第5話 日菜の挑戦

 ライトノベルを読んでいます。


 小説みたいに沢山読んでみるけれど、漢字が少なくて挿絵があって改行が多い。


 書く側や勉強の一環として読む人間としては質より量ではあるが、早速スランプに陥りそうです。


 まだデビューすらしていないのにスランプとは? だけど、本当に心が折れそうです。 骨のように折れればその都度、丈夫に育ってくれるといいのですがそうもいきません。 


「生き物は、生物なまもの


 折れたらそのまま腐ってしまうこともある。 だからそんなときは


「じょぎんぐ」


 これに限る。 買って満足していたウェアに得意げに──正確にはイキっているとも言う──袖を通す。  室内で時間を有する者の肉体は非常に質素で簡単に死んでしまうと兄さんはよく言う。 実際そうだ、兄さんのお友達は早くに亡くなっている。


 理由は衰弱、室内生活に加えインターネットを駆使すれば外出せずとも求めるものは簡単に手に入るしよく口を合わせたように「何時間しか寝ていない」なんて、だから適度な運動と八時間の睡眠は欠かさない。


 よく寝る時間を削って勉強なんて聞くが大切なのは管理能力だ。 


ソレも簡単には身につかない。 自身の生活時間から本当に不要なものを取り除いて時間を産み出すのだ。 


「しゅっぱ、つ」


 外の空気は昼を迎えるというのに冷たく、走り出せば火照る体とは裏腹に肺が凍ってしまいそうだ。 


無茶で筋肉痛なんて起こしたら日菜の心は折れちゃう。

 

だから一定のテンポで1.2.1.2と歩数を刻む。


 歩数計は達成感を与えてくれるが前日の自分に負けた日には勝つための残り数歩のために苦い虫を噛むようなきぶんになるのでもう使わない。


 視界良好。 景色を楽しむのだ。


 どんな些細なことでも自分ならどう描写するか? 表現する? 人の数だけ道を歩く猫の伝え方は変わるのだ。


「気持ち……いい!」


 雲が群れをなして移動を行い名も知らぬ鳥は旅の途中で地上を見下ろすのだろうか。


 血縁と本能に刻まれた旅路は長くそれでいて確実に次へと繋げようと生きていく。


 潰れた本屋も今も続いている精肉店も懐かしさを残したままこの町に傷跡を残す。


 私はどんな作品を世に残せるだろうか? 


 不安もあれば希望もある。 描く者が万ならば実際に目指すのは千。 残ったのは百で選ばれた者が十もいれば数年後には誰も残っていないかもしれない。


 時だけが無慈悲に過去としてひとまとめに置いていくのだ。


「生き残らなくちゃ」


 そのためには賞を取らなければならない。 投稿サイトでのスカウトを調べた過程で知ったがソレはあくまでも受けの姿勢であり私には向いていないなと。


 だって来るかどうかも分からない打診を待ち続けるなんてつまらない。 攻めの姿勢あってこそだ。 


 だからこそ私は行動に出る。 兄さんは気づいていないと思っているかもしれないが私は知っているのだ。


 


 だからここから先は少し反抗期になろう。 私には目標があるのだ。


 兄さんにライトノベルを認めて欲しい

 なまこ先生がライトノベルを書いていることを知って欲しい

 

ライトノベル作家としてデビューしたい


 そうして私が共有することのできなかった感情を同世代の沢山の子達に知ってもらいたいのだ。 若人達は活字を読まないから


 沢山、私を知って欲しい。


 あと兄さんには幸せになって欲しいな、なまこ先生と両片思いなのは確実だ。


 私が不承不承ながら恋のキューピッドとして押して参らせていただくのだ。


「日菜!」


「兄、さん」


「運動かい?」


「うん、すこしだけ」


「そうか、今日はカレーにしようか」


「うん!」


 兄さんから買い物袋を分けて貰い来た道を戻ろう。 兄さんの作る家族カレーはキノコと豆がたくさんで美味しいんだ。


「兄さん」


「なんだい日菜」


「おすすめの本があ、る」


「そうか。 楽しみだなあ」


「うん、ラノベなんだけどね。 兄さんに読んで欲しい、な」


 一瞬、硬直を見せた兄さんの顔はめがねが反射してよく見えず、それがよりミステリーさを際立たせた。


「だ、め?」


「いや、うん……そうだな、うん、うん……読もうか」


「やった」


 この日のために買っておいたなまこ先生の書籍があるのだ。 もちろんアニメも布教する。


 兄さんも先生のライトノベルを読めばすこしは気が変わるはずだ。


 楽しみだなあ 

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