初めてのパーティー

 ユリアが後宮に入って1ヶ月。メイの心配をよそにユリアは穏やかで楽しい日々を過ごしていた。

「ユリア、今度パーティーがあるのだけど、王妃と妃たちも出席する。そなたも出席してほしい」

「はい。出席させていただきます」

夜、ベッドに横になりながら言う王にユリアはうなずいた。後宮に入る前、ユリアも父について何度かパーティーに出席したことがある。男性たちは政治の話を、女性たちは誰が王の心を射止めるかに夢中になっていた記憶がある。その場に今度は妃として立つ。その重責に知らず身震いすると、王が優しく抱き締めた。

「パーティーにはユステフ伯爵もくるだろう。久しぶりに父君と話をするといい」

「はい、ありがとうございます」

にこりと笑うユリアに王は微笑みながらそっと額に口づけた。

「新しいドレスを仕立てさせよう。明日、お針子をこちらに寄越そう」

「わかりました。楽しみにしておきます」

うなずいたユリアの腰をそっと抱き寄せる。王は今度は唇にキスをするとユリアの体を優しく撫でた。

「無理はさせないが、もう一度抱きたい」

「陛下のお望みのままに」

はみかむように頬を染めるユリアに微笑み、王はその若い体を再び愛し始めた。


 翌日、王の言葉通り午前中のうちにお針子がやってきた。お針子は長く城に勤めている女性のようで、ユリアを見ると目を輝かせた。

「お初にお目にかかります。お針子のマイアと申します」

「ユリアです。よろしくお願いします」

ユリアが挨拶すると、マイアと名乗った中年のお針子は早速採寸を始めた。

「ユリア様はスタイルがいいですから、体のラインが出るタイプのドレスもお似合いでしょうね」

「でも、あまりそういうものは私の好みではないの」

「そうですか。では、少しゆったりした、レースをたくさんつけたドレスにいたしましょう。お色はいかがなさいますか?」

問われたユリアは少し考えてから淡い黄色や青はどうだろうかと言った。

「淡いお色もお似合いになりそうですね。しかし、今回はユリア様は初めてのパーティーでございましょう?きっと陛下のおそばに呼ばれると思うのですが」

「陛下のお衣装と色を合わせたほうがいいということかしら?」

ユリアの問いにマイアはにっこりと笑った。

「陛下のお衣装は白です。ユリア様も白になさってはいかがでしょう?きっとお似合いになりますし、陛下と並ばれたらそれは美しいと思うのです」

「白。ではあなたに任せるわ」

昨夜たくさん王に愛されたこともあり、おしゃべりなマイアの話に疲れてしまったユリアはマイアの言うとおり白いドレスに決めた。マイアは簡単なデザイン画と布のサンプルを見せると早速作り始めると退室していった。

「ユリア様、大丈夫ですか?」

マイアが退室すると椅子に座ってしまったユリアにメイが心配そうに声をかける。ユリアは苦笑するとうなずいた。

「少し疲れてしまっただけよ。紅茶をいれてくれる?」

「かしこまりました。しかし、いくら陛下のおそばに呼ばれるとはいえ、王妃様のドレスの色も確認せずに、あのお針子大丈夫でしょうか?」

そう言われてユリアはハッとした。確かに王の衣装との色合わせも大事だが、それよりも王妃と色が被ってはいけない。王が白なら王妃も白のドレスを着る可能性は十分にあった。

「メイ、王妃様のドレスの色と被っていないか、お針子に確認しておいてちょうだい」

「かしこまりました」

ユリアの言葉にメイが頭を下げる。ユリアは少し考えるとカリナに面会を申し込むように命じた。

「カリナ様とお話したいことがあるの。お時間をいただけないか聞いてみてくれない?」

「わかりました。ではすぐに確認してまいります」

メイが一礼して退室すると、ユリアはため息をついて紅茶を飲んだ。王妃と妃たちを対立させたい人間は城の中にもいるかもしれない。そう思うと気を引き締めなければと思った。


 カリナとの面会は午後に行われた。ユリアがカリナの部屋を訪ね、侍女たちは全員下がらせる。ふたりきりになるとユリアはカリナにドレスのことを相談した。

「わたしの考えが足りませんでした。陛下が白のお衣装なら、王妃様もきっと白のドレスをお召しになると思うんです。それなのに私が白のドレスなんて」

「そうですね。お針子だけではないけれど、城にいる者の中には王妃様と私たちを対立させようとする者たちもいるの。気を付けなければいけませんね」

カリナの言葉にユリアは青ざめた。

「メイに、侍女に王妃様のドレスの色を確認して、私のドレスの色を変えるようにとは言ったんですが」

「手違い、ということもありますからね。このことは私がどうにかいたします。もし白いドレスがきたら、あなたは気にせず白いドレスを着てください」

「しかし…」

カリナの言葉にユリアが不安そうな顔をする。カリナは優しくユリアの手を握ると安心させるように微笑んだ。

「大丈夫。私を信じて?」

「わかりました。カリナ様を信じます」

ユリアの言葉にカリナはにこりと笑った。

「そうだわ。あなたにひとつ教えておかなくれてはいけないことがあるの」

カリナはそう言うと立ち上がって寝室に入り、本棚の前に連れていった。

「あなたの寝室にも本棚があるでしょう?」

「はい。この本棚とそっくりな本棚が」

「これはね。王妃様や他のお妃様のお部屋にもあるの。見ていて」

そう言ってカリナが本棚を横に動かす。本棚は音もなくゆっくり横に動き、その後ろから扉が現れた。

「これは…」

「隠し扉よ。いらっしゃい」

にこりと笑ったカリナが扉を開ける。そこには薄暗い廊下が続いていた。

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