第2話

 ――キーンコーンカーンコーン

 授業終了のチャイムによって僕こと榊涼さかきりょうは現実に引き戻される。折角の余韻が台無しだ。

 それはさておき今回も良かった。次はどうなるんだろうと気になる幕引き。早く続きが読みたい。


「榊! おーい。ん……? またそれか?」

「なんだ藤岡か。別にいいだろ?」

「いやいいけどさぁ……授業サボってまで、本当好きだなと思って」

「だって好きな物はしょうがないだろ」


 後ろの席のクラスメイト、藤岡が僕に声を掛ける。

 僕が読んでいたのは本などではない。現に右手にはスマホのみ。

 何を見ていたのかと言うと――


「え、小説家になりたい?」

「声がでかい」

「何それ本気?」

「まあ、遠い夢みたいなものだよ。あわよくばなれたらいいなって」

「ふーん、それでウェブ小説を書いてるってことか。ま、正直よくわかんないけど目標があるのはいい事だと思う」


 僕はとある小説投稿サイトで活動をしている。

 こういったサイトはあらゆるところで展開を続けていて、そこで開催されるコンテストなどで賞を取ることができれば、出版社から書籍化を打診だしんされる可能性もある。それが上手くすればアニメ化だって夢ではない。

 本来なら原稿用紙に書いて各社に売り込みにいくものらしいけど、ネット上で公開していくスタイルが今における主流のようだ。


 藤岡はそういったものには興味はないらしい。ただ彼は彼なりに理解があるようで、ことある毎に応援してくれる。彼にはちょっとした悩みを聞いてもらうこともあったりと、言葉には出さないが感謝している。


「ところで相良さん、やっぱり可愛いよなあ。彼氏とかいるのかな?」

「またそれか。もう本人に聞いてみればいいんじゃ?」

「い、いやぁ……それは……な?」


「私がどうかした?」


 振り返るとその本人、相良さがらさんがいた。下の名前は確かだったかな。散々聞かされてきたから間違いない。とにかく藤岡がものすごく入れ込んでいる女子だ。うん、確かに可愛らしい人だと思う。


「さ、相良さん!? いやぁ……な、なんでもないよ! な?」


 なんで僕にそれを聞くのか。と言うかこっちを見るんじゃない。


「いや……藤岡がさっき相……むぐぐ!」

「何を言ってるんだろうねぇ、さぁかぁきぃくぅん? ちょっと署まで来てもらおうか!」

「むぐぐぐぐぐぐぐー!?」

「ふふ、二人ともとっても仲がいいんだね」


 藤岡に引きずられてそのまま廊下まで出てきてしまった。しまった、スマホをそのまま机に置いてきてしまったじゃないか。


「藤岡くーん? せっかく仲を取り持ってやろうと思ったのに何をするんだ」

「普通あの流れでやる!? 榊には本当にびっくりだよ!」


 藤岡に余計なことは言うなと釘を刺されて僕は無事釈放された。好きなら好きと言えばいいのに。

 そして授業がすべて終わったあとの教室。


「じゃあ練習あるから俺はこれで!」

「バスケ部も大変だなぁ。今日だけサボっちゃえば?」

「いやいや無理無理! もうすぐ試合なんだよ」

「それはご苦労様だね」


 そう言って藤岡と別れた。さて、差し当たって用事のない僕は帰るとする。これぞ帰宅部の特権だ。カバンにテキストやノートを放り込んでいると前方に誰かの気配があった。


「あの……榊くん。ちょっといいかな?」

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