第3話
そこにはあの相良さんがいた。何やら真剣な表情だ。
「どうしたの? 藤岡なら部活に行ったけど。ちなみにあいつはバスケ部でね」
「へ? 私は榊君に話があって……」
藤岡が聞いたら泣くな。これは黙っておいてやるのが友としての情け優しさというものだろう。
「僕に? 何かあったっけ?」
彼女はあからさまにもじもじしていて、何だか落ち着かない様子。これはもしかして藤岡の話を僕から聞きたいとかだろうか。
「えっとね……。榊君はさ。す、『
僕の心臓は飛び出たんじゃないかって思うほどに大きく跳ねた。
「ごめん、良く聞き取れなかった。もう一度いい?」
「鈴音色の天使」
「もう一声!」
「えぇ……? 鈴音色の天使」
一字一句間違いがなかった。
それは僕が更新を楽しみにしている小説のタイトルだった。
どうして彼女が知っているんだろう?
「で、それがどうしたの?」
「それがね。ごめん、覗くつもりはなかったんだけど……」
彼女が言うには僕が藤岡に連れられていったあの時、置いていったスマホの画面を偶然見てしまったらしい。
「ああ、何だそういうことか。もしかして相良さんもそれ見てたり?」
「う……ん。と言うかあれ私が書いてるの。だからその画面を見た時、心臓が止まるかと思った」
そう小声で教えてくれたけど、こっちも止まるかと思った。つまりあの作品の作者がクラスメイトでたった今それを目の前で僕に告げている。なんだこれは。悪い冗談だ、ドッキリの類なのではないか?
でも仮にそうだったとしてもこのドッキリは誰が得をするんだろう。
そう思っていると「ほらこれ」と彼女はログイン中の、そして小説編集中の画面を見せてくれた。
……うん間違いない、相良さんは作者本人だ。まさかこんな偶然があるとは驚きなんだけど。
「でね……? ど、どうかな? 読んでて面白いかな!?」
「すごく面白いよ! 何と言ってもあのシーンが――」
「わぁあ……その場面自分でも気に入ってるんだよ。序盤のとこだから誰も覚えてないと思ってたから嬉しい! ところで榊君も書いてたりするの?」
「ん、ああ一応ね」
僕等はお互いに作者IDを教えあうことになった。これが分かれば作者間のフォローができるようになり、更新がされるとすぐに通知が行くようになるから便利らしい。
「おーい、みなみ帰るよ!」
「あっ、友達待たせてたの忘れてた! じゃあね榊君!」
晴れやかな気分で僕は
そして家に帰ると脇目も振らず鼻歌交じりにスマホをいじる。母親や妹の
――あなたにminamiさんから新しいメッセージが届いています
『ありがとう、よろしくね榊君』
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