第14話 魔法の剣

 ヤニマたちは屋敷に戻った。けが人が多く、痛みで唸る声が響いていた。

「くそ! 頼りねえ奴らだ!」ヤニマはイライラしていた。

「お困りのようだな?」そこに姿を現した者がいた。黒いマントに黒いトンガリ帽、それは魔法使いの男だった。

「いつの間に! お前は誰だ?」ヤニマは驚いて身を引いた。

「驚くことはない。儂は魔法使いのウイッテ。さる高貴なお方に仕えておる。困っているようだから力を貸してやろうと思ってな。」その魔法使いは言った。

「本当か? それであいつをやっつけられるのか?」ヤニマは聞いた。

「ああ。奴は魔法剣士だ。一筋縄でいかぬ。だから魔法を使って助けてやろうと思ってな。」

「それは助かる。しかしあんたも奴にうらみでもあるのか?」

「ああ。奴は残酷で恐ろしい奴だ。多くの者が痛めつけられたのだ。だから儂が何とかしようと思ってな。それ!」ウイッテは呪文を唱えて大きく手を回した。するとけが人は痛みが取れ、その傍らの剣は光り輝いた。

「すべて魔法の剣となった。これで戦えよう。さあ、早く奴のもとに行くのだ。ぐずぐずしていると奴は逃げてしまうぞ」ウイッテはそう言った。

「ありがてえ! よし! 皆、行くぞ!」ヤニマとやくざ者たちは剣を抱えてまた出て行った。その様子にウイッテはニヤリと笑った。


 魔法の黒カラスがマークスの元に戻った。その報告を受けて彼の目がキラリと光った。

「そうか! リーカーはマールの町か! ミラウスとトンダにも伝えろ! そこで合流してリーカーを討つ!」マークスは黒カラスを飛び立たせた。

「今からマールの町に急ぐ! 遅れるな!」そう言うとマークスは馬を走らせた。その後を魔兵が続いて行った。


 ウイッテもリーカーとヤニマたちの戦いの様子を見ておこうと旅館への道を歩いていた。するとぞの途中、彼の前の木々に光が差し込んで人の姿が浮かび上がった。

「これは・・・」ウイッテはあわててひざまずいた。

「ウイッテ。どうなっておる?」

「はい。やくざ者をうまく焚き付けました。奴らが倒すのもよし。奴らと戦っている間にマークスに捕捉されて討たれるのもよし、というところでしょうか。」ウイッテはそう答えた。

「そうか。ならばよい。」その人影は消えた。


 リーカーは嫌な気配を感じた。ふと外を見るとまたヤニマたちがこちらに向かってきていた。

(あれは!)リーカーは気づいた。奴らは魔法に力を帯びた剣を持っていた。魔法を使える何者かがヤニマに力を貸したようだった。リーカーはその魔法には邪悪な気配を感じていた。

(魔騎士ではないようだ。それなら何者が? とにかく奴らを叩きのめさねば・・・魔法の剣を持っているから少々、厄介だが・・・)リーカーはそう思った。そばのエミリーがその気配を感じて不安な顔をしていた。

「大丈夫だ!」リーカーはエミリーにそう言って外に出た。

「今度は今までのように行かないぜ! この剣を見ろ!」彼らの剣は魔法で輝いていた。リーカーの見るところ、それはどんな者でも剣の達人にする魔法のようだった。

「さあ! 行くぜ!」ヤニマが声をかけるとやくざ者たちが剣を振り回して向かって来た。リーカーは剣を抜いて応戦したが、やくざ者それぞれの剣が鋭く、また激しく打ちかかってきた。リーカーは何とか剣を受け止めているが、全く反撃ができないほど追い詰められていた。

「いいぞ! このままやっちまえ!」ヤニマ自身も魔法の剣で打ち掛かってきた。

(このままではやられる! ならば・・・)リーカーは呪文を唱えた。


「***魔道剣マグスグラディス瞬動フラシュ***」


 剣に魔法をかけた。するとその剣は素早く動き、ヤニマややくざ者の魔法の剣の動きを凌駕して彼らを打ちのめした。

「ぐおっ!」ヤニマたちは激しい衝撃を受けてその場に倒れ込んだ。ただ平打ちだったため気絶しているだけだった。

「ふうっ」リーカーは息を吐いた。危ないところだったが魔法で何とか切り抜けた。だが彼の右肩が黒く硬くなり、鈍い痛みが広がっていた。

 女将とエミリーが外に出て来た。リーカーが無事なのを見てほっとしたようだった。

 その時、上空に白フクロウが現れた。かなり前にサランサが放っていたが、リーカーをなかなか見つけられなかったようだ。それはリーカーの腕に止まった。

「マークス様があなたを討つために出立されました。お気をつけて。」白フクロウはそう言うとそのまま飛んでいった。

「マークス殿が・・・」リーカーはそうつぶやいた。前魔騎士隊々長のマークスならばリーカーにとって強敵だ。しかし今は戦う時ではない。とにかくすぐにここを離れなければ・・・。

「女将。私たちはすぐにここを立つ。」リーカーは女将にそう告げた。

「すぐにでございますか?」

「ああ、ここに魔騎士が来るだろうから、このヤニマたちの始末はしてくれよう。ではさらばだ。」リーカーはエミリーとともに慌ただしくそこを出立していった。女将は不思議そうにそれを見ていた。


 まもなくしてマークスたちがマールの町に到着した。黒カラスの情報によりエーデル亭の前に集まった。

「ん?」そこでマークスは意外な光景を目にした。彼の前に多くの男たちが叩きのめされて倒れていたからだった。途中で合流したトンダがその男の一人を見て、

「あいつはヤニマ! この町で悪さをしていた奴です。逃げられていてなかなか捕まえられなかったのですが、やっと奴をとらえることができます。」と言った。

「魔騎士の方々ですね。お待ちしておりました。」そこに女将が出て来た。

「ここに幼い娘を連れた男が泊まっていただろう?」マークスが聞いた。

「ええ、その方にやっつけていただいたのです。しかしすぐに出立されてもういらっしゃいませんが・・・」女将が答えた。

「その者が妻の王女を殺害して逃げているリーカーだ。」横にいたミラウスが言った。

「えっ! あの方が・・・」女将は絶句した。

「我らは奴を追っている。早く討たねば何をするかわからぬ。それほど凶悪な奴だ。」ミラウスが言った。だが女将には信じられなかった。

 とにかくリーカーをまた追わねばならなかった。マークスは遠い空を見ていた。

(きっと私が討ち果たす。待っていろ! リーカー!)


 マークスたちは後をトンダに任せて、リーカーの後を追っていった。それを見送る女将は、

「あの方は悪い人じゃない。何かの間違いよ。きっと濡れ衣を着せられているんだわ。リーカー様。あなたの無実が晴れますように・・・」女将はそう祈っていた。

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