第15話 魔界攻略の理由
「さっきから魔王軍についての詮索ばかりだな。どんな事情を抱えているのかは知らん。ただ、魔界の深くまで潜ろうとは考えないことだ。勇者ジーグ様でさえ生還できなかったのだからな」
「分かっています」
ジーグだけでない。
歴史上の様々な時代において、勇者と呼ばれる強者は誕生していた。だが悉く魔界の深層にて葬られているのだ。
伝わっているのは、ペイヴァルアスプという魔王の名のみ。ペイヴァルアスプの年齢も種族も、能力さえも分かっていない。
「変な気は起こすなよ? お前が闇に呑まれたとなれば、うちの処理班でも殺し切れないかもしれん。さぁ、分かったらとっとと帰れ。何を思い詰めているのか知らん。だがお前のその深刻そうな表情を見ていると気が滅入る」
顔に出ていたか。まぁ当然か。ここ数日、あまりにもいろいろなことが起こり過ぎた。
「失礼しました。シドさんには迷惑をかけませんので、ご安心ください」
そうとだけ言い残して俺は執務室を出た。
だが、迷惑をかけない保証がどこにあるのか。今この瞬間にも、魔王軍幹部かエレナの分身の襲撃を受け、殺されるかもしれない。
もう、何も信じられないし、安心して眠れる夜など当分は来ない。いくらアヴァロンとて限界がある。ずっと寝ずの番をしてもらうわけにもいかない。
ギルドのカウンターに降りると、アヴァロンがクエスト掲示板を見つめていた。
「鳥系統の魔物に関するクエストが多いですね」
クエストの傾向分析か。何かの手がかりになるとは思えない。
「それにしても、魔王軍など相手にして何になるのでしょう。魔界に眠るという大量の魔鉱石が、各商業ギルドにとって魅力的な資源なのは分かります。ですが……すみません、この話はやめます」
俺の心を読んだのか、気を遣ったのかは知らないが、アヴァロンは口をつぐんだ。
魔王討伐はエレナの小さい頃からの夢。それを単に利潤追求のためだと断じてほしくない。
「じゃあなんで、アヴァロンさんはドラゴンロードから俺を守ってくれたんですか?」
「あれは人間を守るためにしただけです。あなたが、これからの人類の行く末を左右する人物であることは明白でしたから」
「そうですか」
沈黙が続き、冒険者たちの喧騒だけが響く。
「ここのギルドマスターに訊いたところ、最近魔王配下が国境付近で橋を造っていたらしいです」
「この付近に大河でもあるのですか?」
「いいえ。何のために造られたのか分からないそうです」
アヴァロンは無表情のまま考え込む。
「三つの可能性を絞り込める情報ではありませんが、エレナ・メルセンヌの移動手段であることは間違いありません。行って調査しましょう」
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