第35話 最深部へ

 第三層へと繋がる穴を潜ると、いきなり水辺に出た。


 おそるおそる水面を覗き込むと、遥か下層に水底が見えた。とんでもない深さだ。


「第三層から第五層に当たる部分です。おかしいですね。三層に分かれていたのですが、こんな巨大な水たまりになっているとは……」


 アヴァロンは顎に手を当て考え込む。


「水道橋に流した水は、ここから流していたのかもしれません」


「ということは……」


「はい、あの巨大な水龍がいるはずです。ここは私が引き受けます。あなたは体力を温存していてください」


 アヴァロンは法力を練り始めた。


 と同時に、水龍が姿を現す。


 青く尖った棘のようなヒレと、輝くサファイアのような鱗に覆われた龍だ。


「精神共有【非想非非想天】」


 アヴァロンが例の技を繰り出すと、水龍は突然意識を失い、地面に墜落してぴくぴくと痙攣し始めた。


 魔族に使うとこうなるのか。


「意識が回復するまで暫くあります。一気に下りますよ!」


 アヴァロンは高く飛び上がり、拳を構える。


 水に飛び込むのではないはずだ。かなりの深さがある。


「武技【真数千手】」


 アヴァロンが水面に向かって正拳突きを繰り出すと、水面が凹んだ。次いで、立て続けに拳圧が放たれていき、凹みは徐々に深くなっていく。


 まさか、これを繰り返してこの池を突破するつもりか?


 なんと大胆な攻略法だろうか。


 まぁ、確かに。身動きの取りづらい水の中で魔族に襲われるよりはマシだろう。


 やがてそこだけ水を切り取ったかのような大穴が空き、進路は拓かれた。


 第六層に入ると、凄まじい濃さの闇の魔力で満ちているのが分かった。


「中和します。異界召喚【西方極楽浄土】」


 眩い黄金色の光が辺りに満ち、蓮の花が咲き乱れる。


 そのまま下に繋がる出口を探し、第七層と思しき洞窟に降り立った。


 ここまでは作戦通りだ。


 第五層までの攻略経験があるアヴァロンの支援のもと進み、第六、第七層は異界召喚で突破する。


 うまくいっている。


 だが、アヴァロンは顔をしかめた。


「おかしいですね。第七層が、欠落している。どこかに転移させられたかのように」


「じゃあここは、もう第八層なのですか?」


「そうなります。あれを見てください」


 アヴァロンは前方を指さした。

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