第15話
八月二十九日、日曜日。
受賞作の書籍が販売を開始した。
SNSなどで、最優秀賞を受賞した作品として期待されていた。
タグをつけて投稿して、トレンド入りまでした。おかげで重版をすることが決まった。
自分の家にもその書籍のサンプルが届いている。自分の名前が刻まれているこの本をもらった時のわくわくは今でも覚えている。
アニメの掲示板でも話題になっていて、小説の中に出ているキャラの恋愛ストーリーを応援している人もいる。
続編は書くことは決まっているが、アイデアがないとなればなくなるかもしれない。
この物語は、二人が恋愛して同棲することがエンドだと考えている。
受賞したこの作品は実体験のことを書いていて、体験してないことは書くこともできない。
想像で書くことは可能ではあるが、それが面白いかは別の話だ。
今日の朝も蒼と一緒に歯を磨き、朝食を食べる。
小説の一巻目のラストも幸せな日常を一緒に過ごして終わることになっている。普通
に毎日食事をしたり、会話をするだけで自分はそれでよい。
読者がそれを求めているのかわらないけど、僕にはこれ絵がベストの終わり方だと思う。
毎日の日常が貴重で、それが何よりも宝物である。
この内容だったら、二巻目は多分出版されないと思う。
なので、小説家の人生はこれで幕を閉じたのかもしれない。
この日も、料理のブログを書いている。
蒼と同居してから初めて、料理の趣味は仕事になりつつある。料理本も10万本を売り上げてベストセラーだった。
レシピへの説明も詳しくて、写真も新しく一眼レフを使い画質をよくした。その結果、今ではフォロワーが数万人いた。
その中のフォロワーが僕の本をツイートしてくれて、どんどん広まっていると担当さんの光さんが言っていた。
このままだと、初版の初日売り上げがレーベル初めての好記録がでる。
自分たちのストーリーがたくさんの読者に盛られることはうれしかった。
コン! コン!
部屋のドアがロックされて、蒼が入ってきた。
「今日の夜、また夏休みがあるから行かない?」
学生たちは最後の夏休み一日。この日に夏祭りを特別に開催されているらしい。
夏休みの最後の一日の印象は、たまった宿題をまとめて書いていた思いでしかない。
「行きます。」
夏祭りは僕がこのストーリーのラストとなった出来事である。
行かないわけがない。
今日の夜の六時に開催される。同時に花見大会もあるので、この前の日と何も変わらない。
また、蒼が射的屋でげーむきをとるのかな。そう思いながら楽しみにしていた。
もしかしたら、また小説の続きのアイディアが産まれてくるかもしれない。
「たのしみだな。」
蒼に向かって言うと、縦にうなずいて部屋を出ていった。
今日は、僕と蒼も仕事があったので、各自の部屋で作業をすることになった。
今までのブログの記事を見ると、今まで料理を食べた蒼の反応がすべて記されている。
それを卒業アルバムのように夏化しながら、読んでいく。
ここまで、色んな事があった。
仕事を辞めて、蒼と出会うまでこんな奇跡が起きるなんて。
本当に感謝しかない。
これまでの出来事は小説の中にあり、もう一度朗読すると恥ずかしさと主人公に嫉妬
までしまった。
自分の気持ちを本に書いたので、共感することばっかだ。
数週間前の自分はそう考えていたのかと日記感覚で楽しめた。
ここまで、長かった気がする。たった一か月蒼と生活しているだけで、今はブロガー
でインフルエンサーで小説家。
こんな幸せなことがあっていいのか。
「夏祭りがたのしみだ。」
*
夕暮れ時、着物に着替えて祭りに行く準備をする。
今着ている青の着物は、蒼の会社の同僚にもらったもので今でも残してある。
たしか、その人の息子が190センチで巨大だったな。
聞くところによると、高校の全国大会で活躍をしているらしい。卒業まじかで、色ん
なプロチームからのオファーも来ている。
毎日一つの目標に向かうことが素晴らしいとこの期間深く感じた。
貴重な体験を毎日したからこそ今の自分がいる。
たくさんの人に支えられ、サポートもされた。
分からないこともたくさんあった。壁も何度もぶち当たった。
自分は幸せ者だな。
「準備できた?」
蒼はドア越しで話した。部屋のドアをかけ家を出る。
「行くか。」
前と同じく黒の着物を着た蒼が立っている。
小説を読み終わった後かもしれないが、いつもよりかわいく見える。
小顔な顔で、目つきも好き。自分の中でもう、蒼は恋愛対象として見ている。
蒼は紛れもない男性である。
分かっているからこそ、今回の小説を書くことができなのかもしれない。
自分の妄想を膨らましてできた作品だから。
家の鍵を閉めて外にでる。
「行ってきます。」
夏休みの最後の一日に思い出を作ろうと学生の着物姿が見えている。
開催される場所も前に行った神社と同じ場所にある。
