。


「リッター様、カーナ様なら大丈夫です。既にカオリが確保して護っておりますので」


 流石スーパー給女だね。それから僕は厩舎にヤエと一緒に出向いた。ソコにいた厩舎長にアニーに一緒に来て貰う事を告げて、明日の朝に白影と赤影、青影の三頭を王宮の門まで連れて来て欲しいと頼んだ。厩舎長は、泣きながら礼を言ってきた。


「リッター様が連れて行って下さるなら安心だ。捨て子だったアニーを我が子としてここまで育てましたが、リッター様が居なくなったら如何どうなるかと心配していたんです。至らない娘ですがどうかよろしくお願いします」


 その横でアニーが尻尾をブンブン振りながら一緒に頭を下げた。


「アニー、よろしく頼むよ」


「はい、リッター様! 精一杯努つとめます!」


 それから部屋に戻り、沐浴してから就寝した。勿論一人でだよ。ヤエは護衛も兼ねてるからね。扉の外で待機してくれてるんだ。


 翌朝は快晴だった。僕は戻ったバイト、ヤエ、アニー、カオリともう一人、カオリの助手だと言う女の子を連れて王宮を馬車で出立した。


 王都の門も出ようとした時に、義弟おとうとが待ち構えていた。


「兄上、我が婚約者のカーナが姿を消したけれども、行方をご存知ないかな?」


「さあ、僕は知らないなあ。アレグーラも勘当してから姿を見てないって言ってたし」


「そうですか。時に兄上、馬車の中を改めさせてもらってもよろしいですかな?」


「ああ、何をみたいのか知らないけど良いよ」


 僕がアッサリと承諾したから少し拍子抜けしたような顔をしてからボソッと「腰抜けが」と言ってから兵士に命じて馬車を改めさせた。


 アニーは馭者をしてくれてる。馬車の中にはバイトとヤエ、カオリとその助手の四人だけしか居なかったので、あっさりと解放された。


「失礼した、兄上。道中も気をつけて進まれよ」


「ああ、有難う。それじゃもう行くよ。セイローも元気でね。ガンにもよろしく伝えてよ」


 そして、僕は魔境に向けての旅を始めたんだ。

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