2 革命兵器
「ブルジョワ獣ハッケーン! 革命の名において貴様を粛清する! 覚悟しろ!」
五人の内の一人、赤いスーツを着込んだ人民服の青年――レッドが、改めてハッケーンを指さしながら厳格な声で死刑宣告を下す。
そう……彼らは人民を苦しめる悪の資本主義結社〝ブルジョワジー〟を粛清し、共産主義に基づく地上の楽園を築くために日夜闘う戦隊ヒーローなのである。
ちなみに〝ブルジョワ獣〟というのはブルジョワジーにおける、小隊長クラスに当たる中堅幹部だ。
「そうか、貴様らがあの……ええい! 返り討ちにしてくれるわ! 出でよ! 社畜兵!」
そのヒーロー然りとした姿を目の当たりにし、一瞬、驚きを覚えるハッケーンではあるが、彼らの存在はブルジョワジーの間でも有名らしく、すぐに自らの置かれている状況を把握すると下級兵士達を呼び寄せる。
「…利益優先……滅私奉公……成績重視……サービス残業……」
すると、その絶対服従である社長の命令に、洗脳のために言わされている言葉を呪文のように唱えながら、完全に目のイっちゃっているサラリーマン達がどこからともなくわらわらと湧いて出てくる。
「殺すなよ? 彼らは自主性を奪われ、ただ労働を強いられているだけだ!」
まるでゾンビのように襲いかかる社畜兵達をあしらいながら、リーダーのレッドが皆にそんな注意を促す。
「ああ、わかってる。気絶させて、後で再教育施設へ送るんだろ?」
そこら辺は言われるまでもなく心得ており、返事を返したブルー以下全員が、手加減を加えつつ社畜兵に立ち向かっていった。
さすがに戦隊ヒーローだけあってスタリンジャーは強い。軍隊格闘術コマンド・サンボを駆使してバッタバッタと社畜兵を一撃で沈めてゆく……あれよあれよという間に全員が床に転ばされ、残るはハッケーン一人となった。
「貴様で最後だハッケーン! 自己批判をし、その悪徳な資本主義思想を改めるのならば命だけは助けてやる!」
「フン! 小賢しいわ下層民風情が! これでも食らえ! 雇用主戦法奥義……派遣斬りっ!」
今一度、助命のチャンスを与えるレッドであるがハッケーンはそれを突っぱね、降伏する代わりに起死回生をかけて大技を放つ……彼が横薙ぎに手刀を一閃すると巨大な解雇通知書が放たれ、その鋭利な紙の端がレッドの首目がけて飛んでゆく。
「なっ…!?」
「危ない!」
その危機からレッドを救ったのはブラックだった。彼はその大柄な体躯を活かし、サポート部局の開発した〝鉄のカーテン・シールド〟を掲げてハッケーンの攻撃を難なく受け止める。
「すまないブラック! 助かった! よし! こっちも必殺技だ!」
仲間の助けにより九死に一生を得たレッドは、そのお返しとばかりにこちらも大技で勝負を決しにかかる……リーダーの指示を受け、彼らはそこらにあるソファやらテーブルやらの応接セットを組み上げると仮説のバリケートを作り、そこに各人が標準装備する〝AK-47――カラシニコフ型突撃銃〟をセットする。
「労働者の怒りと権利を思い知れ! 必殺! ストライキーキャノン!」
そして、五人同時に
「うぐあぁぁぁぁぁーっ…!」
カラシニコフ五丁の一斉掃射を受けたハッケーンは堪らず断末魔の叫びをあげて、その衝撃に背後にある大きな窓ガラスを割って眼下の地面へと落下してゆく。
「ふぅ……これでまた一人、社会を蝕む悪徳資本家を粛清することができた……」
あの一撃を受け、さらにこの高さから落ちては最早助かるまい……その状況に敵を討ち取ったものと安堵の溜息を吐くレッドだったが。
「労働者階級などに敗れるとは愚か者め! 今一度、我が傀儡となって労働力を提供せよ! 公的資金注入!」
