第30話 王宮潜入

 ミラウスはサランサの部屋に連れて行かれた。その前かがみで顔を伏せて歩く姿は農夫のようであったが、サランサの部屋に入ると背筋を伸ばしてきりっとして魔騎士にふさわしい姿になった。そしてサランサの前に片膝をついて頭を下げた。

「サランサ様。魔騎士のミラウスです。マークス様から王宮の異変を探るように言われました。」

「ミラウス殿。王宮では父のワーロンが陰謀を企てております。」サランサは言った。

「ワーロン将軍が!」ミラウスはあまりのことに衝撃を受けた。リーカー追討の命令を出した本人が陰謀の元だったとは・・・

「お恥ずかしいことに私は止めることができなかった。父は女王様が病に臥せっているのをいいことにこの王宮で好き放題しております。ザウス隊長もそうです。2人は大きな企みをしております。」サランサは目を伏せて言った。

「それは? ワーロン将軍はいかなることを企んでいるのですか?」

「女王様の妹君のマデリー様を次期女王にしようとしております。」サランサは言った。

「なんと! そんなことが!」ミラウスは驚いた。

「ええ、そうです。それでアーリー様とエミリー様が邪魔になった。そこでお2人を闇から闇に葬ろうとしました。しかしリーカー様がエミリー様を守り、父が差し向けた魔騎士たちから逃げていたのです。」サランサは言った。

「そうでしたか・・・私も他の魔騎士も、マークス様もその陰謀の片棒を担がされていたのか!」ミラウスは唇をかんだ。

「ミラウス殿。お願いです。リーカー様をお助け下さい。父の野望をくじいてください。」サランサは言った。しかしミラウスは仲間の魔騎士を次々と倒したリーカーに味方をするのは気が進まなかった。

「サランサ様。お気持ちはわかります。しかしリーカーに味方することはできない。それより私は女王様に忠誠を尽くす魔騎士。その女王様をないがしろにするワーロン将軍の悪事を糾弾するのが本筋というもの。証拠を集めて魔騎士の仲間、そしてマークス様とともに立ち上がるつもりです。」ミラウスはきっぱり言った。

「それではリーカー様が・・・」サランサが言いかけたが、ミラウスはそれを遮り、

「リーカーは所詮、追われる身。今さら期待できません。我々がこの国を正します。」と言って部屋を出て行った。


 ワーロン将軍の執務室に歴戦の魔騎士が一人、入って行った。そこにはワーロン将軍とザウス隊長が待っていた。

「ヤギシ副隊長。よく来た。」ワーロン将軍が声をかけた。

「お呼びいただき光栄です。」ヤギシ副隊長が言った。

「お前の腕前は儂がよく知っている。やれるな?」ワーロン将軍が値踏みするように尋ねた。

「ええ、もちろんです。」ヤギシ副隊長はニヤリと笑った。

「わかっているな。リーカーはもちろん。エミリーもだ。奴らは邪魔だ。」ワーロン将軍は言った。

「はい。すべてはマデリー様のために。」ヤギシ副隊長はワーロン将軍の陰謀に加担していた。

「では早速だがすぐに任務に出てくれ。魔法の黒カラスが今頃、リーカーを補足しているはずだ。」ザウス隊長が言った。

「わかりました。もう一人、魔騎士を連れて行きます。どうしてもリーカーと戦いたいと志願する者がおりますので。」ヤギシ副隊長は言った。



 ミラウスはマークスに魔法の黒カラスを放った。そこに王宮の陰謀が渦巻く状況を言葉として納めた。それでマークス様が女王様のために動いてくれることを願っていた。

(もうすこし内情を調べておくか・・)

