第34話 押し寄せる敵
やがて夜が訪れた。雲が月を隠し、辺りは暗闇に閉ざされていた。魔騎士たちに見つかりにくくなったが、王宮の堀を越える手がやはり見つからなかった。
「なんとか手を考えねば・・・」リーカーは遠くに見える王宮をにらみ続けた。こうなったら強攻して門を突破しなければならぬのか・・・。横にいるエミリーは心配そうに彼を見ていた。
その時、上空でカラスがけたたましく鳴いた。暗闇でも活動するのは魔法の黒カラスに違いなかった。
「しまった! 見つかったか! エミリー! 急いで身を隠すぞ!」リーカーはエミリーの手を引いて林に駆け込もうとした。だが遅かった。カラスの鳴き声を聞いて多くの足音が向かってきていた。
「見つけたぞ! リーカー!」
リーカーが振り返ると魔騎士や魔兵が駆け寄ってきていた。もうエミリ-ともに逃げ切ることは難しいように思われた。
「エミリー。この林に隠れていなさい。もしこの父に何かあっても、お前は何としても王宮に駆け込んで女王様に会うのだ。よいな!」リーカーはエミリーから手を放して言った。
「パパ・・・」エミリーはリーカーのそばから離れようとしなかった。
「行くのだ! それがエミリー、それがお前の道だ!」リーカーは大きな声で叱るように言った。エミリーはリーカーのことが気になりつつも、少しずつ林の中に入っていった。
「リーカー! お前には抹殺命令が出ている。おとなしく討たれよ! この魔騎士バーンが討ち取ってくれる。」その魔騎士は言った。
「ここで貴様らに討たれるわけにいかぬ。だが逃げはせぬ。かかって来い!」リーカーは剣を抜いた。
「ふふふ。これほどの人数、それも我らは歴戦の魔騎士と魔兵。貴様一人でどうしようというのだ!」バーンは笑った。
「ワーロンの私兵になり下がった貴様どもに何ができる!」リーカーが言い放った。
「何を! それならば目にものを見せてやる! 行け!」バーンの合図で魔兵たちは剣にに魔力をこめて斬りかかってきた。リーカーは自らの剣に、
「***
の呪文をかけた。すると剣は生き物のように躍動した。魔兵たちの剣をはね返し、リーカーの剣は一瞬のうちに魔兵たちを斬り倒した。
「おのれ!」後に残った魔騎士バーンも剣を抜いて呪文を唱えた。
「いくぞ!」リーカーは素早く間合いに入ると、剣を振り下ろした。するとバーンの体を一刀両断したように見えた。
「なに!」リーカーは声を漏らした。剣は空を切り、バーンの体は右と左に分かれ、それぞれの体が一人のバーンになった。そのバーンたちはリーカーに斬りかかってきた。
「カーン!シュッ!シュッ!」リーカーはその2人のバーンに剣を振り下ろした。しかし手ごたえはなく、バーンは4人に増えていた。
(分身魔法か。)リーカーはこの上級魔法に驚きを隠せなかった。
「ふふふ。驚いたか。貴様の魔法など取るに足らぬ。こちらから行くぞ!」4人のバーンが襲い掛かってきた。リーカーは何とか後ろに下がりつつ、剣を避けていた。これ以上斬れば人数がさらに増えるであろうし、さすがに4人が相手ではリーカーはなす術がなかった。
(このままではやられる・・・だが・・・)リーカーは魔法の修行を思い出した。
(確かに4人だ。しかし魔法で増えているだけだ。斬られれば死ぬ。もしかすると斬られる瞬間に、剣を避けて斬られているふりをして分身しているだけかもしれぬ。斬ったことで人数が増えたのを見せて、私を混乱させ、十分に剣を振るわせないために。逃がられずに確実に仕留められれば・・・)リーカーはさっと後ろに下がり剣を構えなおした。
「これで最後だ!」4人のバーンは剣を振り上げてリーカーに迫ってきた。そこには油断という隙があるように見えた。リーカーは向かっていくと、
「***
一瞬の素早さで剣を横に払った。すると剣が魔法で輝き、光を放った。向かって来た4人のバーンがその光に飲み込まれた。
「うわっ!」悲鳴があがった。通り抜けたリーカーが振り向くと、4人のバーンを包んだ光は消え、彼らは地面に倒れた。そこに転がったのは一人のバーンの亡骸だった。
「ふうっ・・・」リーカーは剣をしまうと息を吐いた。敵を倒した安心感とともに体を激しい痛みが襲っていた。また魔法を使いすぎたため、鉄の作用が出てきた。リーカーの左大腿が金属のように固くなっていた。
(またしても・・・だがこれで王宮に・・・)リーカーがそう思った時、
「見事だった。」手を叩きながら男が出て来た。その顔には不気味な笑いを浮かべていた。それはあのザウス隊長だった。
「ザウス! 貴様だな! 我らを抹殺しようとしたのは!」リーカーが声を上げた。
「ああ、そうだ。ワーロン将軍の御命令だ。」ザウス隊長は冷たく言い放った。
「貴様らの陰謀を女王様に申し上げる。ここを通してもらうぞ!」リーカーが叫んだ。
「通すわけにはいかぬ。ここで貴様を葬る。反逆者としてな。」ザウス隊長は冷ややかに言った。
「では剣で決着をつけてやる!」リーカーは剣を抜く態勢で慎重に足を運んだ。
「貴様ごとき、俺に敵うと思うのか。」ザウス隊長は構えもせず、ただリーカーを見ていた。
「ならば受けてみよ!」リーカーは素早く剣を抜いて斬りつけた。だがザウス隊長は簡単にそれを避けた。
「***
リーカーは剣を振り下ろした。しかしザウス隊長は余裕でかわして平気な顔で立っていた。
「貴様の剣の動きは見えている! 貴様などこれで十分だ。
「なに!」リーカーはうわさに聞く召喚魔法の黒竜を見て驚きを隠せなかった。
「行け!この男を殺せ!」ザウスが言うと黒竜はリーカーに向かって来た。リーカーは剣で防ぐが、黒竜は執拗にリーカーに襲い掛かって来た。剣と黒竜の牙と爪が火花を散らして、何度もぶつかり合った。
「なかなかやるな。それなら。」ザウス隊長はゆっくり剣を抜いた。そして呪文を唱えると、その剣は黒色になった。リーカーがそれに気づかず、黒竜と激しい戦いを繰り広げていた。ザウス隊長はそっと背後から近づいた。
「死ね!
「うわーっ!」強い衝撃を受けてリーカーは声を上げてそのまま堀に落ちていった。
「やったか!」ザウス隊長は堀をのぞきこんだ。だがしばらく待ってもリーカーは浮かんで来なかった。そこに多くの魔騎士と魔兵が集まってきていた。
「あの刃の衝撃を受ければ十中八九、生きてはいまい。だが念のためここを見張れ! さて娘はどこだ? 遠くに行っておるまい。探せ! 探せ! 探し出して殺せ!」ザウス隊長は大きな声で叫んだ。
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