本心

 は、は? はぁぁぁああああ?!?!

 い、意味がわかんない。何この男。

 いきなり消えてくれ? なんでいんのって……。それは、私のセリフでもあるんだけど!! 意味がわかんない!!


「聞いてるか? なんで、お前が、ここに、いんの。早く消えろよ。今すぐに」

『な、なんであんたにそんなこと言われないといけないわけ。というか、初対面に失礼すぎない?』

「はぁ? 初対面……だと?」

『は? いや、そうでしょ。会ったこと……ないんじゃ……』


 さっきまで鋭い視線だった彼の瞳は、なぜかいきなり揺れ始め伏せる。顔を俯かせ、目をそらされてしまった。

 どうしてそんな消え入りそうな声を……。


 彼のその様子見ていると、なぜか私の胸が締め付けられた。頭の中に霧がかかり、何も見えなくなる。

 私、この人の事知ってるの? いや、知らないはずだ。だって、こんな不良と関わったことすらないはず……。ない、はずなのに。なんで、この人から離れない。なんで、気になるの。


 …………いや、今はそんなことどうでもいい。


 彼は何事も無かったかのように立ち上がり、ヘッドホンを首にかけ、私の隣を通り抜け屋上を出ようとしてしまう。


『え、ちょっと待っ──』

「──っ触んな!!」

『えっ』


 手を伸ばし彼の手首を掴もうとした時、過激に反応された。腕を振り上げられ、焦ったように叫んだ。


 ちょ、なんなの。そんなに私に触られたくないわけ? 意味わかんない……。


「余計なことはするな。早く、お前は消えろ。ここに


 苦しげに顔を歪めながらそれだけを言い残し、彼は今度こそ姿を消してしまう。


 いや、いやいや。なんなの、あの失礼男。

 …………というか、彼だけは、私を無視しなかった。ちゃんと、私を見てくれた。


 いつの間にか、胸に渦巻く黒い想いは無くなっており、気持ちが落ち着いている。

 ムカつくけど、彼のおかげというのは分かった。ムカつくし、苛立つけど。

 でも、なんだろう。懐かしさが胸の中にある。暖かい。


 でも、彼は何か思い詰めているように見える。一体、何を考えているのか、分からない。


『…………あの男、なんなのよ』


 言葉一つ一つはすごくムカつく。けど、久しぶりに人と話せた。話すことが出来た。それが、いらだちを上回る。

 見てなさい。必ず、あなたの──


『聞き出してやる。あいつの本心』

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