第31話 『和』の字

「炎魔法【フレアバースト】」


 法力は使い果たしたので、魔力による攻撃に切り替える。だが、グランドマスターは両手に魔力を集束させ、火柱を弾き飛ばした。


「無駄だ、アルデバラン。観念しろ。今なら魔力を封じたうえで、地下牢に繋がれる程度で済む」


 グランドマスターに腰を踏みつけられ、起き上がろうとすることさえできない。


「俺は、魔界の深層に行きます。行ってエレナを連れ戻す!」


「無駄死にすることはない」


 グランドマスターは諭すように語りかける。


「また新たな世代の勇者が現れるのを待つのだ。聖剣に選ばれし勇者が生まれるのを」


「勇者……? 勇者だと! あんな人間に何ができるというんだ! エレナを魔族どもの餌にするような外道どもに、何ができる?」


「ジーグどのには考えがあってのことだ」


 グランドマスターは衝撃的な言葉を口走った。


「何か知っているのですか? まさか、戦士ヴィアクに関する曰くでもあるのですか?【イズミ】とやらは何者なのです?」


「私も深くは知らぬ。だが、【イズミ】に関わってろくな死に方をした人間はいない」


 やはり、勇者ジーグが戦士ヴィアクを生かそうとしたのには、何か深い理由がある。


「読めました、ロッソさん。もう逃げますよ」


 回復したアヴァロンが、グランドマスターに鋭い鉤突きを食らわせる。グランドマスターは危なげなく回避したが、俺が逃げるには十分な隙を作れた。


 すかさずアヴァロンに抱えられ、俺たちは街から脱出した。


 郊外の森に逃げ込み、俺たちは地面に倒れ込んだ。幸い、人の気配はない。


 しかし、グランドマスターの差し向けた追手が来るのも時間の問題。もし今見つかれば袋叩きだ。油断はできない。


「あの大男の心を読みました。その胸中に去来していたのは、そのアストロラーベが占星術師アルタイルの手に渡る場面です」


「あれは、アルタイルが作ったものではないのか?」


 勇者一行の占星術師アルタイルは、天体観測や卜占の道具作りが上手いことでも有名だった。


 なので、このアストロラーベも自身で作ったものと思っていた。


「あれを渡したのは戦士ヴィアクです。そして、戦士ヴィアクには和名があります」


「そんなことまで?」


「えぇ、グランドマスターともなれば、ギルドに登録されている冒険者の個人情報も閲覧できる立場にある。そこで彼の記憶を覗いたのです。ヴィアク・テックスの和名は……」


 アヴァロンは地面に木の枝で東方の文字を書いた。


【和成鉄幹】


 地面にはそう書かれていた。


「【ワナリテッカン】と読みます。和国のサムライたちの棟梁、和成家の後継者。それがあの戦士ヴィアクの正体です」


 俺は『和』の字に目が吸い寄せられていた。確か、カルネス1世の墓標にも、『和』の字が刻まれていた。


 どんな関係があるんだ?

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