革命戦隊スタリンジャー
平中なごん
1 革命戦士
某国都内某所のオフィスビル……。
「――なに? 社畜どもが賃上げ要求を画策しているだと? 奴隷のくせになんと生意気な……そんなやつらはパワハラを加えて自主退職させてしまえ!」
サービス残業を強いられる社畜達もようやく退社時間となり、しん…と静まり返った深夜の代表取締室で、この大手派遣会社のCEOハッケーン・ナリキンスキーは、苦虫を嚙み潰したような顔で怒号を響かせる。
今、彼の目の前に立つゴマすりでのし上がってきた系の中間管理職の男により、そんな社員達の動向報告を受けていたのだ。
「まったく、正規社員というものは金食い虫でいかん。わしはな、自社の社員もほとんどを派遣に切り替えようと考えておる。いつでもこちらの都合で首を切れるし、低賃金で働かせ、その上前を撥ねるだけで大儲けができるんだからな。Dr.TKはなんとすばらしいシステムを生み出してくれたことか。ガハハハハ…!」
「そうは人民公社が卸さないぞ!」
だが、その時、どこからかそんな男の声が静かなフロア内に響き渡る。
「誰だ!? もうとっくに退社時間は過ぎているぞ! 残業代はびた一文つけんからな!」
その声に再びハッケーンが怒鳴り声をあげると、部屋のドアがバン…!と勢いよく開き、五人の男女が突然、侵入してきた。
その内訳は、モスグリーンの人民服に赤いマフラーを巻いた青年と、水色の作業着を着た若い男、背の高い農夫姿の黒人男性に、小柄なコックの制服を身に纏うアジア系男性、さらに紅一点、薄桃色のナース服を着た若い女性だ。
「ハッケーン・ナリキンスキー……いや、ブルジョワ獣ハッケーン! 労働者の人権を無視した貴様のやり方はすべて確認済だ! 当局に訴えられたくなければ今すぐ労働条件を改善しろ!」
その五人の先頭に立つ人民服の青年が、ビシっ! とハッケーンを指さしながらそんな大見得を切ってみせる。
「フン! 下層民が何をぬかすか。訴えたければ訴えるがいい。大物政治家や関係当局の官僚には常日頃から
だが、青二才の脅しなどどこ吹く風と、厚顔無恥なハッケーンは下卑た笑みを浮かべながら、さらに自らの悪事を聞いてもいないのに白状してみせる。
「なんという恥知らず! 資本家というやつらはどこまで人間が腐っているんだ! 仕方ない。ならば我らの手で今すぐ粛清してやる……みんな、いくそ!」
「おう!」
その悪びれもしない態度に青年が皆に合図をすると、彼らは全員、腰のベルトから小さな〝ハンマー〟と〝鎌〟を取り外して左右の手に握る。
「プロレタリア・チェンジ!」
続けざま、全員揃ってその二つを胸の前でクロスさせると、そんな言葉を同時に唱えた。
その瞬間、赤・青・黒・黄・桃…五色の光が各々の身体を包み込み、その姿を一瞬にして変化させる……五人それぞれの色の光沢あるツナギを纏い、頭部にはゴーグル部がスモークになった、やはり同じ色のフルフェイス・ヘルメットを装着する。ただし、ライダー用のそれではなく、その形状は工事現場や鉱山労働で用いられるもののような感じだ。
そんな特殊スーツに身を包んだ彼らは、順番に決めポーズをとりながら各々に名乗りをあげてゆく……。
「燃え上がる赤き革命精神……スタリン・レッド!」
「ブルーカラーは労働者の証……スタリン・ブルー!」
「アフリカ系の受けし差別と迫害の歴史……スタリン・ブラック!」
「アジア系移民へのヘイトを許すな……スタリン・イエロー!」
「男女平等・雇用機会均等……スタリン・ピンク!」
そうして各人が名乗り終えると、今度は五人全員でポーズを決めながら、その名を高らかと夜のオフィス内に轟き渡らせる。
「世界を改革する五人の同志、革命戦隊スタリンジャー!」
と同時に室内であるにも関わらず、彼らの背後でドドーン…! と爆炎が派手に燃え上がった。
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