二人並んで、歩いてゆく。
まるで、自分が小説の主人公に恥ずかしくて照れながら、祭りの神社まで歩く。
「人がいっぱいだね。」
前と同じくらいの来客がいた。
夏休みのひとつの思いで作りに。
夜ご飯は夜の祭りの屋台で済ませることになった。
いっぱい並んでいる屋台から、選んでいく。
おいしそうな匂いが飛び交っている屋台を回っていく。
「何が食べたい?」
蒼はあたりを見渡す。
「それじゃ、お好み焼きが食べたい。」
さっきから匂いが飛んできているお好み焼きの屋台に決めた。
ハムの肉を使用することによって匂いがほかの店と違う。
「お好み焼き二つ。」
注文をするとアツアツの鉄板にあらかじめ作ったお好み焼きのもとを入れる。
その中には、キャベツと青ネギが入っている。
ある程度形がまとまったら、ハムの肉を上にのせる。
それを豪快にひっくり返した。
完成したお好み焼きにソースを縦と横にバランスよく塗る。鰹節と青のりを上から散
らすと完成した。
代金を渡した後、お好み焼きを道食べる場所に向かう。
前に花火を見た、人がいない場所に行く。そこにはベンチがあり、花火もきっくり見
える絶好のスポット。
そこで夜ご飯のお好み焼きを食べる。
「いただきます。」
割り箸を割り食べ始める。
お好み焼きの上に載ってある鰹節は踊りを踊っている。
箸で、一口のサイズにして口で冷ましてから食べた。
鉄板なので、外はカリッとしていた。大きくバランスが良い鉄板は、家庭で作る味
とは違って格別においしい。
満足そうに蒼と僕は、次々とお好み焼きを平らげる。
「ごちそうさまでした。」
「美味しかった。」
食べ終わって、花火を待っている間、蒼は変な言葉を発した。
「キスしよ。」
「え?」
頭の処理ができずに何も返事することができない。魚の名前を言ってたのかな?
「キスね…。おいしいよね。」
蒼は顔をこっちに向け、喋る。
「接吻のほうのキスだよ。」
頭から処理できないこの状況でエラーを発信し始めた。
「何言ってるの…。男性同士とのキスなんて。」
蒼は唖然とした顔でこちらを見る。
「私は女性だよ。」
蒼は僕の手を取り自分の胸のほうに当たった。
手から得た感触はましょまろのように柔らかいものがあった。
これは女性の無名の途についているあれ。
「でも…。幼稚園の時男子の列に並んでいたよね。」
そう、蒼とは一緒の男子トイレに行ったことがある。
「まさか、性別手術したの⁉」
昔海外のニュースでそう言ったことができると書いていた。
「違うよ、家庭の事情で幼稚園では男性として過ごしたんだよ。」
蒼の両親は、幼稚園だった頃に亡くなっている。その時に養子として知り合いの人に
引き取られていた。
その時に性別を間違いて登録していたのが原因らしい。
そういえば一緒に男子トイレに行ったことがあるが、トイレをしているところは見た
ことがない。
「気づいてなかったの…。あんな小説書いているのに。」
僕も蒼も驚いていた。フィクションでしか起こらないと思っていた出来事が今目の前
で起こっている。
「そうなのか。」
喜んでよい状況だけど、自分はなぜか冷静になっていた。
自分が書いた小説が本当にそのようなことが起きるなんて。
そう考えると今までのつじつまがあう。
洗濯機で服を洗っていた時、女性ものの下着があったり、トイレに間違えて遭遇した
時に女性もののパンツを履いた事も女性だと問題がなくなった。
八時になり、花火大会が始める。
夜空には、満面の鮮やかな花火が。
夢中に花火を見ているところに、蒼は横からキスをした。
「え?」
柔らかいものがほっぺに当たる。
横を見ると、にっこりと笑う蒼がいる。
女性だと認識してみると、いつもよりもかわいいと思う。
その顔を見るともう我慢ができなかった。
花火を背景に僕らは、そこでキスをした。
ずっと我慢していた気持ちを花火のように爆発させた。
二人で見つめあう。
「好きです。僕と付き合ってください。」
その場の雰囲気でそのままラストスパートをした。
それは、もしこの機会を逃したらもう二度と告白できないと思ったからである。
蒼は、顔尾を隠しているが、笑顔でこちらに向かって。
「はい」と返事をした。
満面な笑顔の蒼のその笑顔を守りたい。
その日をきっかけに僕と蒼は、小説のキャラクターのように同居人から同棲生活へと
変わった。
毎日が幸せで。これ以上ないくらい充実している。
毎日が新鮮で、ドキドキしている。
アイディアがなく終わろうとしていた小説も第二巻の原稿を書き始めている。
貴重な毎日を小説という方法を記録をしていく。
終わりのない僕たちの生活は続いていく。
今日は何か起きるかな。
楽しみだ。
*
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