第30話 ギルドマスターの矜持

「もっとも、炎上するホーンブレア様の屋敷を見てしまったら、これ以上問答の必要などないと思うがな」


「待ってください! 魔族の戯れ言を信じるのですか?」


「市民には伏せているが!」


 グランドマスターは声を張った。


「サルーテの一件は既に報告が上がって来ている。行方不明のはずのエレナ・メルセンヌを見たという目撃証言も多数報告されている」


 エレナの捜索のため、似顔絵を描いた張り紙を王国中にばら撒いたことがあった。それが裏目にでたわけか。


 エレナが魔族と化したことは、もはや王国中で知られつつあると考えてよい。だからアヴァロンもあれだけ警戒していたのだ。


「選べ。アルデバラン。エレナ・メルセンヌの討伐に協力するのなら見逃してやる。

だが本当に擁護するというのなら、ここで殺す」


 グランドマスターは、有無を言わさぬ気迫で脅迫してくる。


 ふざけるな。


 なぜエレナが殺されなくてはならない。


「エレナは勇者に陥れられ、闇に呑まれました。救う手立てはあるはずです」


「闇に呑まれた者の仲間は皆そう言う。貴様とて、そういった嘆願をいやというほど聞いてきたのではないか?」


 バルカという冒険者の顔がまたしても目に浮かぶ。


 そう。俺が処理してきた冒険者たちにもまた、大事な家族や仲間がいたのだ。


 だからといって、それに負い目を感じてエレナの救出を諦めるなど、俺にはできない。


「私は退職して、アヴァロンさんとともに魔界攻略を目指します。あなた方と手を組むつもりは、ありません」


 俺は決心を口にする。それは覚悟を決めるための儀式でもあった。


「そうか。ならばここで死ね」


 高密度の魔力が大剣に集束し、目にも留まらぬ速さの横薙ぎが迫る。


 辛うじて三鈷剣で受けるが、粉々に砕け散った。衝撃で王都の市街地まで吹き飛ばされる。


 建物の壁にめり込んだ俺に、容赦なく追撃の光弾が迫る。


 そういえばグランドマスターは、魔法も得意なオールラウンダーだったな。


「明王式【煌炎爆砕】」


 光弾を相殺し、グランドマスターのもとまで爆炎を放った。


 大剣で受けたようだが、刀身は赤く変色し、どろどろに溶け落ちていた。


「互いに剣は失ったか。ならば拳で解決するまで」


 グランドマスターは、焼け焦げた制服を脱ぎ捨て、褐色の肌を露わにして殴りかかってくる。


 俺は再び法力を集めようとするが、全身から力が抜けた。無理な大技を使い過ぎたせいか。


 だが、こんなところでは終われない。

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