内部構造

 才能とか無いから。


 本当にそうだろうか、と私は考える。

 私と弟それに母も、父のその言葉をどれだけ聞いてきただろう。

 私は父方の家系を知らない。もの心ついた時から祖父と祖母はひと組だと思っていた。母方の祖父と祖母である。母方の祖父は上場企業の役員だった。父はその会社に入社した。最初は現場をたらい回しにされていたらしい。

 「それが良かったんだ。お父さんはな、そこで色んな人間を見ることができたんだ。それが後々役に立ったんだよ。人付き合い仕方を学んだわけだ。それと同時に仕事に必要な色んな資格も取った。もちろんきつかったさ。でも、そうするしかなかったからな」父は折に触れて私や弟に同じことを話した。

 父は田舎の寒村に生まれたらしい。九州のどこからしいのだが。それ以上は絶対話さない。そこで幼少期から中学生までを過ごした。


 なんとしてもこの土地から出なければ─


 そう決心した父は死に物狂いで勉強して、難関の私立高校に入学した。しかも学費免除の推薦枠で。ようやく忌まわしい土地を離れることができたのだった。

 大学も学費免除の推薦枠で入学した。

 父の学生時代は、私は弟のようにのほほんとしたものではなかった、ということだ。


 確かに努力で勝ち取ることのできるものは沢山あるのだ。少なくとも私も弟も到底父のような生き方はできないだろう。少なくとも今のままでは。確かに父の努力は賞賛に値すると思う。(私ごときが言うのもなんだが)


 しかし。


 親から受け継いだ肉体的特性、容姿や性格に限っては努力ではどうにもできないのではないか。並外れた努力家の父、上場会社役員の娘として育った母。

 それでも外見に特筆すべきところはない。(これも私ごときが言うことでも無い)つまり、俳優や女優、モデル、といった外見を駆使する仕事に就けるほどでは無いのだ。

 それは、私と弟も同じ。

 あえて言うなら、弟は隔世遺伝だろうか、背がスラリと高い。おそらくまだ見ぬ父方の祖父か祖母の影響だろう。

 

 もともと自分の声は好きではなかった。私の昔の映像を父が録画してくれているのだが、その中に小学校の学習発表会のものがある。その中で、今でもよく分からないのだが、私の独唱パートがある。ここぞとばかりに父はアップで私を画面に捉えていて、それだけでも恥ずかしいのに。そして私はその場面で悟った。

 私の声は俗に言う鼻にかかった声で、しかもハスキーと言うレベルを越えて掠れている。メロディーはほぼ完璧に歌えているのに、私の声でそれは台無しに聞こえてしまう。どうして、あの頭の薄い神経症の犬のような担任教師は、私にソロパートを歌わせたのだろうか。


 「先生、あなたは音程がとても正確だったって、おっしゃってたわ。それに、感情のこもった歌唱ができるって」

 当時PTAの役員をしていた母がそう教えてくれた。

 そう考えると、今現在私の作った曲がある程度の説得力を持つに至った経緯がわかる気がする。しかし、今思う。


 結局、生まれ持ったモノには誰も抗えないじゃん。


 結局、私は生まれながらの虜囚なのだ。


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