第41話 和成と冷泉
「和泉一族……国まで作るとは、一体どれだけの影響力を持っていたのでしょう……」
エレナは戦慄を隠せずにいる。
「そうだ。和泉一族は影響力を持ち過ぎた。だから和泉閑厳は、力を二つに分割した。和成家と冷泉家にな」
和成……アヴァロンの言っていた、戦士ヴィアクの和名の一部か。
「冷泉……私の和名です」
そういえば、エレナの冒険者登録証にも和名が書かれていたな。
「エレナに、どうして和名が?」
「私にも分からない。ただ、【冷泉】の血を絶やすなと。あなたの本来の名前は【冷泉絵里】で、エレナ・メルセンヌは仮の通り名に過ぎないと、母から言われたんです。父もこのことは知りません」
エレナにそんな秘密があったとはな。
「和泉閑厳は、苗字すら持たない自分の部下たちに、力の一部を譲渡したんだ。和国のサムライだったある者は和成の姓を与えられ、和国の占い師だったある者は冷泉の姓を与えられた。それぞれの子孫が戦士ヴィアクであり、エレナ・メルセンヌであったというわけだ」
「でも、力を分割した意味はあったのですか? 結局サンサのような化け物が生まれていますよね?」
「そう。確かに和泉閑厳は、強大な力が集中し過ぎないように、力を分割した。それは同時に、本国にいる和泉の本家に対抗するためでもあった。閑厳は、和泉家の横暴に反旗を翻し、実の兄と戦って負けた。そして流れ着いたのがこの地だったわけだ」
ということは、閑厳は嫡男ではないのか?
「まさか、和泉閑厳が戦って負けた兄というのは……」
俺はおぞましい仮説が頭に浮かんだので、思わず問う。
「和泉燦砂だ」
「え……」
エレナは絶句している。俺も戦慄を禁じ得ない。千年も生きる人間が存在したなんて。
「和泉燦砂は化け物だ。自らの肉体を【蔵】とし、数多の怨霊を体内で飼いならしている。長命なのもそのためだ。魔王など比にならないレベルの闇の魔力の使い手だ」
「じゃあジーグがヴィアクを逃がしたのも……」
「あぁ、和成の血を絶やさないためだ。全ては、和国で横暴の限りを尽くす和泉燦砂を止めるため。いつの日か冷泉と和成の血を混ぜ、和泉に対抗しうる人物を再誕させる為だった。まさか、冷泉の人間が同じパーティにいるとは思わなかっただろうがな」
「大義のためだったということですね」
エレナは悲しげにうつむく。
「だからといって、ジーグのしたことを許すつもりはない。エレナを傷つける奴は、全て俺の敵だ」
「あぁ、俺もジーグのしたことを擁護するつもりはない。ただ、事情を知ってほしかっただけだ」
グランドマスターは、苦しげに呟いた。
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