第12話 元魔騎士隊々長

 王宮のワーロン将軍の部屋に一人の男が呼ばれていた。ロイ・マークスと言えば泣く子も黙るビンデリアでの伝説的な魔法剣士だった。部屋に入るなり、

「マークス。久しぶりだな。」ワーロン将軍が声をかけた。

「この私に何の用かな? 今頃になって。」マークスが尋ねた。その言葉には棘があった。

「将軍はあなたに名誉挽回の機会をお与えようとしている。」横にいるザウス隊長が言った。

「名誉挽回? 私に汚名を着せたのは誰だと思っている。不愉快だ。私は帰る。」マークスは帰ろうとした。

「まあ、待て。今となっては昔のことを言い出しても仕方がなかろう。儂は今でも貴公の無実を信じている。」ワーロン将軍が言った。

「どの口が言うか!」マークスは吐き捨てるように言った。

「まあ、これはビンデリアの未来に関わることだ。女王様のためにも貴公の力が借りたい。」ワーロン将軍が言った。さすがに女王の名前を出されるとマークスも帰るわけにいかなかった。

「では私に何をさせたいのか?」マークスが尋ねた。

「リーカーが恐れ多くもアーリー様を殺害し、エミリー様を人質にして逃亡している。」ワーロン将軍が言った。

「リーカーが? そんな馬鹿な! リーカーはそのようなことをする者ではない!」マークスは言い切った。

「いや、そうだ。魔騎士たちに追わせたがすべてやられてしまったようだ。奴の反逆は明白。女王様はショックを受けて寝込んでおられる。貴公ならリーカーを討ち果たしてエミリー様を取り戻せると思ってな。これ以上、魔騎士たちを死なせたくないからな。」ワーロン将軍が言った。そう言われてマークスはしばらく考えた後にやっと答えを出した。

「それならば仕方がない。手を貸そう。」

「オースの森に逃げたはずだがそれ以降の消息がつかめぬ。現地に行って魔騎士たちの指揮を執って欲しい。前隊長の貴公なら魔騎士たちを統率できるはずだ。」ワーロン将軍はそう言って地図を投げて渡した。

「魔騎士たちの配置が書いてある。魔法の黒カラスも放っている。すべて情報があなたに集まるようにしてある。」ザウス隊長は言った。マークスはその地図を握り締めて将軍の執務室を出て行った。

「将軍。あのような男をなぜ?」ザウス隊長が聞いた。

「ここからではリーカーの動きがわからぬし、魔騎士たちの連携も悪い。マークスなら腕は確かで女王に対する忠誠度は極めて高く、現地で魔騎士たちの指揮も取れよう。奴ならリーカーを討ち果たせるはずだ。それに奴がこの近くにいると我らの妨げになるかもしれぬしな。一石二鳥というやつよ。」ワーロン将軍は不気味に笑った。



 マークスは廊下を歩いていた。彼にはリーカーがそのようなことをするとは信じられなかったし、ワーロン将軍やザウス隊長に陰謀のにおいをかぎ取っていた。しかしこうなってはリーカーを討ち果たしエミリーを連れ戻すしかなかった。

 考えをめぐらしながら歩くマークスの前にサランサが現れた。

「これはサランサ様。」マークスは頭を下げた。

「マークス様。お久しゅうございます。今日はどうしてこちらに?」サランサは尋ねた。

「お父上のワーロン将軍に呼ばれました。」マークスは答えた。

「父に? もしかして父に頼まれたのですか?」

「はい。リーカーの討伐とエミリー様の救出を。」

「マークス様。父は何かよくないことを考えているかもしれません。手をお引きになるわけにはまいりませんでしょうか?」サランサはそう願うばかりだった。マークスが出て行ったなら、さすがのリーカーも敵わないということがわかっていた。しかし、

「これは私がせねばならぬことです。女王様のために・・・そしてかつての部下にために・・・」マークスはそう言って頭を下げてサランサの前から離れた。

 マークスはこの王宮に着いたその足で女王の元を訪れていた。しかし会うことは許されなかった。そっと外からうかがう女王の気配は弱々しくなっていた。肉体的にも精神的にも・・・。

(こうなったからには一刻も早くエミリー様を連れ戻し、女王様にお会いいただく。それが女王様を力づける唯一の方法だ。)マークスはそう思っていた。

 一方、サランサは気が重かった。あの多くの部下から慕われているマークスがリーカーを討ちに行くという・・・

(とにかくリーカー様にお知らせせねば・・・)サランサは自室に戻っていった。

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