第3話

 夜になった。赤い月が薄っすらと出ていた。何かとんでもないことが起こると俺はこの時確信した。禍々しい邪気に足がすくむ。いったいこの邪気はどこから感じるのか?


 「何かあったらすぐに村を出ろ。私たちを助けるなんて余計なことは考えるな」


 ばあさんはそう言ったが、あいにくほかの家族に別れの言葉も言えてない。このまま家族と会えなくなるなんて嫌だ。心の準備が追い付いていない。ただやるしかない。非人族みんなのためにも俺は生きる。決意が決まったその時、どこからかおぞましい狼の遠吠えが聞こえた。その声の主は俺のすぐ前にいた。


 「いつの間に!」


 思はず声に出してしまった。周りを見回すと村は跡形もなくなっていた。何も感じなかったのだ。しかし、この狼男からは禍々しい殺気を感じる。


 「生き残りがいたのか。主様のために始末しなくては」


 狼男が口を開いた。


 「お前は誰だ?何のためにこんな惨いことをするんだ?」


 「なぜ教える必要がある。お前ももうすぐ死ぬのに。そうだあの世で老婆に聞くとよい。絶望の悲鳴をな!」


 気付かなかった。ばあさんは既に隣で死んでいた。状況が追いつかない。何なんだこいつは。深い絶望と悲しみを感じた。そして、怒りを感じる間もなく俺は剣を抜いた。このままだとやられる。


 「俺とやる気なのか。この小僧は。自分の置かれてる立場をわかっているのか?」


 「わかっているから戦うしかないんだ」


 剣が自らを振りかざした。これがアーティファクト。俺を戦いにいざなってくれる。俺はそこに力を籠めるだけだ。狼男のおぞましい爪とぶつかる。狼男の爪が折れた。今しかない、すかさず俺は男の心臓を目掛け剣を振った。しかし与えたのはかすり傷だけだ。剣を通さない厚すぎる程の身体。こんな化け物にかなうわけない。絶望した心のように、俺の剣は折れた。逃げるなら男が苦しんでいる今しかない。そう思った時、既に走り出していた。逃げているときにようやく怒りの感情が出てきた。強くなってあいつを殺す。婆さんの、家族の、故郷の人たちの仇をうちたい。強く心に思った。

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