第31話 立ちはだかる友
ヤギシ副隊長の隊はリーカーが通るであろう道で待ち構えることにした。魔法の黒カラスからの知らせではリーカーたちは確かにこちらに向かっていた。戦いは目の前に迫っていた。
彼はもう一人、魔騎士を連れていた。それはカロムという男だった。彼はリーカーの討伐にぜひ加えてくれと懇願してきたのだった。魔騎士隊の中では中堅どころで、目立つ存在ではなかったが実直な男だった。真面目で命令に忠実であり、頑固なほど筋を通すのにこだわっていた。
カロムには、リーカーは気がふれてアーリー様を殺害してエミリー様を人質に逃げ回っている、幼いエミリー様をだまして・・・という風に伝えていた。
「リーカーが来ましたら是非、私を向かわせてください。」カロムは何度も言っていた。ヤギシ副隊長はそれを認めた。どうせ隊の中でも目立たぬ奴、手柄が欲しいのだろうと。ただ気になるのは、カロムは普段とは比べ物にならぬほど厳しい目をしていた。
王宮ではサランサはマデリーやワーロン将軍たちの陰謀を知ってしまった。しかもエリザリー女王の命まで危なくなっていた。
(早くリーカー様にお知らせしなければ・・・)サランサはエリザリー女王からようやく取り戻した白フクロウに言葉を託した。
「頼むわね。リーカー様の元へ。」サランサは白フクロウを空に放った。するとそこにワーロン将軍が入ってきた。
「サランサ! 何をしておる?」
「いえ、何も・・・」サランサは目を伏せて言葉を濁した。そのおかしな様子にワーロン将軍は勘づいた。
「今、放った白フクロウ。まさか、お前がリーカーに伝えているのか?」ワーロン将軍が聞いた。
「・・・」サランサは何も言わなかった。その態度はそうだと答えたのも同然だった。
「そうか。お前は何もかも知っているのだな。だが安心しなさい。お前の幸せを一番に考えておる。」ワーロン将軍が言った。
「でしたらお止めください! こんなこと、もうたくさんです!」サランサは言った。普段はおとなしいサランサの、その感情的な態度に驚きつつも、ワーロン将軍はあることを思い出した。
「そうか。お前、心配しておるのだな。あのリーカーのことを。」
「いえ・・・」その言葉にサランサはひどく動揺していた。
「そうか。お前はリーカーに惚れていたんだったな。しかし奴は王女のアーリーと結婚したんだぞ。もう奴のことは忘れろ。どうせ奴は殺されるのだから。」ワーロン将軍は残酷な言い方をした。それにサランサは強く反応した。
「私は今でもあの方を陰からお慕いいたしております。あの方のためなら・・・」サランサははっとして途中で言うのをやめた。これ以上話すと、自分がどんなことを口走るかわからなかったからだった。
「まあ、よい。お前がどんなにあがいても奴は死ぬし、エミリーもこの世からいなくなる。お前はそんなことを忘れて幸せな女王になるのだ。はっはっは。」ワーロン将軍は笑いながらそう言った。
「ひどい!」サランサは涙をこぼしながら部屋を出て走り去った。
リーカーはエミリーとともに道を進んでいた。すでに魔法の黒カラスに位置を知られており、鬱蒼とした森の中を進んで思わぬ敵の襲撃を受けるよりも、見晴らしのいい道で戦った方がいいと思っていた。
すると前方に人影が一つ見えた。それは道の真ん中に仁王立ちしていた。
「カロムか!」リーカーはその人影を見てはっきりわかった。幼いころから剣の腕を供に磨き、片や剣士、片や魔騎士と道が分かれてしまったが親友の間柄だった。そのカロムがリーカーに戦いを挑もうとしていた。リーカーが近づいて行くと、
「久しぶりだな。」とカロムが声をかけた。
「そうだな。1年ぶりか。」リーカーも口を開いた。
「その様子では気がふれたという噂は嘘のようだな・・・ではなぜアーリー様を手にかけたのだ!」カロムは大きな声を上げた。それは問い詰める以上の迫力だった。
「私ではない。多分、魔騎士がワーロンやザウスの命を受けてやったのだ。」リーカーは答えた。
「言うな! お前がやったことは明白だ。ザウス隊長がとうに調べているのだ。俺にまで嘘を言うのか! 貴様、そこまで腐ったか!」カロムはさらに大きな声を上げた。その声には無念さがにじみ出ていた。
「お前に嘘を言ったことがあるか! 信じてくれ!」
「それならこの剣で聞いてやる。」カロムは剣の柄に手をかけた。
「やめて! パパのいうことは本当よ。信じて!」横からエミリーが言った。しかしカロムはエミリーに、
「エミリー様。あなたは騙されているのです。この私めがこの奸物を退治し、あなたを救っても見せます。さあ、そこから離れてください。」とやさしく言った。エミリーはリーカーから離れたくなかったが、
「向こうの岩陰に隠れているのだ。」とリーカーに言われ、仕方なくそこに身を隠した。
「本当にお前と戦わねばならぬのか?」リーカーは剣の柄に手をかけた。
「問答無用!」カロムは剣を抜くと斬りかかってきた。リーカーも素早く剣を抜くとそれを受け止めた。「カキーン!」という金属音が辺りに響き渡った。そして両者は何度も剣を合わせた。
「親友だったお前を斬るのは俺しかいない。」カロムは呪文を唱えた。すると地面から土煙が上がって、それが剣と体全体に付着した。
「魔人の剣だ。行くぞ!」カロムは剣を振り下ろした。
「ガチッ!」その剣は重くのしかかった。リーカーは何とか受け止めたが、今にも押しつぶされそうだった。リーカーは
「***
の魔法を剣にかけた。すると剣が分厚くなり、鈍い光を放った。その剣で力を籠めるとカロムの魔人の剣を押し返した。2人は間合いを取って剣を構えた。
「私の目を見ろ! 嘘をついている者の目か! 」リーカーが言った。カロムはその目を見た時、迷いが生じた。リーカーは嘘を言っていないと感じた。しかも彼の剣は邪悪にまみれることもなく、すがすがしいほどのキレがあった。そしてリーカーの姿をよく見て、驚いて目を見開いた。彼の破れた服の間から黒い鉄の皮膚が見えていた。それに気づいたリーカーは、
「そうだ。魔道剣の
「お前・・・そこまでして・・・」カロムはリーカーの決意が固いことを知った。剣を振り上げたまま、動けなかった。
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