第7話 澄んだ心
ワーロン将軍は執務室に帰って来た。リーカーがアーリーを殺めたことをエリザリー女王に告げた。それで女王は心に大きなショックを受けて気力が失せて、体もかなり弱ってきたようでその死期が早まっているように感じた。
「うまくいったわい!」ワーロン将軍は満足してどっかりと椅子に腰かけた。その時、壁の一部が光り始めた。
「これは・・・」ワーロン将軍は慌てて椅子から立ち上がって、その前に片膝をついて頭を下げた。
「どうじゃ。首尾は?」その光は人の姿になった。
「はい。うまくいっております。アーリーは殺害いたしました。」ワーロン将軍が答えた。
「そうか? でエミリーはどうした?」
「それが・・・リーカーとともに取り逃がしまして・・・。今現在、配下の魔騎士に追わせております。おっつけ何とかなりましょう。」
「油断するでないぞ。敵ず仕留めるのだ!」
「はっ。」
「ところであの死に損ないの女王は?」
「アーリーがリーカーに殺された事を教えてやりましたら、かなりのショックを受けたようです。最期も近いかと。」ワーロン将軍は答えた。
「うむ。手違いがあったがまあよい。とにかくエミリーは早く始末せよ。」それだけ言うとその人の姿は消えた。
リーカーは縄で縛られ、エミリーは魔兵に捕まえられていた。クーレは後ろめたい気持ちがあり、2人の姿をまともに見ることができなかった。
「さて、これで済んだ。」ガイヤは満足そうに言った。
「では王宮に連れて帰りましょう。」クーレが言った。
「いや、そんな面倒なことはせぬわ。ここで2人とも始末するのだ。」ガイヤはクーレを見据えて言った。
「えっ! おっしゃった意味が分かりませんが・・・」クーレは驚いて目を見開いた。彼は2人を捕まえるだけでよいとガイヤから聞かされていたからだ。その様子を見てガイヤは鼻で笑った。
「わからぬか? ここでリーカーとエミリーを殺す。ワーロン将軍とザウス隊長からそう命令を受けていたのだ!」その顔には残忍な笑いを浮かんでいた。
「お待ちください。無用な血を流さぬとおっしゃたではありませんか。」クーレがやや強い口調で言い縋った。
「そんなことを信じているのか? よく覚えておけ。この世はだまし合いだ。信じたものは裏切られる。」ガイヤはきっぱりと言った。
「そんな・・・。エミリー様をお助けすると思ってあのような芝居をしてきたのに・・・」クーレは茫然とした。
「ふふふ。欺けばこそだ。それよりお前に手柄を立てさせてやろう。この2人を斬れ! そうすればお前はどんな汚いことでも平気でできるようになる。さあ、やれ!」ガイヤがクーレに命じた。
(俺にそんなことが・・・)
クーレは苦悩しながらも渡された剣をつかんだ。
「さあ、まずはエミリーからだ。リーカーの前で斬れば大いに嘆き苦しむだろう。」ガイヤはニヤリと笑った。目の前では魔兵に両腕つかまれて動けないエミリーがいた。
「クーレ! お前の剣はそんなことをするためのものか? その剣にお前に信じる正義があるのか?」縛られているリーカーが厳しい顔でクーレに問いかけた。
「うるさい! 剣に正義などない! あるのは血だ! 人を殺す血だけだ。さあ、やれ!」ガイヤはクーレを促した。クーレはエミリーの前に立ち剣を振り上げた。目の前のエミリーは殺されようとしているのに取り乱さなかった。ただじっとクーレを見ていた。
「・・・」クーレはその姿に心が揺さぶられた。そして覚悟を決め、大きく息をのむと剣を振り下ろした。
「ズバッ!」それはエミリーを捕まえている魔兵に振り下ろされた。そしてエミリーを助け出すと、すぐに横のリーカーの縄も切った。
「俺はもう迷いません。自らの正義のために剣を振るいます。」クーレはそう言いながら、落ちていた魔道剣をリーカーに渡した。
「うむ。そう信じていた。」リーカーは言った。だが、
「くそ! 裏切ったか! それなら俺自ら貴様を血祭りにあげてやる!」とガイヤが剣を振り上げてきた。
「カーン!」リーカーはその剣をはね返した。するとガイヤはまた剣を数本のムチにして襲い掛かってきた。
「***
リーカーはその剣をはね返した。そして飛び上がると剣を振り下ろした。だがガイヤは姿を消していた。
「隠れ術か・・・」リーカーは気配を探った。だがガイヤの気配はようとしてつかめなかった。
「俺の得意技だ。姿を見せねば攻撃できまい。」声だけが辺りから聞こえてきていた。リーカーは剣を構えてガイヤの出方をうかがっていた。
一方、クーレは剣を持ってエミリーを守っていた。魔兵が斬りかかってきたが、剣で何とか受け止めていた。そのクーレにはなぜか、ガイヤの姿がうっすら見えていた。
「旦那! 後ろです!」クーレが声を上げた。その声にエーカーは反応した。
振り返るや否や、
「***
を放った。すると頭から血を流すガイヤが姿を現した。
「おのれ! だが俺を倒したからといって貴様らの運命は死あるのみだ。ふふふ・・・」ガイヤは不気味な笑いを残してその場にばったりと倒れた。
「ふうっ・・・」リーカーは息を吐いた。強敵を倒したが、左上腕が鉄の作用で固くなり鈍い痛みを放っていた。
「旦那! 大丈夫でしたか?」クーレが駆け寄った。
「おかげで助かった。」リーカーは礼を言った。クーレがいなければ今頃ガイヤの剣の餌食になっていただろう。
「いえ、それほどでも。」クーレはうれしくて頭をかいた。
「クーレ。君の心には純粋さがある。だから邪悪なガイヤの魔法の隠れ術を見破ることができたのだ。剣にとって重要なのはその心だ。澄んだ心があれば剣を極められる。」リーカーは言った。その言葉にクーレはうなずくと、
「俺はまた修行をし直します。ビンデリア一の魔法剣士を目指します。」と言った。
「それがいい。」リーカーは大きくうなずいた。
「それから俺の知っていることを話します。旦那たちを狙って、この森には他にも魔騎士が来ています。それならいっそのこと、ここを出てマールの町に向かわれたらどうでしょう? あそこなら身を隠せるところも多いと思います。」クーレは言った。
「そうか。うむ。そうしよう。」リーカーがそう言うとエミリーは嬉しそうだった。それはこの陰鬱な森に少々、嫌気がさしてきているからだった
「では、行くか!」リーカーはクーレに別れを告げて、エミリーとともに歩き出した。その足取りは軽かった。
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