イタズラ

『そこの君〜、私が一緒にご飯を食べてあげよぉ〜』


 彼と出会った次の日、廊下で待ち伏せをしお昼ご飯に誘う。

 周りに人がいるため、さすがに昨日みたいな態度は取れないだろう。だって、周りの目があるからね!


 絶対に、昨日の言葉を謝らせてやるんだから!!!


 そんな強い決意を胸に、お弁当を持ちながら彼に話しかけた。けど、周りの目など気にしないのか、何事も無かったかのように隣をすり抜けていく。


『ちょっと! 無視するんじゃないわよ!!』


 何度話しかけても返事を返してくれない。まさか、彼も私を無視するの? それじゃ、昨日はなんで話しかけてくれたの。


 また、胸が痛くなる。締め付けられる。

 そんな気持ちを抱えたまま彼に付いて行くと、屋上の扉が見えてきた。

 そのまま開き青空の下へと移動する。


 私も置いていかれないように付いて行くと、先程までガン無視をしていた彼が振り向き、眉をひそめ不機嫌そうな表情を向けてくる。それと同時に、怒りの声をぶつけてきた。


「おい、ふざけんなよ。俺は消えろと言ったんだ。なんでまだここにいんだよ。日本語通じてねぇのか? それか、通じてんのに理解できてねぇのか。小学生の国語からやり直せ馬鹿女」

『なっ!! 本当に失礼な人よね!! さいってぇ!!!!』

「お前が俺の言う通りに動かないからだろうが」

『動けないわよ!! 大体、なんで初対面の人に消えろなんて言うの! そこを先ず謝りなさい!』

「断る」

『謝って!!』

「断る」

『謝れ!!!』


 こんな攻防を繰り返していると、彼はいきなり太陽から逃げるように日陰へと向かう。

 昨日と同じところで腰を下ろし、片手に持っていたビニール袋から三つのパンを取りだし頬張り始める。


 いや、まだ話は終わってないのに!! まぁ、いいけどさぁ。隣で食べてやる。


 当たり前のように彼の隣に座り、私も自分が持っていたお弁当の蓋を開ける。

 そこまでお腹すいていないけど、食べないとやばいよね。


 橋でお弁当を食べ始める。そんな私に全く興味を示さない彼は、パンを片手にスマホをいじり始めた。

 イヤホンジャックのところにはヘッドホンが繋がれており、周りの音を完全に遮断していた。こういう人を邪魔するのって、少し面白いわよね。しかも、私をバカにしてきた人だし、少しくらい仕返ししても──


 手を伸ばし、ヘッドホンを耳からとってやろう。


『あっ……』


 気配に気づいた彼がメドューサバリの鋭い瞳を向けてきた。これは、やったら殺られる。すぐに伸ばしかけた手を引っ込めた。


 冷や汗が流れ出ている中、気を紛らわせるようにご飯を頬張っていると、彼がいきなり話しかけてきた。


「お前、どこまでの記憶があんだよ」

『どこまでのって……、どういうこと?』

「いや、なんでもねぇ」


 それだけ言うと、また黙ってしまう。

 一体なんだったのか。本当にこの男はわからんな。


 そんなことを思いながら、今日はもそもそとご飯を食べ、一日をすごした。

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