リアム王

「陛下がいらっしゃいました」

ふいに侍女の言葉が響き、温室のドアが開けられる。王妃たちが立ち上がると、リアム王は微笑みながら温室に入ってきた。

「やあ、楽しそうだね」

「陛下、会議が長引いたのですか?」

予定より遅れてやってきた王に王妃が尋ねる。王は苦笑しながら「そうなんだ」とうなずいた。

「ユリアがきたばかりだというのに、もう次に後宮に入れるのは誰がいいかだんて言われてもね」

疲れたように椅子に座る王の前に紅茶が出される。王がそれに口をつけたのを見て王妃たちは席についた。

「ずいぶん気の短い方がいるのですね?」

「その方、娘さんでもいらっしゃるのかしら?」

エリスの言葉に王は「正解」と笑った。

「自分の娘を入れたくて仕方ないのだろうね。だが、私は後宮の和を乱すものを迎えるつもりはない」

きっぱり言いきった王は緊張した様子で座るユリアに目を向けて微笑んだ。

「ユリア、この後宮がどういうものか、理解できたかな?」

「はい。王妃様も、お妃様たちも、皆さま本当にお優しいです」

「ユリアならここでうまくやれるだろうと思って迎え入れたんだ。そなたは一番若いから、周りから早く子をと言われるだろうが、それは気にする必要はないからね?ユリアに問題があるわけではないのだから」

王の言葉にユリアはうなずきながら内心首をかしげた。そもそも、4人も後宮にいるのに子どもがいないということが不自然に感じられた。

「私は元々子種が少ないようでね。医師から子どもはできにくいかもしれないと言われている。だから私としては子はできてもできなくてもいいのだが、女性たちは周りからのプレッシャーがすごいようだ」

「最初だけですわ。そのうち何も言わなくなります」

カリナの言葉に他の妃たちもうなずく。王妃だけは困ったように笑っていた。

「私の弟には優秀な息子が何人かいるのだから、後継はそちらから選ぶのが一番いいと思うのだけどね」

「直系のお子をと思うのは仕方がないのでしょうね」

そう言って微笑む王妃に王は困ったような顔をした。

「リーシュには一番辛い思いをさせている。内気な性格なのに、王妃にすえて、子ができないと責められて。だが、私はそなたが一番愛おしい。だから、手放してやれない私を許しておくれ」

「もう諦めました。それに、わたくしの我が儘で皆さまを迎えていただきました。わたくしは幸せですわ」

「私たちも幸せです。陛下が気に病まれることはありません」

にこりと笑って言う王妃たちに王も少し安心したように微笑んだ。


 王はそれから少し歓談を楽しむと執務に戻っていった。

「ユリア様、これからパーティーなどでたくさんの人の前に立つことがあると思います。あなたは後宮に入られたばかりですから、きっと陛下はあなたをおそばにおくと思います。嫌なことを言われるかもしれないけど、あまり気にしないでね」

 王妃の気遣うような言葉にユリアは小さく微笑んでうなずいた。

「はい。お気遣いいただきありがとうございます」

「この後宮にいる方はわたくしの妹も同じですわ。気遣うのは当たり前です」

「あなたは末の妹になりますわね」

王妃の言葉にうなずいてイリーナが言うと、カリナとエリスも微笑みながらうなずいた。

「私が、皆さまの妹…」

妹と言われたユリアは頬を染めると嬉しそうに微笑んだ。

「そろそろお昼ですね。お開きにしましょうか」

王妃の言葉に妃たちは立ち上がって一礼した。

「とても楽しいお茶会でした。ありがとうございました」

「どういたしまして。また近いうちに開きましょうね」

嬉しそうに微笑む王妃にうなずいて妃たちはそれぞれ温室を出た。すると、待っていた侍女たちがそれぞれの妃の元へやってくる。ユリアの元へも心配そうな顔をしたメイが駆け寄ってきた。

「ユリア様、お部屋にお戻りになりますか?」

「ええ、そうします」

ユリアはうなずくと他の妃たちに会釈して温室を後にした。


「ユリア様、お茶会はいかがでしたか?」

部屋に戻ると心配そうなメイが尋ねてくる。ユリアはドレスを着替えながら小さく微笑んだ。

「何も心配することはないわ」

「そうですか?どのようなお話をされたのですか?」

「それは、秘密です」

お茶会の内容を話さないユリアにメイがますます心配そうな顔をする。ユリアは困ったように笑いながらも、お茶会でのことを話すことはなかった。

「メイ、お昼は少なめにしてもらえる?」

「まあ、わかりました。食べやすいものをお願いしますわ」

お茶会で少しお菓子を食べすぎてしまっただけなのだが、メイはユリアが食欲がないと勘違いしたようだった。メイの中ではお茶会はとても心労が溜まる行事のようになっているのだろう。それは王妃や妃たちが何も話さなかったため噂話に様々な尾ひれがついた結果なのだが、ユリアも特に訂正しようとは思わなかった。王妃や妃たちが望むこと。本当はとても居心地のいいこの後宮を守りたいという思いがユリアにも芽生えていた。

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