第5章 ニールの港

第15話 裏街道の刺客

 ニールの港に向かってリーカーとエミリーは裏街道を進んでいた。そこは野原の中の一本道で身を隠すところはなかった。だが幸いなことに魔法の黒カラスは飛んでおらず、親子2人は誰にも知らせずまま港に入れるように思えた。

「おっ? 誰か来る。」その野原の中に寝転んでいる男が2人いた。滅多に人の通ることのない裏街道で彼らは網をかけていた。一人の男が身を起こして、草の間から裏街道の方をのぞいた。

「ドン兄貴。親子連れが歩いていますぜ。」

「親子連れ? どれどれ。」ドン兄貴と呼ばれた男も身を起こした。彼も2人の姿をとらえた。

「何か、訳アリのようですぜ。」

「うーむ・・・。もしかすると・・・。おい、ヤス! こいつは大物かもしれねえぜ。」

「そうなんですか?」

「ああ、多分、あいつだ。リーカーだ。」ドンは答えた。

「リーカー? あの妻殺しの?」ヤスが目を見開いて驚いていた。

「そうだ。ザウス将軍から俺たち賞金稼ぎに情報があった奴だ。生け捕りだろうが死んでいようがばく大な賞金が出るっていう事だ。」ドンは言った。

「じゃあ、早速ここでやっちまいましょう。」ヤスは立ち上がろうとした。

「ちょっと待て! 奴は魔法剣士らしい。それも手練れの。うっかり手を出したらこっちがやられてしまうぞ。」ドンは止めた。

「じゃあ。指をくわえて見ているだけですかい?」ヤスが残念そうに言った。

「君子危うきに近寄らずだ。別の獲物を探すか・・・」ドンはそう言ってまた草むらに寝転んだ。するとその真上の空中に陰険な男の顔が浮かんでいるように見えた。

「ひいっ!」ドンは驚いて飛び起きた。するとその顔は降りてきて黒いマントとトンガリ帽の男の姿になった。

「な、なんだ! 貴様!」ドンとヤスはビビっていた。

「ふふふ。儂はウイッテ。お前たちに力を貸してやろうと思ってな。」その男は魔法使いのウイッテだった。

「力を貸すって、どういうことだ?」ドンが聞いた。

「あのリーカーを討ち取りたいのだろう。」

「ああ、しかし奴は魔法も使える。それじゃあ、敵わない。剣だけなら俺たちでやれるのだが・・・」ドンはあきらめたように言った。

「では奴が魔法を使えないようにしてやろう。それなら奴に挑むか?」ウイッテは不気味に笑って言った。

「そ、そうなのか? それはありがてえ。それならやってやるさ。」ドンは胸を叩いた。

「では手伝ってやろう。ただし魔法が使えなくなるのは、リーカーの周り10メートルだけだ。」ウイッテが言った。

「十分だ。それなら我らが討ち果てせる。」ドンがそう言うとヤスはうなずいた。


 王宮のワーロン将軍の執務室ではザウス隊長が情報を集めていた。

「リーカーはマールの町にいたらしいのですが、そこから姿を消したようです。」

「マールか・・・。すると次はどこに?」ワーロン将軍は地図をじっと見た。

「ツーロンの町かダーセン寺院、ヤハト村・・・そんなところでしょうか。」ザウスは言った。

「いや・・・奴は裏をかくはず。ニールの港かもしれん。」ワーロン将軍の目が光った。

「まさか・・・かなりの難所を通らねばなりません。」ザウス将軍が言った。

「いや、だからこそ。人が通らぬからよいのかもしれん。マーカスに伝えて見よ。」ワーロン将軍は言った。



 リーカーはエミリーとともに細い道を歩いていた。そこからはもう山に入る。その険しい山道を抜ければニールの港に着くはずだった。

「エミリー大丈夫か?」リーカーが声をかけるとエミリーはうなずいた。しかしその顔には疲労の色があった。

「少し休むか・・・」リーカーは大きな木の根元にエミリーを座らせた。そして魔法で水や食べ物を出そうとした。その時、リーカーは何かの気配を感じた。周囲に結界のようなものが張られている・・・そんな感じだった。

(なんだ? これは?)気が付くと魔法をかけたはずだが、水や食べ物は出ていなかった。リーカーは再び魔法をかけたがやはり何も出ていなかった。

(魔法が使えぬ・・・)

 すると矢が飛んできた。リーカーはすぐに剣を持つとそれを払った。それでも矢は次々に飛んできた。普段なら魔法の結界で防ぐところだが、それが使えないためエミリーを抱いて木の陰に隠れた。

「リーカー! 覚悟!」リーカーの前に男が現れた。それは弓に矢をつがえたヤスだった。

「何者だ?」リーカーが声を上げた。

「賞金稼ぎのヤス! お前の首には懸賞金がかけられている。恨みはないが討たせてもらう!」ヤスは矢を放った。それをリーカーが剣で払った。ヤスはまた矢をつがえてじりじりと近づいてきていた。

(もう少し、接近してくれば、次に矢を放った瞬間に飛び出せば斬ることができる!)リーカーは間合いを図っていた。しかしリーカーの背後にもう一つ人影が迫っていた。それはナイフを投げ作ようとしているドンだった。リーカーが動いた瞬間、ナイフを投げて背中に突き立てようとしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る