 ミラウスは姿を魔法で隠し、ワーロン将軍の執務室まで言った。すると中から人の声が聞こえていた。彼はドアの近くまで行き、魔法を使って中を透視した。

 すると中ではワーロン将軍が片膝をついていた。その前に誰かがいるようだった。ミラウスは耳を澄ませた。

「ワーロン将軍! どうなっておるのだ!」

「申し訳ありません。マークスまでやられました。しかしご安心ください。副隊長のヤギシを派遣しました。すぐにいい報告ができると思います。」ワーロン将軍は言った。

「うむ。ならばよい。それでエリザリーの方はどうだ?」

「一時は弱られていたのですが、最近なぜか元気を取り戻されております。」ワーロン将軍が答えた。

「なんだと! それでは何にもならぬ。何とかならぬのか!」

「しかしこればっかりは・・・」

「待てぬ。待てぬぞ。お前も腹をくくるのだ。エリザリーを一思いに。」

「しかしそれは・・・マデリー様。」ワーロン将軍がそう言ったとき、ミラウスは、ワーロン将軍の前にいる者がエリザリー女王の妹、マデリーであることを知った。マデリーはエリザリー女王から嫌われていたので、王宮に入りことは許されなかった。だからここにいるというのは、魔法を使って無理に入ってきたということだった。しかもワーロンたちと図って陰謀を企てている。女王の暗殺も。

「なんということを・・・」 ミラウスは驚いて思わず声を立ててしまった。すると中で、

「聞いていた者がいるぞ!」マデリーが声を上げた。

「すぐに亡き者にします!」ワーロン将軍はすぐに立ち上がってドアの方に向かって来た。ミラウスは恐ろしくなり、そのままそこから走って逃げた。ドアを開けたワーロン将軍は確かにその後ろ姿を見た。

「ミラウスか! なぜ、あ奴がここに? 聞かれたからには消さねばならぬ。」ワーロン将軍は魔法の黒カラスを呼び寄せ、言葉を収めて外に放った。


 ミラウスは必死に逃げた。多分、ワーロン将軍に姿を見られている。この王宮を抜けなければ殺される・・・彼は門を目指した。とにかく魔法で姿をくらませば、門を通り抜けて外に逃げられる・・・もう門が見えてきていた。

「どこへ行く?」その前に立ちふさがったのはザウス隊長だった。ミラウスはザウス隊長も陰謀に加担していることを直感した。

「いえ、リーカーを討つために戻ろうとしまして・・・」ミラウスはそう言いながらいつでも剣が抜けるように構えていた。

「ほう、そうか。しかしお前にここに来るように命令した覚えはない。何か探っておるな!」ザウス隊長は言った。

(こうなっては隠しきれない。いきなり斬りかかれば、いくらザウス隊長でも倒せるかもしれない。)ミラウスはそう思って、

「まさか、そんな・・・。わたしがどうしてそんなことを・・・」ミラウスは笑顔を作りながらザウス隊長に近づくと、いきなり剣を抜いて、

「ザウス隊長! 覚悟!」と斬りかかった。しかしザウス隊長はそれをやすやすと避けると、剣を抜いて振り下ろしてきた。ミラウスはその剣を受けようとしたが、何度も何度も斬られていた。

「ううっ・・・」ミラウスはザウス隊長に全く歯が立たないことを悟った。しかしこのまま死ぬわけにはいかなかった。何とか生き延びてマデリーたちの陰謀を伝えなければ・・・。ミラウスは深手を負ったまま王宮に引き返した。

「ふふふ。逃げよったか。だがあの深手、もう長いことはあるまい。」そう言ってザウス隊長は引き上げていった。



 ミラウスは何とか王宮の廊下を歩いていたが、力尽きて倒れた。もう先がないことがよく分かった。その時、そこを通りかかった者があった。その者は瀕死のミラウスの姿を見て駆け寄ってきた。

「ミラウス殿。しっかり!」それはサランサだった。彼女はミラウスの体を起こした。

「サ、サランサ様。陰謀はマデリーから出ております。リーカーやエミリー様を亡き者にし、女王様の命まで狙っております・・・」それだけ言ってミラウスはこと切れた。それを聞いてしまったサランサは目の前が真っ暗になる気がした。女王様まで手にかけようとしているのか・・・彼女はミラウスを下ろすと急いで部屋に戻っていった。

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