第2話

「エレジーさ~~ん!」



心配そうに声を掛けるY。背中越しに手を振り、タクシーに乗り込んだ。



「大阪の××まで。」



飲んでいた場所は神戸。日が変わってるとはいえ1時間弱はかかるだろう。



(長い夜になりそうだ・・・)



私は車窓から見える夜景を見ながら暫しの眠りについた。



「お客さん、着きましたよ。」



い~や、さっき寝たばっかやろ!



ホント、酔っている時の時間の進み方って、指で時計の針をグッグッと進めているように感じる。



Kちゃんの住んでいるコーポに妻はいた。



「そこ座り~や!!」



妻、Kちゃん、Kちゃんの男、3人がいた。



「お~久しぶり!」



Kちゃんの男の名はJ。元暴走族でポン中。



以前、JがKちゃんに暴力を振るっている事は妻から聞いていた。



「俺が1回行ったろか?」



女に手を上げる奴は許せない。



「まだエエわ。」



妻からは止められていた。



しかし、KちゃんとJの仲裁に入った妻にも軽く暴力を振るった事があった。それを聞いた私は、ついにブチ切れて追い込みをかけた事がある。Jは私の事をその筋の男と思っていたらしい。



土下座して私に詫びを入れた。確か、会うのはそれ以来。



「あ~エレジーくん、久しぶり!」



(くん?は~お前、年下やろが!って、その前にあんだけ土下座して詫びた相手に、よ~そんな対応できるな!)



「・・・あ~」



私は素っ気なく答えた。



「アンタ、何調子乗ってん!」



「いや、別に乗ってへんよ。」



「ヘラヘラ笑てんちゃうで!」



私の妻は、大阪のある町で知らない人がいないくらい悪かったらしい。外見は、そんなの感じさせないくらい可愛らしい顔をしている。外見とのギャップに驚くほどの性根を持っていた。



「何笑てんねんてっ!!」



軸がぶれるほどのビンタ。



ホンマ、一瞬、幽体離脱したんかと思うくらい残像の自分がいた気がした。



「何笑てんねん!アンタ、頭おかしいんちゃう!」



殴られても笑っている私に妻が言った。



「ちょ、も1回やってみて。」



私もイッちまってるとこがある。



ある事を試したくなった。



『カウンター』



相手の力を利用し、一発で試合を終わらせる事ができる。プロボクサーでも狙って打てる選手はそうそういない。



ただし、それはプロ同士だからである。素人相手だとスピードが遅いので、簡単に取れるだろう。



酔いのせいもあり、妻のビンタに合わせてカウンターを取りたくなった。



勿論、寸止めで。



妻の2発目。



バシーーーンッ!!



負けん気の強い妻。もう一回やってみろと言われて、舐められてると感じたのかパワーアップしていた。



1回目と違ったのは、妻のパワーだけではなかった。私の左手が妻がビンタする右手に合わせて伸びていた。



少しタイミングが遅かった。



酔いのせいか・・・



またしても私の軸がブレるくらいの衝撃が左頬に。



「も1回。」



私が、へらへら笑いながら、指1本立てておねだり。それを見た妻が、さらに語気を強めた。



「アンタ、舐めてんかッって!!!!」



3発目。



ガツッ!



ドンピシャのタイミング。



妻の右手は空を切った。



私の顔は妻の右手の少し内側。代わりに、私の左手は妻の右顎の急所であるチンに伸びていた。



ただ一つ誤算だったのは、寸止めで出したつもりの私の左手。酔いのせいか少し当たっていた。



ほんの少し。



歯茎の感触がわかるほど。(笑)



なので、妻の唇が切れたのか血が一筋流れていた。指で殴られた場所を確認した妻。拭った指に付いた血を見る妻。



「Kっ、Jっ!ちょっと表出といてっ!!!」



妻に言われて、Kカップルは表に出た。



数分後・・・



戻ってきたKカップルは衝撃的な光景を目にした。

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汚れたテクニック エレジー @ereji-

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