第5話

 夜になった。獣人の町は眠らない街。眠るためにも少しでも静かで、迷惑にならない場所を探さなくては。 


 「これ以上私の体が遊ばれるぐらいなら殺せ。」


 「殺してくださいだろ。礼儀のない女だなあ。しかし俺はこういう女を服従させることに快感を感じてしまうんだ。ひどいだろお。ほらわめけよ。俺のことが怖くて誰も助けに来ないだろうけどなあ!」


 「これ以上その女性を侮辱するのをやめろ。さもなくば力ずくででも止める。」


 「なんだお前。最近は挨拶もできないガキが多いなあ。困っちまうぜ。待てよ、こいつ非人族じゃあないか。主様が殺せと言ってたのはこいつの事かあ。俺はつくづくついてるぜ。女犯して、目的のやつを殺せるとかよ。明日にでも死んじまうんじゃないか。」


 人気がないと思った路地裏にはヤギのような獣人族の男と紫色の美しい髪の女性、いや女性の方は年が近いから、女の子といった方がいいのだろうか。とにかく、女の子を助けなくては、それにこのヤギの男からも禍々しい気配がする。


 「やめる気がないなら殺す。」


 「やめてください。あなたには逃げてほしい。無駄な犠牲は出したくない。この獣人の男は強い、ちゃんとした鍛錬を重ねたものでなければ勝てない。」


 「それは違うんじゃないか、少女よ。一度言ったことは守らなくっちゃ。それが社会の基本、いや人としての基本だぜ。」


 俺は剣を抜いた。男に剣を振りかざそうとする。この男は何をやっているんだ。こんな時に笛を吹いて。まさか。そう思った時にはもう遅かった。俺の体は動かなくなってしまった。


 「残念だったな、少年よ。こころの強さは認めよう。しかしお前は弱い。死ぬ前に覚えておけ。もう一つ教えてやろう。俺の名前はパン。この世界を正すための救世主である十二星剣の一人だ。そして俺の能力はこの笛にある。この笛が奏でるのは絶望の音。この音を聞くことは、死を意味する。そしてお前はこれほどまでに魔法が効くとは。よっぽど弱いようだなあ。自分の弱さをよく覚えておけ。」


 十二星剣?救世主?何のことだ?とにかくこのままでは死んでしまう。何かしたいが、体が動かない。

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