第34話 第二層

 第二層。あのバルカとかいう冒険者が闇に呑まれたのも、第二層だった。


「おいらを倒しに来たのか? 冒険者?」


 ふと野太い声がしたので振り返ると、ピンク色の巨大なクマのぬいぐるみが歩いてきた。


 木々をなぎ倒し、毛糸を撒き散らしながらこちらへ向かって来る。


「第二層の主、グラムダルです。決して毛糸を吸わないように。身体が繊維質化します」


 そうか。


 あの冒険者も、そうして闇に呑まれたのか。


 俺は怒りの代わりに、世の理不尽を感じた。


 勇者ジーグ一行は、最深部まで魔界を攻略したはずだ。


 でも、こうしてグラムダルが鎮座しているということは、すぐに魔界の住人も蘇生したということなのだろう。


「あ、お前、エレナ様の婚約者だな」


 グラムダルは、のんびりした声で指摘した。


「国も追われて、エレナ様の求婚も拒否したらしいな。せっかく魔王になれるチャンスを棒に振って、バカな奴だな。おいらなら喜んで受け入れるのに」


 グラムダルは気色の悪い笑みを浮かべた。と同時に、口から血と涎が滴り落ちる。


 何人もの冒険者を食ってきたのだろう。


「どうしようもない奴だよな。この世界のどこにも居場所はないのに、悪あがきを続けるなんて。バカだよな。エレナ様の夫となれば、全てが手に入るのに」


 俺もアヴァロンも終始無言を貫く。この程度の魔族の挑発に乗ってはならない。


「死ねよ。ロッソ・アルデバラン。エレナ様に夫など必要ない。エレナ様は一人でも完璧な存在だからな」


 グラムダルは手を伸ばし、俺を鷲掴みにしようとする。


「炎魔法【フレアバースト】」


 火柱が立ち昇り、グラムダルの丸い手が焦げる。


「痒いだけだなぁ、全然効かな……」


「明王式【浄華聖焔】」


 俺はすぐさま法力を練り、魔力と混ぜ合わせる。相乗効果で何十倍にも増幅された白炎が、グラムダルの全身を焼いた。


「あぁぁあぁあ! なぜだ! なぜお前ごときがこれほどの……」


 よほどの密度で毛糸が詰まっていたのか、燃えるのに時間がかかったが、巨大なぬいぐるみは灰と化した。


「バルカさん、仇は取りました」


 そうとだけ言い残して、俺たちは先を急いだ。

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