親衛隊の精鋭
準備を終えた5人は早速馬で離宮に向かった。離宮につくと執事のファイが出迎える。ファイの案内で5人は王の部屋に向かった。
「陛下、親衛隊の方々がいらっしゃいました」
「入りなさい」
返事を聞いてファイが扉を開ける。部屋には王妃とルクナ公爵、親衛隊隊長ライルがいた。
「急なことですまなかったね」
「いえ、公爵様直々に指導していただけるとは光栄の極みです」
5人を代表してギルバートが言う。王は苦笑するとうなずいた。
「楽しみにしてくれているようで嬉しい限りです。では早速始めましょうか。陛下、庭をお借りしますよ?」
「かまいませんよ。頼みます」
楽しそうに言う公爵に苦笑しながら王がうなずく。5人はそのまま公爵に連れられて部屋を出ていった。
「叔母上は楽しそうだな」
「楽しいと思いますよ。彼らは親衛隊の中でも精鋭ですから」
ライルは苦笑しながら「今夜はへとへとでしょう」と言った。
ユリアは怠さからベッドから出られずにいた。気分が悪いわけではないが、食欲はないしとにかく体が重くて眠かった。
「失礼します。ユリア様、王妃様とお妃様たちがお見舞いにといらっしゃっていますが」
うとうとしていたユリアはメイの言葉で目を開けてゆっくり体を起こした。
「メイ、お会いするからお通ししてちょうだい」
「しかし、大丈夫ですか?」
顔色の悪いユリアを心配してメイが尋ねると、ユリアは小さく微笑んでうなずいた。
「大丈夫よ。それに、わざわざおいでくださったのにお会いしないのは失礼だわ」
ユリアの言葉にメイは渋々うなずいて部屋を出た。
メイと入れ違いで王妃と妃たちが寝室に入ってくる。4人はベッドで体を起こしているユリアを見ると心配そうにそばに寄った。
「ユリア様、体調が優れないところ申し訳ありません」
「いいえ。わざわざありがとうございます」
申し訳なさそうな顔をする王妃と妃たちにユリアは嬉しそうに微笑んだ。
「気分が悪いというわけではないのですが、怠さや眠気がひどくて」
「無理はなさらないほうがいいです」
「わたくしたちもすぐにお暇しますから」
イリーナの言葉にうなずいて王妃が言う。ユリアは申し訳さなさそうにしながらうなずいた。
「ユリア様のこと、わたくしたちも知っています。少し前に親衛隊の方が数名到着しました。名目はルクナ公爵様からの直接指導となっていますが、数日のうちにユリア様のご実家から知らせがあるはずです。兄君ももちろん離宮にきています」
王妃の言葉にユリアはうなずいた。
「陛下からお聞きしました。しばらく実家に戻るようにと」
「万が一貴族たちに知られれば、ユリア様の身に危険が及ぶかもしれません」
「私たちもユリア様を守るために情報が外に漏れないようにいたします」
「ユリア様に万一のことがあってはいけませんもの」
ユリアを気遣う王妃や妃たちの言葉にユリアは涙を流した。
「ありがとうございます…」
「お礼などいりません。ユリア様はわたくしの妹も同じ。それに、もしユリア様が妊娠なさっていたら、これほど嬉しいことはありませんもの」
「たとえそうでなかったとしても、体調が悪いときは無理をするものではありませんわ」
「私たちは姉妹のようなものなのですもの」
「何でも頼ってくださいね?」
王妃や妃たちは口々に言うとベッドに腰かけてユリアに寄り添った。
「体調が悪いと不安になるものです。それに加えて今は不確定とはいえ妊娠の可能性もあるのですから、不安で当たり前です。我慢せず、何でも話してくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
優しい王妃たちの言葉に、ユリアは涙を流しながらも微笑んでうなずいた。
王妃たちがユリアの見舞いをしている頃、中庭ではドレスから着替えたルクナ公爵が到着したばかりの親衛隊の5人と手合わせしていた。
「どうした!腰が引けているぞ!それでも親衛隊の騎士か!」
中庭に公爵の声が響く。いくら親衛隊の精鋭とはいえ、一人ずつの手合わせではまだ公爵に勝てる者はいなかった。
たった数分の手合わせで汗だくになる5人にそばで見ていた親衛隊隊長のライルは苦笑した。
「やれやれ。最近の訓練が温かったかな。すっかり鈍ったようだ」
「も、申し訳ありません…」
ライルの言葉にこれからの訓練量が倍になることを予感したジルがべしゃっと潰れる。ライルは苦笑しながら自分も剣を抜いた。
「公爵、この者たちは少し使い物になりませんから、私と手合わせをお願いします」
「いいだろう。ライルとの手合わせは久しぶりだ」
互いに剣を抜いて対峙するライルと公爵を5人はじっと見つめた。公爵に歯が立たないとはいえ、5人が弱いわけでは決してないのだ。公爵と対等に戦えるのはライルか副隊長のレイニーくらいのものだった。そのライルが今公爵と対峙している。一瞬たりとも見逃してなるものかと5人は息を殺してふたりの手合わせを見つめた。
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