汚れたテクニック
エレジー
第1話
私の弟分的な存在のY。そのYが私のファン的な存在になった出来事。
それは今から遡ること17年前。Yが25歳、私が33歳。
私は24歳の時にKグループ会長のKさんの初代の付き人をしていた。そして、Yが新しくKグループ会長のKさんの付き人になるという事で毎年集まる付き人の会に、お披露目を兼ねて出席した時の話。
「すごいっすね~!」
超体育会系なノリの飲み会に、Yは驚いてこの言葉を連発していた。その頃はKさんも私もイケイケだった。
店を貸し切り、やりたい放題。
ドンペリを、ガリバーが飲むんかい!というような、でっかいグラスに注ぎ、皆で回し飲む。何故かわからないけど、突然始まるKさんの「ガッツ!ガッツ!ガッツ!」の掛け声で、私が本意気でシャドーボクシングするという訳のわからないノリ。
Yもヘベレケ状態になっていた。
もうそろそろ、お開きになりそうだったので、大阪にいる妻に連絡した。
「もうちょっとで、終わるから!」
「ふ~ん。今、Kのとこにおんねん。」
「お~Kちゃんとこ?ほな、K藤さんおるから変わろか?」
Kちゃんは妻の幼なじみ。K藤さんは、私と妻が出会うきっかけとなった高級クラブに連れて行ってくれた先輩。
「エレジー、俺が気に入ってる子がおる店あるから一緒に行こうや!」
妻とKちゃんは同じ店でホステスとして働いていた。そして、私の隣に座ったのが妻だった。
よくK藤さんと2対2で同伴したり、アフターしたりして遊んだ。しかも、全部K藤さんの奢り。
気まずい事に、うまくいったのは私と妻だけだった。
「アンタ、調子乗ってん?」
「いや、懐かしいやろから・・・」
「アンタ、調子乗ってるやろ!今からこっち来いや!」
どうやら、いつものように妻の地雷を踏んでしまったようだ。
(あ~ぁ・・・また、やっちゃった・・・)
心地よかった酔いが少しだけ醒めた。
「どうした、エレジー!ガッツ!ガッツ!ガッツ!」
私の性格は、基本的には超ポジティブだから、嫌な事苦しい事は直面したその時に考えるようにしている。
宴席に戻った私を見て、Kさんの掛け声が店内に響く。私もそれを合図に嫌な気持ちを振り払うが如く、シャドーボクシングのマシーンと化す。
宴もたけなわとなり、Kさんが取ってくれたホテルに皆で帰った。タクシーから降り、歩いてフロントまで行こうとした。
急にYが外に走り出した。心配になり追い掛けて行ったら、嘔吐していた。
まぁ~あんだけ飲まされたら、しゃ~ない。
吐いてる途中で着ていたTシャツに吐瀉物が少し着いていた。
「大丈夫か~Y!」
「・・・だ、だ、大丈夫っす!」
私が声をかけると、Yはろれつのまわらない口調で答えた。
「Y、お前、頑張れよ~!Kさんに汚れたテクニック使うなよ~!」
Yが着ていたTシャツにはアルファベットで“テクニック”と書かれていた。Yを介抱し終わり、皆はフロントに向かった。
「じゃ、俺、行くとこあるから!」
「え、エレジーさん、どこ行くんすか?」
皆と反対方向に歩き出す私。私にはまだやるべき事が残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます