花瓶
次の日も、また次の日も。
彼に話しかけ続けた。それでも、彼が私の言葉に反応してくれるのはいつも屋上だけ。
廊下や教室内で話しかけても、なんの反応も見せてくれない。
彼の学級は偶然にも私と同じで、しかも隣同士。そうなると、なんで私はこの人を知らなかったんだろうという疑問が頭をよぎる。けど、もしかしたら不登校だったが、頑張って学校に来ているのかもしれない。
最近、彼のことを知ろうとする度、何かを知れる度、胸が苦しくなり、頭痛がするようになった。
理由は分からない。だから、何も考えないようにした。その方が、頭痛は治まるから。
そして、今日もまた彼に話しかける。
彼の隣の机。つまり、私の席にまたしてもお花が花瓶の中に入り置かれている。
無視はするし、こんないじめまで……。それに、周りは何も言わない。
本当に、酷いなぁ。でも、避けようとは思わない。この花には、手を伸ばしたくない。だから、私はいつもこの花と一緒に授業を受ける。普通に邪魔。
つまらない先生の授業を受けている時、隣にいる彼を見ると…………寝てる。
寝るのかよ!!!! 起きなさいよ!!
『ちょっと、起きなさいよ。ねぇったら!』
極力小さな声で話しかけるけど、反応がない。もう、知らないからね!!
そのまま授業は進み、放課後。
またいつもの一日が終わる。誰にも話しかけられず、誰も話を聞いてくれず。このまま終わる。
どうして、なんで。この気持ちがまた胸に膨らむ。
もう考えても意味が無いなんて分かるけど。それでも──
机に置かれている花を見つめていると、彼が立ち上がり廊下へと出ていってしまう。しっかりと耳にヘッドホンをつけて。
『…………尾行しちゃお』
どうせ暇だし。
☆
彼女が出ていったあと、教室内には二人の女子生徒が残り、悲しげに顔を曇らせていた。
机の上に乗っていた花瓶を手にし、廊下へと出る。
「もう、一ヶ月になるんだね」
「うん。今だに信じられないよ」
「そうだね。でも、らしいと、私は思うよ」
「…………うん、確かに。そうだね」
そんな会話を交わしながら、花瓶に新しい水を入れ、また、同じ机にコトンと置いた。
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