第32話 友情に捧げる
「生ぬるいことよ。」その戦いを丘の上からで見ていたヤギシ副隊長は苛立っていた。勝負はいつまでもつかず、両者はただ対峙しているだけだった。
(頑固で実直なカロムが本当のことを知ったら厄介だ。このまま2人ともここで葬ってしまうか。)ヤギシ副隊長は剣を抜いた。呪文を唱えると、その剣にパチパチと火花が飛んだ。その剣を頭上に掲げてそのまま振り下ろした。
「
すると戦う2人のそばにカミナリが落ちた。それは、
「ババーン!」と地面に大穴を開け、辺りに焦げた匂いが広がった。近くにいたリーカーもカロムも感電して体がしびれていた。2人は片膝をついて肩で息をしていた。
「何をする!」カロムが叫んだ。
「2人とも仲良くあの世に行け!」ヤギシ副隊長は叫んだ。その目には残忍な光が宿っていた。
「貴様! まさか!」カロムはあまりのことに唸った。
「そうよ。冥土の土産に聞かしてやろう。リーカーの言ったとおりだ。ワーロン将軍の命で魔騎士にリーカーの家を襲撃させた。アーリーは殺せたが、エミリーとリーカーには逃げられた。だからこうしているのだ! 気づかぬ貴様がとろいのだ! はっはっは。」ヤギシ副隊長は嘲笑した。
「どうして我が家を襲ったのだ!」リーカーが声を上げた。
「いいだろう。死ぬ前に教えてやろう。女王様の妹君、マデリー様のことは知っておろう。下劣な振る舞いから女王様から疎んじられていたが、先頃、ワーロン将軍に接近されてある取引を提案された。」
「提案だと!」
「自分を女王にしてくれれば、その次の女王の座をワーロン将軍の一人娘、サランサ様に譲ろうと。サランサ様も王家の血を引いているからな。」
「マデリー様は女王にふさわしくない。それは皆、意見は一致しているはずだ。」リーカーは言った。
「それはどうかな? 現在、病気で寝込まれていたエリザリー女王は危篤になっておる。女王様の娘のアーリー、孫のエミリーがいなくなれば当然、マデリー様が女王になる。マデリー様がその後を継ぐには、2人が邪魔だというわけだ。」ヤギシ副隊長は得意げに言った。
「それでアーリーを!」リーカーは怒りで両手の拳が震えていた。
「リーカー! ここでお前もエミリーも死ぬのだ。親子3人で仲良くあの世に行けるだろう。はっはっは。」ヤギシ副隊長はまた笑った。
「許せぬ・・・」リーカーは唇をかみしめた。その横でカロムもヤギシ副隊長を睨みつけていた。
「さあ、これで最期だ。行け!」ヤギシ副隊長の合図で魔兵が2人に襲い掛かった。
「負けはせぬ!」リーカーとカロムは何とか立ち上がった。魔兵たちが剣を向けてくるが、2人はお互いの背を守りながら剣を振るった。その勢いに魔兵たちは次々に斬られ、やがて全滅した。
「ううむ。まだそんな力が残っていたか! ならば俺が相手をしてやる!」ヤギシ副隊長はまた剣を掲げて振り下ろした。
「
雷が2人に落ちてきて地面で爆発した。2人は身をかがめた。
「まだまだ!」何度も何度も剣が振り下ろされた。その度に雷が落とされた。2人は動くこともできず、感電して体にダメージを受けていた。
「パパ・・・」リーカーを心配して隠れているエミリーが顔を出した。
「そんなところに隠れていたか! エミリー死ね!」ヤギシ副隊長は剣を振り下ろした。
「バーン!」そこに雷が落ちてきた。
「エミリー!」リーカーは驚いて叫んだ。地面が爆発し煙が舞った。
「直撃だな。もう生きてはいまい。」ヤギシ副隊長は目を凝らしてそこをよく見た。するとそこにはカロムがエミリーの上にかぶさっていた。とっさにカロムがエミリーを守り、代わりに雷の直撃を受けていた。
「くそ! 邪魔しよって! 食らえ!」ヤギシ副隊長はまた剣を振り下ろした。
「ババーン! ババーン!」雷は落ちるが、カロムはエミリーの上から動かなかった。
「うううっ・・・」と歯を食いしばって懸命に耐えていた。
「カロム!」リーカーが声をかけた。
「エミリー様は俺が命を賭けて守る。はやくヤギシを倒せ!」カロムは声を振り絞って叫んだ。それを聞いてリーカーはヤギシ副隊長のもとに駆けて行った。ヤギシ副隊長はエミリーに雷を落とすことに気を取られてリーカーの動きを見落としていた。
「ヤギシ! 貴様を倒す!」リーカーはヤギシ副隊長のそばまで来ていた。
「おのれ! いつの間に!」不意を突かれたヤギシ副隊長はとっさに雷の剣をリーカーに向けた。しかしその前にリーカーは、
「***
を放った。その剣はヤギシ副隊長を真っ二つに斬り裂いた。真っ赤に血で染まりながらもヤギシ副隊長は立っていた。
「お、おのれ・・・。だ、だがマデリー様は必ず女王になる。エリザリー女王の最期は近い。はっはっは・・・」そう言うとそのままばったりと倒れた。死んでも恐ろしい形相で空を睨んでいた。
リーカーはエミリーの元にすぐに戻った。エミリーはかばってくれたカロムを心配そうに見ていた。
「しっかりしろ!」リーカーがカロムを抱き上げた。
「エ、エミリー様はご無事か?」カロムはもう虫の息だった。
「ああ。お前のおかげだ。」
「そうか・・・それはよかった・・・。すまなかった。お前を疑ったりして・・・こうやって死んでいくのも天罰かもしれぬな。」カロムは少し笑いながら言った。
「何を言う! 大した傷じゃない! 死ぬな!」リーカーは目に涙をためていた。
「リーカー! 後は頼むぞ。女王様をお助けしてくれ・・・」カロムはそこでこと切れた。
「カロム・・・」リーカーは必死に涙をこらえ、親友の亡骸をぐっと抱きしめていた。その頭上で白フクロウが空に舞っていた。
リーカーが腕を伸ばすとその白フクロウは止まった。するとそれは恐ろしいことをリーカーに伝えた。女王様が危ないと・・・
「もう王宮では女王様を助ける者は少ないのかもしれぬ。白フクロウ、伝えよ。わかりました。このリーカー、女王様のために王宮に向かいます。」そう言って白フクロウを放した。
深手を負ったマークスはダーゼン寺院で世話になっていた。その傷は少しずつ癒えていたが、回復したわけではなかった。だがすぐに王宮に行かねばならなかった。
それはミラウスが送ってきた魔法の黒カラスの言葉だった。
(マデリー様が陰謀の背後にいると・・・
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