第40話 魔界の真実
「それはいささか早計だな、アルデバラン」
太い声がする。
見上げると、空洞と化した魔界跡を、大男が滑り降りてきた。
グランドマスターだ。
「和国のサムライは死を恐れない。死んでも天国に行けると信じているからな。和国へ行けば、そんな連中をしなきゃならなくなる。準備はしたほうがいい」
「グランドマスター。なぜそんなことを知っているのです?」
俺はエレナを救った報告をするのも忘れて、そんな疑問を投げかけていた。
「今さら隠すまでもないが、戦士ヴィアクこと和成鉄幹は、俺の無二の親友だったからだ。奴は魔王討伐に旅立つ前、全てを話してくれた」
全てとは、どこまで含めた話なのだろうか?
「長い話になる。かつて和国は、恐ろしく貧しい国だった。姥捨てに間引き……」
「ウバステニマビキ?」
「あぁ、この国にはない言葉か。家族全員を養えなくなると、働けない老人を山に捨てたり、生まれて間もない幼児を殺したりすることもあったという意味だ」
「そんなことが……」
自分たちも凄絶な体験をしてきた自負はあるが、かつての和国は、それとは別の意味で過酷な環境だったのだろう。
「だが当時の和王は明確に殺人を禁じていた。そんな所業がバレれば、平民といえど一家全員処刑される。そこで、死体処理を専門に行うまじない師集団が現れた。それが和泉一族だ」
そんな歴史が、あの圧倒的な力とどう関連しているのか?
「和泉一族は、貧しい農家から依頼を受け、養い切れなくなった子供や老人を片っ端から蔵に閉じ込めた。蔵には特殊なまじないがかけられ、脱出は不可能だった。常人には、外から知覚することもできなかったそうだ」
「まさかそれが、サンサの言っていた【蔵】の起源?」
「その通りだ。蔵の中で餓死した人間の怨念がこもり、蔵は呪物と化した。負のエネルギーのたまり場になったのだ。その力に釣られるようにして強大な怨霊や地縛霊までもが憑りつき、最悪の結界、【蔵】が誕生したわけだ」
「ということは、もしや、この魔界も……」
エレナがおそるおそる仮説を口にする。
「あぁ、魔界の正体は、千年前に和国からやってきた和泉の【蔵造り】、和泉閑厳の造った【蔵】だ」
魔界が人工物だとでも言うのか? いや、だが、だとすると合点がいく点も多くある。
「まさか、カルネス一世が諸部族を統一できたのも、魔界という共通の敵が出来たおかげなのでは?」
「その通りだ。というか、和泉閑厳は、カルネス一世と同一人物だ」
「なんですって?」
何というマッチポンプ。
全ては和泉の掌の上で行われていたことだったのか。
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