『すべては優しくなれる』——約束

 翌日、俺はミズキとの約束通り、村の仕事を手伝って回ることになった。


 とは言っても、基本は力仕事だ。米の詰まった袋を運んだり、村人の頼みで壊れた屋根を直したり、置いたままになった資材を動かすのを手伝ったり。そんな難しいことではなかったが、村人は皆、感謝してくれた。


「あんた力あるねぇ! また何かあれば頼むよ」


 そんな風に言って笑う村人は、素朴で良い人たちだった。村人たちと畑の脇に座って茶を飲み交わす。なんでもないことなのに、それがひどく懐かしい。


 適当に休憩しながら、午後は畑を手伝った。くわなんて、振るったこともなかったから足を引っ張ってしまったように思う。武器ならいくらでも扱えるのに、こういった日常に根ざしたことにはてんで弱い。それでも皆、怒らず笑ってくれていた。


 慣れない作業に四苦八苦しながら、夕方になる。手伝いを終えて道端で休んでいると、カゴを抱えたミズキに出会った。カゴには様々な野草が入っている。重いなら運ぼうか? そう声をかけたが断られてしまった。しかし、以前より距離は縮まった気がする。


 ハナさんの家に戻って、夕食を頂いて。それから夜には晩酌をした。手酌で酒を呑んでいると、苦笑いしながらミズキがお酌をしてくれる。他愛のないことを語り合いながら、その日の夜はゆっくり過ぎていき——。


「——カナン、楽しいかい?」


 部屋に戻ろうとした時、縁側に立ったリンドウが声を向けてきた。

 なんでもないことのように向けられた言葉。表情は酔いのせいかはっきり見えなかったが、いつものように笑っていたのではないだろうか。


 だから俺は、特に疑問に思うこともなく返していた。その言葉がリンドウにどう響くかなど、その時の俺は考えもしなかったのだ。


「ああ、そうだな。……楽しいよ」

「……そうか」


 良かった、と。リンドウは言わなかった。ただ一言だけ「そうか」と呟いた声は、夜の闇の中に沈んで行く。それ以上語ることもなく、石喰いはその場を去った。


 一人残された俺は、何か致命的な間違いを犯したような……だがそれ以上は理解もできず、その日の夜を終えることになる。


 そして、翌日もその次の日も。俺は村人とともに汗を流す日々を続けて行く。


 いつしかそれが日常だと錯覚するほどの時間が流れて、俺は——。



『——カナン』



 俺は、不義理だろうか。気づいた時、リンドウの姿はそばになく——。


『もし、君の痛みが消えたなら。私は』


 そして、終わらない季節が、終わりを告げるように。


 俺たちの旅もまた、一つの終わりを迎えようとしていた。




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