公爵と親衛隊隊長

 公爵と共に夕食をすませた王はユリアと共に部屋に戻った。護衛であるライルもついてくる。そのまま廊下で待機しようとするライルに王は苦笑した。

「ライル、私は今夜はもう部屋を出ないから、お前も下がっていいぞ?見張りならユリアの護衛のジルでもいいだろう?」

「しかし、よろしいのですか?」

「私がいいと言っている。ゆっくり休め」

「…ありがとうございます」

王の言葉にライルは小さく笑みを見せて頭を下げた。

「陛下?ライル様は確かにいつも陛下のおそばにいらっしゃって、たまには休まれてはと思いますけど…」

王とライルのやりとりに違和感を感じたユリアが首をかしげると、王はクスクス笑ってソファに座った。

「ライルと叔母上は幼馴染みだ。昔から仲がよく、ライルと共に叔母上も剣術を学ばれた」

「剣術を?公爵様が?」

予想外の言葉にユリアが目を丸くする。王は苦笑しながらうなずいた。

「叔母上に勝てるのはライルくらいだろう。今でも時々親衛隊や騎士団に訓練をつけていらっしゃる。まあ、それほど仲がいいのでね、たまにはゆっくり話したいこともあるだろうと」

そう言って肩をすくるめる王にユリアはにこりと笑った。

「そうでしたのね。陛下の叔母上様と聞いてどのような方かと思っていましたが、公爵様は女の私から見てもとても素敵な方ですね」

「叔母上はあの通り普段は男装しているからな。訓練をつけていることもあって、親衛隊や騎士団の者たちは叔母上を見ると背筋が伸びるようだが」

クスクス笑う王はユリアを隣に座らせると久しぶりにゆっくりした時間を過ごした。


 王から下がるよう言われたライルは公爵の私室の前に立っていた。この屋敷には何度か来たことがあり、屋敷の間取りは把握していた。

「ライルです。いらっしゃいますか?」

ドアをノックして声をかける。ほどなくしてドアを開けた公爵は結っていた髪をおろしていた。

「もっと遅くにくるのだと思っていた」

「陛下が気を遣ってくださったので」

苦笑しながら言うライルを公爵は部屋に招き入れた。

「いつもあの子を守ってくれてありがとう」

「これは私の仕事だから、礼を言われるようなことじゃない」

部屋にふたりきりになると公爵と親衛隊隊長ではなく、心を通わせた幼馴染みに戻る。ふたりは笑い会うと向かい合うようにソファに座った。

「しばらく王都に行っていないが、変わりはないか?」

「いや、最近は陛下やキース様の身辺が騒がしい。後宮に入り込んだ者もいたが、王妃様のおかげで事なきを得た」

「ふむ。カイルを時期国王にしたくない者たちが動き出したかな?」

ライルの言葉を聞いてエカテリーナが腕組みする。ライルはうなずきながらため息をついた。

「とはいえ、陛下にはお子がおらず、キース様とそのご子息たち以外には王位継承権を持つ方は限られる」

「先王の弟妹で生きているのは私だけ。あとは先々代の弟の子、いや孫か?」

自分の血縁を遡って考えるエカテリーナにライルはうなずいた。

「だが、先々代の孫まで遡るとさすがに現状では王位を得るのは難しい」

「それでキースやその子どもを害そうと?相変わらずろくなことを考えないな」

エカテリーナは呆れたように言うとソファの背もたれに体を預けた。

「リアムはこの視察から戻ったら離宮に避暑に行くのだろう?その前に御前会議などあったかな?」

「あるな。この視察から戻られて数日後だから、そろそろ知らせがあるのではないか?とはいえ、あなたはいつも欠席だったが」

「ろくでもない貴族の顔などできれば見たくないからな。だが、また愚かなことを考えているようなら、少し牽制しておくか」

そう言って笑うエカテリーナの表情は厳しい訓練を積んでいる親衛隊の騎士たちが裸足で逃げ出しそうなほど冷たいものだった。その表情を見てライルは次の御前会議がただではすまないことを確信した。


 翌日、朝食をすませた王たちは公爵とともに祭りを見るために広場に行った。夜も賑わっていた広場はさらに人が多く、活気に溢れていた。

「この町は子どもが多いのですね」

先に訪れた町よりも子どもがたくさんいて元気に走り回っている。ユリアの言葉に公爵は笑ってうなずいた。

「この町には養護院があって、親が育てられない子どもを預かって育てています。近隣の町や村から預かった子どももいるので、それで子どもの数が多いのです」

「まあ、そうなのですか」

「私は子どもがありませんから、この町の子どもたちは全員私の子どもと思っています」

公爵の言葉にユリアはうなずいた。

「叔母上のその言葉を借りるなら、この国の子どもたちは全員私の子ということになりますね」

「確かに。陛下は国一番の子沢山ということになりますね」

王の言葉に公爵が微笑む。公爵は一応用意されていた席につくことなく、王たちを広場に連れ出し、ゆっくり歩きながら人々の様子を見せた。

「この町は花が特産なんです。王都からも近いので、育てた花を王都の花屋に卸しています」

「それで花や花飾りを売っているお店が多いんですね」

やけに花を扱う店が多いと思っていたユリアは公爵の説明に納得した。公爵は花を売っている店の前で足を止めると、店主に断ってから自分で小さなブーケを作った。ピンクの花を中心に作られた可愛らしいブーケ。公爵は胸に手を当てて優雅にお辞儀をしながらユリアにそのブーケを差し出した。

「まあ!私にくださるのですか!?」

「可愛らしいお妃様にお似合いですよ」

まるで物語の王子様のような公爵の言葉と仕草にユリアは頬を染めてそっとブーケを受け取った。

「ありがとうございます。嬉しいです」

頬を染めて嬉しそうにするユリアの他にも花屋の娘や周りにいた娘たちが頬を染めてうっとりしていた。

「叔母上は相変わらずだな」

「私は可愛らしい女性には優しくするのが当たり前と思っているだけですが?」

王の言葉に公爵はクスッと笑って肩をすくめた。

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