第33話 魔界入り
あれから二日が経った。
エレナの冒険者登録証を見せると、アヴァロンは苦い顔をしたが、何も語らなかった。
ベスは俺を連れ戻しにわざわざ王都まで追いかけてきたのだろうか。こんなに心配をかけて、心苦しい限りだ。
いつか、いつか皆でエレナの帰還を祝えたら、どんなにいいだろう。
だが、それが実現する確率はかなり低い。
今は、明るい未来を信じられなくとも、ただエレナのためにできることをするしかない。
魔界の入り口は、王都から南東へ回り込み、さらに西に進んだところにある。
簡易的だが、冒険者用の宿泊施設や商店なども立ち並んでいた。もちろん、魔界の入り口からはだいぶ離れた場所にだが。
「ひとまずここで休みましょう。魔界に入れば一睡もできません」
アヴァロンは表情こそ変えないが、緊張感のある声色で提案した。
「そうですね、なんと言うか、精神も整えないといけませんしね」
宿の近くには、申し訳程度破壊された水道橋の残骸が転がっていた。もちろん、長大な水道橋の全てを破壊しきることは不可能だ。人の住んでいる近くだけでも、魔族の建造物は破壊しておこうということなのだろう。
「いよいよ最終局面か」
俺は思わず口に出してしまう。エレナと過ごした日々が走馬灯のように思い浮かぶ。アヴァロンと戦ってきたこれまでの道程も、だ。
窓から魔界の方角を見ると、立ち昇る魔力が淡く光っていた。その青色の魔力は、かつてのエレナが得意とした水魔法発動時の光に似ていた。
翌朝。
俺たちは遂に魔界入りした。
地面にぽっかり空いた火山の火口のような穴から、付設された梯子を使って下る。
地面に降り立つと、高い壁が左右に聳え立っていた。
魔界の第一層、ラビリントスと呼ばれる迷宮だ。
「ここはショートカットしましょう。私が最短で道を切り拓きます」
アヴァロンは左半身を後ろに引き、拳を構えた。
「観音式【帝釈天身】」
そう唱えると、アヴァロンの全身は電流に覆われた。
「【インドラの雷霆】」
拳を突き出すと同時に、凄まじい衝撃波が放たれ、壁は悉く打ち砕かれた。
こんな技まで隠し持っていたとは。
さすがは拳聖だな。
「さ、魔界は生き物です。壁が再生する前に早く!」
「はい!」
第二層へ続く穴を滑り降りると、糸くずが舞う森に着いた。
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