俺の彼女は大罪魔妃

川崎俊介

第一章 魔界攻略篇

第1話 ギルドマスターの汚れ仕事

 俺ことロッソ・アルデバランは、許嫁の少女、エレナ・メルセンヌと、近くの冒険者ギルドまで見送りに出かけたことがあった。


 その日は、高名な勇者ジーグ様が、魔王討伐に向けてギルドで休息しているとのことだった。


 大勢の人たちが、勇者の雄姿を一目見ようと押しかけていた。中には拝みだす奴もいた。


「私はね、ロッソ」


 エレナは快活な声で言う。


「一流の冒険者になるの。勇者様を超えて、魔王を倒して、その後、ロッソと結婚するの。良かったね。ロッソは人類最強のお嫁さんをもらうんだよ」


 そう宣言してみせた彼女の笑顔を、俺は今でも忘れることが出来ない。


 あれから10年が経った。俺の方は、件の冒険者ギルドのギルドマスターになった。


 エレナの方は、3年前、魔界探索に行ったきり行方不明だ。エレナの親族は、もう諦めて葬儀を済ませてしまった。この村で、エレナの生存を信じているのは俺だけだ。


 魔王討伐に向けて旅立ったジーグ一行は、どうなっただろうか? 討伐成功の吉報は未だ届かない。


 あの日々が懐かしい。


 エレナのいた、あの日々が。

                   ◇

「退がってください。あれはもう人ではない」


 半身が繊維質化した男を前にした俺は、ギルド職員に呼びかける。


 ギルドマスターの仕事は、冒険者のサポートやクエストの管理だけではない。蛮勇を発揮し、魔界の深層に潜った結果『闇に呑まれた者』。つまり、何らかの呪いや病原菌を持ち帰った者の始末も含まれる。


「待ってくれ。バルカはまだ助かる。助ける方法があるはずだ。殺さないでやってくれ」


 バルカというらしい男の仲間が嘆願する。


 だがもう、俺がそんな声に耳を貸すことはない。


 繊維質と化した男の半身から、新たな生命が誕生しようとしていたからだ。それは同じ毛糸のような繊維でできたぬいぐるみのような生命体。


「ダメだ。これ以上魔界の生物を広めるわけにはいかない」


 俺は両手に魔力を込める。


「炎魔法【フレアバースト】」


 業火が顕現し、バルカの身体を焼き尽くす。ぬいぐるみのような生物が断末魔の悲鳴を上げるが、バルカの方は安らかな顔で灰となった。


 なぁ。いつまでこんなことを続ければいい?


 エレナ。お前が魔王を討伐してくれるんじゃなかったのか?

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