その時、そんな男の声が天から響き渡り、上空を飛ぶプライベートジェット機から黄金色をした高エネルギーのビームがハッケーンの落ちた地面へと照射される……それは、ブルジョワジーの大幹部、金融技術顧問のDr.TKの声である。
「民事再生ぇぇぇーい!」
すると、死んだと思われたハッケーンがむくむくと大きくなり、周囲のビルに匹敵するほどの巨大な姿へと変貌した。
「大ブルジョワ獣になったか! よし! こっちも機動兵器で勝負だ! 本部! 至急、全員の赤軍マシンを出動させてくれ!」
その巨大化したハッケーンを割れたガラス窓越しに眺めながら、胸の党員バッジに内蔵された無線機でレッドは本部へと連絡をとる……すると、時を置かずして五体の機動兵器が彼らのもとへ自動操縦で送られて来る。
まず空からはMiG-21戦闘機とMi-8汎用ヘリコプターが、陸路ではT-54戦車とBM-8――自走式多連装ロケット砲車両のカチューシャが、さらに河川を遡上してプロイェクト型原子力潜水艦までが到着する。
「いくぞ! とうっ!」
それを見て、レッドの合図で五人は次々とガラス窓から飛び出し、各々の赤軍マシンへと乗り込む。
「みんな、準備はいいか! よし! 合体だ!」
だが、彼らはそのまま戦おうとはしない。コクピットの脇にある〝コルホーズ〟と記されたレバーを各々が引くと、五体の赤軍マシンは変形合体を始める……。
レッドが乗るプロイェクト型原潜が胴体となり、ブラックのT-54戦車とピンクのカチューシャが両脚に、ブルーのMiG-21戦闘機とイエローのMi-8ヘリコプターが左右の腕となる。そして、原潜の艦橋が移動して頭部になると、一体の巨大ロボットが完成する。
「完成! 〝ボリシェヴィキ書記長〟!」
変形合体シークエンスが完了すると、それぞれのコクピットで声を揃え、スタリンジャーの面々はそのロボの名を誰に言うとでもなく高らかに告げた。
「ハッケェェェェーン!」
だが、その巨大ロボにも臆することなく、巨大化したハッケーンは掴みかかってくる。
「ボリシェヴィキ・ハンマー! ボリシェヴィキ・サイズ!」
対して巨大ロボ〝ボリシェヴィキ書記長〟は、やはり巨大なハンマーと鎌を軽々と振り回し、その接近を許そうとはしない。
「ハ、ハッケェェェ~ン!」
逆にその大質量の打撃を受け、堪らずハッケーンは怯んでしまう。
「今だ! これで決めるぞ! 必殺! ピチリェートカ!」
その隙をスタリンジャー達は見逃さない。巨大ハンマーと鎌の二刀流で同時に高出力のエネルギー斬撃を放つ。これは、以前より五ヶ年計画でバッテリーパックに貯め込んでいた量子エネルギーを一気に放出する〝ボリシェヴィキ書記長〟最強の大技である。
「ハッケェェェェェェェーン…!」
〝X〟字に斬撃を食らった大ブルジョワ獣ハッケーンは、断末魔の叫び声をあげて爆破炎上する。
「おのれ下層民どもが! これで勝ったと思うなよ!」
すると、また上空よりDr.TKの声が木霊し、彼の乗るゴールドの専用プライベートジェットがエンジン音を轟かせて遠ざかってゆく。
「今度こそ勝利だ! 共産革命万歳! スタリンジャー万歳!」
「スタリンジャー万歳!」×4
巻き上がる紅蓮の炎と煙の中、敵が逃げてゆくその様子をコクピットで眺めながら、レッドとその仲間達は歓喜の声を高らかにあげる。
今日もまた一人、低賃金で労働者をこき使い、暴利を貪る悪徳資本家が退治された……なお、この戦闘によって街は大きな被害を被ったが、それは偉大なる革命のための微々たる犠牲である――。
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