第2話 変わり果てた幼馴染
「ギルドはしばらく営業停止にします。魔界からの帰還者が現れたらすぐ俺に知らせてください。この付近も封鎖しましょう」
俺は素早くギルド職員に指示を飛ばす。
バルカの仲間の男は、俺の部下に促され、力なく立ち去っていった。
見物人たちも帰っていくなか、一人だけ頑として動かない男がいた。
全身黒ずくめの、帽子を被った男だ。
「お迎えに上がりました。ロッソ・アルデバラン様。我らが次期魔王」
「何を言って……」
狂人かと思い追い払おうとすると、ドラゴンのそれのように巨大な爪が、袖口から見えた。こいつ、魔界の生物か。
「私は魔妃エレナ・メルセンヌ様の使者。皇竜ドラゴンロードと申します。ぜひ魔界へ来て頂けませんか?エレナ様がお待ちです」
魔妃? 魔王の妃ということか?
エレナは冒険者として魔王討伐に向かったはずなのに、なぜそんなことになっている?
いや、それよりも。
「エレナは、生きているのか?」
「はい。健康そのものでございます」
「本当か?証拠を出せ」
「とのことですが、いかがなさいます? エレナ様」
「久しぶりだねぇ、ロッソ」
振り返ると、懐かしい声がした。
まさか、本当にエレナ?
いや、どこからどう見てもエレナだ。黒のドレスを纏っていること以外、あの頃と何も変わりない。
「良かった。無事だったのか。さ、帰ろうエレナ。みんな待ってる」
「帰らないよ。ロッソが私のところに来るの。魔界の最下層、コキュートスの玉座まで」
「何を言っている?」
「私と一緒に来てと言っているの、ロッソ」
次の瞬間、凄まじい暴風が吹き荒れた。
俺は吹き飛ばされ、ギルドの壁にめり込む。
肺の空気全てを強制的に押し出されたかのようだ。そのくらいの衝撃だった。身体中が痺れて動けない。
「あぁ、私がちょっとイラついて魔力を漏らしただけで、こうなってしまうのね。本当にただの人間って憐れ。ロッソも私と結婚して、更なる力を得ましょう? だって、私のことお嫁さんにしてくれるって、約束したよね?」
エレナはゆっくりと歩み寄り、手を差し伸べてくる。
「ロッソさんは王国防衛の要!この村の冒険者と一般人、全ての人々の支えなんです!絶対に!あなたなんかに殺させません!」
受付嬢のベスが俺を庇うようにして立ちはだかる。
「うるさいわね。私のロッソに近寄らないでよ。受付嬢風情が」
エレナは信じられない言葉を吐いた。
受付嬢を下に見る冒険者が多い中、エレナは決してギルド職員への敬意を忘れたことはなかった。それが、『受付嬢風情』だと?
次いで、べスの左眼が弾け飛んだ。赤黒い血しぶきが舞う。エレナはそのままべスの胸ぐらを掴み、放り投げた。
どさりと力なくベスが倒れ込む。どうやら失神しているようだ。
「本当に邪魔ね。いちいち血なんか流さないでよ。私のロッソが汚れたらどうするの?」
違う。
そうじゃないだろ。
お前はそんなことを言う奴じゃない。
何があった?
何がエレナをここまで変えた?
いや、何かは想像に難くない。
「辛いこと、いっぱいあったんだろうな」
エレナは魔界の最前線で3年も戦い続けてきたことになる。そこには壮絶な経緯があったに違いない。
「終わらせてやるよ、エレナ。もういい。もういいんだ。一緒にあの世へ逝こう」
俺はどうにか魔力を捻りだし、自前で回復魔法をかけた。
だが、さっきフレアバーストも使っているし、もうまともな魔法は撃てない。
剣でどうにかするしかない。
一撃でエレナの首を断つ。
「何を言っているの? ロッソ?私たちの人生、これから始まるんじゃない。私は魔界の支配者。ロッソと結婚して魔妃になるの。すると、ロッソは魔王ってことになるわね」
愉しげに呟いてエレナは笑った。
何を言っていやがる。
これは幻なのか?
そうだ。魔王が悪質な幻覚を見せているのだ。そうに違いない。
「ロッソ。どうしたの? なぜ剣なんか握っているの?どうして私と一緒になってくれないの?私の言うこと、分かってくれないの?どうして?どうして?」
「エレナ。もういい。もうおやすみ」
俺は剣の柄に一層の力を込める。
「剣技【プロクス】」
だが、一撃必殺の技は、繰り出されることなく防がれた。剣の刀身は根本から折られていた。
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