日菜とヒロイン?
「朝之さん!」
やっと会えた。
「?」
不思議そうに振り向く彼女を観て勘違いとか間違いではないことに二度目の安堵を
崩れそうになる膝を笑わせながら両手で震えを止めて、僕のことが彼女の瞳に焼き付いてくれることを願いながら面を上げた。
「あ、
日の目を浴びたら君に会えると暗闇から外に出た。 パーカーしかない私服からそれでも少しはおしゃれしろよとか髪を遊ばせる? とか、ほんとに会えたら胸が苦しくて、それでも声が出たのはこのまま詰まりをしていればまた二度と来ないかもしれないいつかに後悔して腐ってしまいそうだった。
君に会えて本当に
「よかった……」
「巴く、ん?」
ダメだダメだ。 一旦落ち着こう。 そうやってする深呼吸。 朝之さんが突然僕に話しかけられたら困惑するに決まってるじゃないか、天気の話をしよう。 外は快晴で換気をするためにカーテンを開いたらあなたのことを思い浮かべて……たまったもんじゃないな
冴えない僕がそんなこと突然口走ったら嫌われそうで怖い。 朝之さんがそんな簡単に嫌う人じゃないのは分かってるけどギャンブルにはもしもがある。 勝つか負けるか、両方に賭けるなんてことはできない。 その少しに打ちのめされたのなら僕はどうしようもなく
ほつれた糸ならどうにでもできるが一度、視界に入ればそれだけで清潔感を疑われるのものだ。 そんな僕はからみあってなにもできない。
あ、いまだってそんなことばっかりで朝之さんを困らせている。 時間だけはどうしても許して返すことができない。 だったら一緒に同じ時間を過ごして欲しいの一言で解決できるんだろうけど、そんな三段飛ばしの歩法、持ち合わせていなかった。
少し慌てた素振りを見せる。 意図を理解できる人間なんていないから目の前の彼女も首が
大人の階段をたったいま話しかける毎に駆け上がっているのだ。 すごい進歩とは言い難いが朝之さんたに出会いそして話しかけることを成し遂げたことが一番の成果だったからなかなか次への一歩が進まない。
こんなだから僕は……
慣れないことはするべきではないのだろうか?
「あ、っとお茶! 一緒に……ですか?」
「?}
喉が躍る。
□□■□□■□□■□
男として当然とか。 そんなのすごい嫌いだけどなんだかんだで自分が草食系男子とひとくくりにされることで陰キャみたいないじめを受けていないことに酷く安堵していた。 どうやら草食系は相手から話しかけられ誘われるものらしい。
でも誘うのは僕からだって決めていた。
「よかったあ。 朝之さんこの近くに引っ越してたんだね」
「う、ん」
冷たいアイスコーヒーを少し口にした彼女はメニューを済ませたにもかかわらず表を閉じることはなかった。 選ぶのが楽しそうだったから好きなのかも。 彼女はいつも素敵な笑顔で食事をしていた。 何度か目が会う度に罪悪感と頻度の低下を唱え、結局視線は釘付けだ。 それを話したいことがあるのかと食事後に聞いてくる彼女はすこし恋に疎かった。 食事が好きなんだね、 朝之さんが楽しそうでなによりだ。
楽しそうだから好きを直結させるのはいかがなものかと思うけど
必ず両手で飲み物を掴む仕草にときめいてしまう。
「巴君はどう?」
「ぼくは全然! 大丈夫だよ」
なにが大丈夫なのか。
疑問形にふさわしくない返答ばかり上手くなってしまう。
「描いてる?」
「うん。 結構、ね」
絵を描いていた。 よくからかうことを心情にした生徒に「嫌なら学校にもってくるな」なんて常套句ぶつけられたりするのが鉄板でどこにでもいるんだなって。
朝之さんだけは違った。
「はーいコメチキとエビカツサンド、コロッケセットにメロンソーダとミルクココアふたつ。 エッグサンド、以上でよろしいですか」
「あ、はい」
ココアを手前に移動させて会話を再開させる。
「朝之さんはどう」
「あっ、ライトノベル書く、よ」
「ほんと」
エッグサンドを頬張る朝之さんを影で覆う形で立ち上がる。 可能ならここで両手を強く握りたいがそんな度胸も右手も左手も空いてはなかった。 そんな僕は結果的にのぞき込むような形になってしまい顔と顔の距離が地球と月くらいの関係性を疑うほどに近く、自分の顔が熱くなる。 仮にも異性が顔を近づけたので火照るくらいの魅力が僕にあれば、それでも平常運転な朝之さんをまんべんなく写生したい衝動に駆られる。 僕は異常か変態か。
「うん……嬉しいなあ」
「おすすめあ、る?」
「もちろん!」
愛読書を無理にスペースを作って用意するのは困難で、かといって食事を急かすわけにはいかないのでホントの本当におすすめしたいものだけを二冊取り出してみせる。
