第3話 拳聖アヴァロン
「今の技も、私にとっては鈍くて仕方なかった。ねぇ。もう諦めて私の言うこと聞いてよ、ロッソ。だってロッソはいつだって私に優しかったでしょ?」
まずい。予想以上だ。エレナの強さも、性格の変貌ぶりも。
魔界とは、人をこんなにも変えてしまう場所なのか。
「さ、早く。私の手を取ってよ。あの頃みたいに。いつも私を外に連れ出してくれたでしょう?」
エレナは恍惚とした表情でこちらに向かって来る。
だが、ここで殺すしかない。
「辛かったろう、エレナ。俺が責任を持って殺してやるからな」
「さっきから聞いていれば」
突然ドラゴンロードが口を挟んできた。
「エレナ様は唯一無二の絶対的存在。貴様ごときが憐憫の目で見るなど、言語道断だ」
「あなたは黙りなさいッ!」
エレナはこれまで聞いたことのないような大声で部下を怒鳴りつけた。
「今は私がロッソと話しているの。あなたの意見など求めていない。ねぇ、早く私と来てよ。じゃないと私、ロッソを殺して魔界に持ち帰って、蘇生させちゃいそう」
エレナはおぞましい計画を口にする。
もうダメだ。俺の知っているエレナはもういない。ならばギルドマスターとして、この『かつてエレナだったもの』の侵攻を食い止めるしかない。
剣が折れたなら、拳でどうにかする。拳が割れれば、噛みついてでも止めるまでだ。
俺はエレナに殴りかかるが、余裕を持って止められてしまった。凄い握力だ。徐々に指の骨が砕けていく。
蹴りを繰り出すも、斥力のようなものに弾かれてしまった。首筋に噛みつこうにも、全身に斥力を纏っているようで近づけない。
完全に手詰まりだ。
「あぁ、無理だと分かっていても頑張るロッソ、素敵ね。そんなところもあの頃と変わらない」
一本ずつ指が砕けていくごとに、エレナの顔は狂気じみた笑みに染まっていく。
「哀れな衆生。歪んだ愛を抱いていることにすら気付いていないのですね」
透き通るような少女の声が響く。次の瞬間、エレナが消えた。彼方まで吹き飛ばされていたのだ。
「な、エレナ様!」
ドラゴンロードが慌てて追うが、謎の少女の当て身によって気絶させられた。
何が起こった?
俺でさえ歯が立たなかったエレナを吹っ飛ばすとは、何者だ? 見たこともない白い装束を身に纏った少女が、立っていた。
「あれは……拳聖アヴァロン?」
俺がそう絞り出すと、少女は瞬く間にべスの左眼を治癒させた。
「私はロッソと話しているの。邪魔しないでくれる?」
すぐに立ち上がったエレナを、アヴァロンは無表情で見つめる。
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