公爵の言葉
祭りの視察を終えた一行は公爵の屋敷で昼食を摂った。
「陛下、今度の御前会議、私も久しぶりに出席しようと思うのですが」
「…それは、またどうして?」
公爵の言葉に王が微妙は顔で尋ねる。公爵はにこりと笑うとキースに目を向けた。
「キース様は御前会議には?」
「私は立場が微妙なので出席は控えています」
「なるほど。では、会議では貴族たちが言いたい放題なわけですね」
公爵の言葉に王は思わずライルに目を向けた。目を向けられたライルが目をそらす。王は苦笑しながら公爵を見た。
「会議に出席するのはかまいませんが、あまり貴族たちを挑発しないようにお願いします」
「わかっています。それに、しばらく王都の屋敷に滞在しようと思っています」
公爵の言葉に王は苦笑しながら「わかりました」と言った。
「ユリア様、また王都でお会いしましょう。王妃様や他のお妃様たちにもよろしくお伝えください」
「はい、お伝えします。ありがとうございました」
公爵の言葉にユリアが微笑んでうなずく。公爵は馬車が見えなくなるまで見送っていた。
「陛下、御前会議というのがどういうものか、お聞きしてもよろしいですか?」
馬車が動き出してしばらくして、ユリアが躊躇いながら尋ねる。王はにこりと笑ってうなずいた。
「御前会議とは私と大臣たち以外にも貴族たちが参加して行われる会議のことだ。週に一度はある会議だが、叔母上は今まで出席されたことはほとんどないな」
「貴族の中には普段は領地にいるという人もいますからね。そういう人は領地が王都から離れていればなかなか出席は難しいでしょう」
「それに、年に一度貴族全てが出席する大会議があるからな」
王とキースの説明にユリアはうなずいた。
「公爵様がしばらく王都に滞在するとおっしゃったのが不思議だったのですけど、週に一度会議があるからなのですね」
「しばらく滞在なさるということは、何度か会議にいらっしゃるということだろうからね」
王は苦笑するとうなずいて腕を組んだ。
「今度の会議は粛々と進みそうですね」
キースが笑いを堪えた様子で言う。それに首をかしげたのはカイルだった。
「公爵様にはそれほどの力があるのですか?」
「そうだね。叔母上に口で勝てる貴族はいないだろうね」
「何か言おうものなら叔母上に鼻で笑われて言い負かされるのが目に見えているな。腕力にものを言わせようとしても、叔母上に剣で勝てる者は騎士の中にも少ない。普段訓練などしていない貴族が勝てるわけがないな」
「お強いのですね」
キースと王の言葉にカイルが苦笑する。王はうなずくと言葉を続けた。
「それに、叔母上は女性たちに人気がある。叔母上は基本的に女性には優しいからな。だから叔母上に何かしようものなら奥方や娘たちから非難を受けるだろうからな」
王の言葉にユリアは納得した。公爵の立ち居振舞いはとても紳士的で、男装していることもあり女性であるということを忘れてしまいそうになるほどだった。だが、女性であることには変わりなく、同性として細かなところに気がつく点も女性に好かれる点だった。
「ユリア、叔母上は後宮に出入りできる。戻ったら叔母上が王都に滞在することを妃たちに伝えてくれ」
「承知いたしました」
王の言葉にユリアはにこりと笑ってうなずいた。
王たちが王都についたのはすっかり夜になってからだった。馬車をおりたユリアは疲れたろうからゆっくり休むようにと言う王とキース、カイルに挨拶してメイと共に後宮に戻った。
「ユリア様、お疲れさまでございました。ご夕食をお持ちしますね」
「ありがとう。でもその前に着替えたいわ」
部屋に入ってホッと息を吐くユリアはメイに着替えを頼んだ。メイは部屋付きの侍女に食事の用意を頼むとユリアの着替えを手伝った。
「メイも疲れたでしょう?」
「ユリア様ほどではありませんわ。今夜はゆっくりお休みくださいね?」
外出用のドレスから普段着ているドレスに着替えたユリアはやっと肩の力を抜いた。
晩餐は終わっている時間だったので部屋で夕食を摂る。湯浴みを終えたユリアはメイたち侍女にも休むよう言って下がらせると、夜着の上にガウンを着て寝室の隠し通路から秘密の部屋に向かった。
秘密の部屋に扉を開けると、そこには妃たちが全員集まっていた。
「あら、ユリア様、お帰りなさいませ」
「お疲れではありませんか?」
「ただいま戻りました。帰ってきたら、なんだか皆様にお会いしたくて」
嬉しそうに微笑みながら言うユリアに妃たちは微笑んだ。手招きして隣に座らせたカリナはユリアの手を優しく握った。
「お元気そうで安心しました」
「各地の祭りはいかがでした?」
「確か、今回は3ヶ所でしたよね?」
次々に声をかけてくる妃たちにユリアは微笑み、リュカの祭りで買ったガラス細工の人形を差し出した。
「これを皆様にお渡ししたくて」
「あら、可愛らしい」
「これはリュカのガラス細工ですか?」
「とてもよくできてますね」
イリーナの言葉にうなずいたユリアは受け取ってもらえるだろうかと心配そうな顔をしている。妃たちはにこりと笑うとガラス人形を受け取った。
「ありがとうございます」
「可愛らしいものは大好きです」
「大切にしますね」
妃たちの言葉にユリアは嬉しそうにふわりと笑った。
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