「読んで欲しいな」
「う、んありがと」
コロッケを簡単に口内へしまい込んでしまうとそのままミルクココアに浮かぶグルグル巻き野ソフトクリームを
確かに運ばれたばかりであるコロッケは熱々であり、そのあとに冷たいアイスを口の中で幸せになるように転がす姿を無償で眺められる僕はなんて幸せなんだろうか
同じ方法で食べようものなら脳の裏側から知覚過敏という言葉が僕の神経をやらしく触るだろう。
「美味しい、ね」
「うん!」
バスケットに入った唐揚げを二つほど咀嚼、うん、お腹いっぱい。
もし朝之さんと結婚したら食卓が毎日三食すごいことになりそうだ。
ちなみにだけど別にコレは僕と朝之さんがどうというわけではないし、女の人が必ずしも家事を担当するべきだというわけでもない。 僕は小食だけど朝之さんが喜ぶなら毎日頑張ってしまう。 去年から始めた自炊はまだまだ他人に見せられたものじゃないし、姓に関しても朝之なんてとても素敵だから朝之 巴でも……
「巴君?」
「ごめん、なんでもないです」
勝手に染めて勝手に目をそらした。
僕の焦燥ともいえるこの感情が収まる頃には机に並んだ皿はすでに片付けられていた。
「美味しかった、ね」
「またこようね」
さらっと次回の予定を埋めに行ったり。
「う、ん。 また、こようねー」
可愛いっっっ!!!!
胸の辺りを思いっきり捻ってパーカーに
こんなに優しくて可愛くて麗しいのなら僕は記憶を失っても二度とまともな恋なんてできないな、もし魅了された蜂が一房の花からのみ、蜜を摘むのならそれは間違いなく僕で彼女だ。
そんな気持ち悪いことばかり考えてしまう。
「そういえば、ね。 巴くん、交換しよ?」
「え? ああ! ちょっとまってね、確か家の靴箱にぃ」
スマホを忘れた。
現実へ引き戻される。 せっかく朝之さんが僕を妄想の中から呼んでくれたのにこれから先、僕が彼女を呼ぶすべを家においてきたのだ。
なれないことはするもんじゃない。 だって自室から一度たりともスマホを出したことがないんだから、なんなら洗濯されて干される衣類のほうが僕より移動してるんだもの。
今回は珍しく、ただ珍しくその移動範囲も距離も僕が勝った。
慣れてないのに、そんなことするから……
財布とスマホの確認はした。 靴を履くとき一度、座り込んだから尻ポケットに違和感を働かせて一旦取り除いた。
Q.ポケットに戻しましたか?
A.「僕の馬鹿ぁ」
「じゃあお家までく、る?」
もし現代に孔明が生まれ変わっているなら僕なんじゃないかな?
□□■□□■□□■□
思ったより距離があって思ったより古民家な感じだった。
「おじゃましまーす」
「ふふっいら、っしゃい」
一瞬微笑んだ可憐だ。
夏休みに会いに行くおじいちゃんの家はネジを扉に入れて回すと鍵が閉まるが朝之さんの家は流石にそこまで古めかしくはなかった。
むしろ屋内はとても綺麗で空気も美味しい。 海が近くにあるからかもしれない。
外には耕された小さな菜園があり実る根菜が季節を報せる。
「いいね、絵にしたい」
「わたしもみたい、な。 巴君の描く絵」
「さ、最近は人体構造ばっかりだから! 筋肉とか女の子とかまだ描けないし……」
「私も付いたよ、肉……!」
「ちょっだめだよ! 朝之さん!」
胸から下に羞恥心はないらしく、股から上も羞恥心はないらしい。
運動を欠かさないと言ってたことを思い出す。 にしてもすごい4パック。 自分を追い詰めて磨きをかけられるなんてなんて素敵なんだろう。
「触る?」
「いいの!?」
何故か誇らしげだ、実は見せたかったのかもしれない。
でもなんだろう……すごいエッチだ……
すごい変な顔で触ってしまうかもしれないので背後に回りそっとキモがられぬよう指は遊ばせずいざ尋常に──
「やあ! 帰ったよ日菜、今日は食後にデザートを」
即座に視線を玄関に落とす。 落とすってなんだ? でもこの展開はもう這い上がれ流記がしないから落ちるであっているのかもしれない。
「あっ……あ」
「兄さんこれは」
「はっ は?」
状況が理解できないですよね、僕でもそうなります。
しかも兄さんからすれば血縁が知らぬ存ぜぬの男にまさぐられようとしているのだ。
一体この状況でなにが正解なのか? 僕が兄さんの立場ならどうする?
「誰なんだオマエはアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」
僕もそれが正解だと思います。
雛ちゃんのラノベ志望 鬼ごろ氏 @OniOniitigO0
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