懐妊

 ユリアが城に戻って約1ヶ月。ユリアの妊娠が確かなものになった。王妃はまず後宮で働くものたちを集めてユリアの懐妊を公表した。

「気づいているものもいるかもしれませんが、ユリア様のご懐妊が確かなものとなりました。これからは後宮に出入りするものにはさらに注意を払い、ユリア様が心穏やかに過ごせるように勤めてください」

王妃の言葉に侍従や侍女を代表して侍女頭が前に出て一礼した。

「ユリア様のご懐妊、まことにおめでたく、我々一同、心からお慶び申し上げます。ユリア様にお心穏やかにお過ごしいただけるよう、誠心誠意お仕えさせていただきます」

「ありがとう。よろしくお願いしますね」

侍女頭の言葉と共に侍従や侍女たちが頭を下げる。王妃は微笑みながらうなずくと仕事に戻るように告げた。


 侍医から確実に妊娠していると告げられたユリアは自室のベッドに横たわっていた。まだ悪阻が辛く、食欲もなければ動くことも辛い。今はベッドに横になってレモン水など少しでも口にできるものを口にして過ごす日々だった。

「ユリア、まずは礼を言わせてくれ」

侍医から報告を受けた王はベッドの端に腰かけるとそっとユリアの手を握った。

「私に子を授けてくれて、ありがとう」

「うふふ。陛下、私の力だけで妊娠したわけではありませんよ?」

王の言葉にユリアがつい笑ってしまうと、王は苦笑してそっとユリアの頬を撫でた。

「悪阻は仕方がないとはいえ、早く治まるといいな。代われるものなら代わってやりたいが」

「陛下が寝込まれては国が大変です。私は大丈夫ですから。王妃様やお妃様たちもいてくださいますし」

体調が悪いだろうに気丈に微笑むユリアに王は目を細めた。

「女性は強いな。私にできることがあったらなんでも言ってくれ。王妃たちにも甘えていいから」

「ありがとうございます」

嬉しそうに微笑むユリアの額にそっとキスした王は、まだ膨らみが目立たない腹部にも恭しく口付けた。その様子をユリアは嬉しそうに、恥ずかしそうに見つめていた。


 夜、王妃と妃たちは隠し部屋に集まっていた。

「ユリア様の妊娠が確かなものになって、これから色々と騒がしくなるのでしょうね」

「ユリア様に害が及ばぬようにしないといけませんわね」

カリナとイリーナの言葉に王妃は静かにうなずいた。

「ユリア様の身辺は侍女のメイに任せていますが、後宮に出入りするものたちには今まで以上に気を付けなければいけません」

「警護は親衛隊に代わっていますけど、どこから入り込むともわかりませんものね」

王妃の言葉にエリスがうなずきながら言う。後宮への出入り口の警護はレナという侍女が入り込んでから全て親衛隊のものに代わっていたが、それでも抜け穴のような場所がないとも限らなかった。

「陛下の特別な計らいで後宮内を親衛隊の方々が見回りをしてくれるそうです。見回りをする親衛隊の騎士は決められていますから、明日には顔合わせがあります。もし、万が一違うものが入り込んでいた場合、すぐに捕らえるようにとのことです」

「親衛隊の騎士を捕らえて良いのですか?」

驚いたように言うカリナに王妃は小さく微笑んでうなずいた。

「後宮内に入れるものは決められています。申し出もなくそれを破れば捕らえられて当然です」

「では侍女たちも顔合わせに連れていかなければなりませんね」

そう言ったのはイリーナだった。王妃をはじめ妃たちのそばに仕える侍女の中には護身術を身に付けているものが少なくなかった。それは万が一の際に主の身を守れるようにというもので、体術を中心に一般の兵士には負けないほどの実力を備えているものもいた。

「それはそうとして、ユリア様の御子がお生まれになるのは来年でしょう?」

「春か初夏の頃になりそうですよね」

エリスの言葉にカリナが微笑みながらうなずく。エリスは目を輝かせて微笑んだ。

「ちょうどいい季節ですわね。御子が王子でも姫でも贈り物を選ぶ楽しみがありますわ」

「あらあら、エリス様は気が早いのですね」

イリーナは王妃と顔を見合わせてクスクスと笑った。

「ユリア様、今は悪阻で臥せっていらっしゃいますけど、悪阻が治まればお散歩などはできるのですよね?」

「ええ。激しい運動などして無理をしなければ普通に生活できるそうですよ」

「ではユリア様が動けるようになったら温室でお茶会をいたしませんか?」

カリナの問いに王妃が答えると、エリスが嬉しそうに提案する。王妃と妃たちはその提案に微笑みながらうなずいた。

「そうしましょう。今から楽しみですわね」

王妃の言葉に妃たちは皆我がことのように嬉しそうに微笑みながらうなずいた。

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